ニューゲーム・スタート
はたと目が覚めた時、それは見慣れた自室……ではなく豪奢な天蓋だった。
目を二、三回瞬かせて昨日もまたゲームをやり込んでいたから寝ぼけているのかと思った。
まあ、よくあることだ。
またやってしまったと小さく伸びをする。
(そろそろお母さんが起こしにくるなあ……。高校三年にもなって、もっと早起きできないの!……って)
あくびをかみ殺しながら、ゆっくりと起き上がる。
「……な訳ないじゃん!」
もう一度布団に寝そべって、私は枕の上辺りを探った。
「お母さんがくる前にもうひとプレイしようっと!」
田舎暮らしで娯楽もない。その上、家では毎日毎日勉強……と。
まるで輝きもないJK生活を送る私、幸田梨沙子は親にこっそり隠れてゲームに興じるのが日課なのだ。
乙女ゲームの金字塔「ロマンスプリンセス」。
通称「ロマプリ」をクラスメイトに借りてからというもの。そのちょっと切なくも甘いストーリーや、コンプレックスや悩みを抱えつつもヒロインと恋に落ちるキャラクターにどっぷりとはまってしまい、クリア300回を超えても未だプレイし続けている。
最後には悪を倒してハッピーエンドを迎える展開がとにかく最高なのだ。
「今日はどうしよっかな……? またアルフレッドルートにしようかな? あー、でももうちょっと切ない系のシナリオを……」
そう、ゴソゴソと枕の下をさぐる。
「あ……あれ?」
しかし、いつもの携帯ゲーム機の硬い感触が捕まえられない。
「おかしいなあ……。寝ぼけて布団の外にでも落としたかな?」
寝ぼけ眼でのろりと起き上がると、視界を遮ったものに目がクギ付けになる。
「なんだろ……これ?」
つまむようにして持ち上げる。亜麻色の糸……、いや髪の毛だ。
コスプレの趣味はないのに、ウイッグでもかぶったのかな?
そう思うも引っ張れどビクともしない。そうしているうちに気づいてしまった。
周りの変化に。
視線の先に掲げられた鏡に映る自分の姿に。
六畳一間の和室。―ーそれが私の小さな城だったはずなのに。
「なっ! なにこれええええ!!!!!」
明らかに高い天井と、ロココ調のような豪奢な家具。
天蓋のついたベッドで眠る私は、某ファッションセンターで900円のパジャマじゃなくて繊細なレースのついたネグリジェで……。
部屋もなんだかいい匂いがする!それもなんだかお高めの!
香りも光もなんだかきらびやかで、私だけが場違い感半端ない。
グッズ購入のため、節約省エネ生活を心がけていたからこんな眩さには慣れてない。
全てがキラキラしてくらりと目眩するグッと堪えた。
「ど……どういうこと?」
未だこのキラキラな空間に目が慣れず、思わず額にそっと指を添える。
目をこすってもう一度開けてみるも、見えたのは一面ロマプリのポスターやらグッズやらではなく、さっきのキラキラな家具だった。