アルフレッドの本音
私は改めて馬車に乗って、王宮へと向かっていた。
婚約破棄された身でありながら会ってくれるのかとは思ったが、こちらの申し出に対してすんなりとオッケーが出たのは正直面食らった。
「でも……一体何が気に障ったんだろう?」
楽しんでいなくとも、失礼な振る舞いはなかったと思う。
「は……っ! まさか!」
あまりにもはしゃいでいた私の態度にイラついたのかもしれない!
オタクあるあるだ!
熱中するものを見ると、ついつい周りが見えなくなって失礼なことをしちゃうやつな!
「うわあ……やってしまった」
品評会の出来があまりにも良すぎて舞い上がってしまったのは否めない。
わー、どうしよ。
完全にやらかした。
一応、農園で採れた一番いい素材で作ったお菓子を持ってきたのに帰って逆効果になってしまったかもしれない。
「まあ……とにかく先ずは謝らないとね」
ため息をつきながら馬車に揺られ王宮へと着いた。
案内された先は、応接間……ではなく、中庭の東屋だった。
白いラタンとガラスで出来た椅子とテーブルに案内される。
「殿下はもうすぐ来ますので、しばらくこちらでお待ちください」
「は……はいっ!」
背筋がピンと伸びる。めちゃくちゃ緊張する。
リーザの記憶を見ても、ここに案内されたことはないからだ。
いわばこの中庭は王族のプライベート用で簡単には出入り出来ない。
なんでまたこんな訳ありなところに通されてしまったのだろうか。
「き……きっとこれも何かのフラグイベントなのよね」
慎重にしないときっとやられてしまう。
ごくりと喉がなる。
周りは季節の花々が咲き乱れて綺麗の光景が広がっているというのに、私の心の中は心臓の音がせわしなく鳴り響いていた。
「待たせたな」
戦々恐々として待っていると、アルフレッドが現れた。
「すまない。公務が押してしまった」
「こちらこそ突然お伺いしてしまい」
「いいや。俺こそ、お前に会いたかった」
(……っ! 会いたかったって何? まさか、何か一言物申すってこと?)
「まあいい。一息つこう」
「あ……ええ」
テーブルの上に置いてあるポットからお茶をそれぞれのカップに注ぐ。
「それはなんだ?」
「あ……えっと」
アルフレッドが指差したのはバスケットだ。
「うちの農園でとれたものを使ったスイーツです。ですが、考えてみれば必要はなかったですわね……」
テーブルの上には焼きたてのクッキーやパウンドケーキが並べられている。
「いや……、せっかく持ってきてくれたんだ。食べよう」
「でも」
「俺が食べたいんだ」
そこまで言われたらと、同じように持って来たスイーツを並べていく。
「お口に合うかどうかわかりませんが……」
「先日食べたものも美味かった。そう心配することはない。ところで何か話があるんだろう? ここは滅多に人が来ない。周りを気にせず本音を喋るといい」
「あ……」
気遣ってくれたんだ。
特に起こっているわけでもなさそうでとりあえずホッとする。
「実は先日……突然帰られたので、何かまた失礼なことをしてしまったのではないかと気が気でなくて……」
「そのために……わざわざ?」
「あ……そうですよね。アルフレッド様は公務で忙しいのに、大変申し訳ございません」
「いやそういう意味じゃない。そうか……、そうだよな。俺があの場から消えたのは何もお前のせいではない」
「では……なぜ?」
私の問いかけにアルフレッドの顔が曇る。
「……」
「あ、言いたくなければ無理には……」
「お前が、眩しかったからだ」
「え?」
「お前は俺に見合わないからと言った。だが俺から言わせてもらえばお前の存在は眩しい。自分の境遇に甘んじることなく、努力を重ねて結果を出している」
「え……でもしかし。殿下だって日々公務に励まれているわけですし、努力をしていないわけでは」
しかし、私の言葉にアルフレッドはゆっくりと頭を振る。
「そんなことはない。基本は兄の受け売りだ。それに、俺とお前の違いはお前は自分のスキルと好きなことで成功している。俺とは雲泥の違いだ」
「あ……」
そうだ。
アルフレッドには兄がいる。
同じくらいのイケメンなのだが、ある日突然失踪しアルフレッドは皇位継承権第一位としてプレッシャーに晒されるのだ。
(設定上は完璧超人とされてるもんね、お兄さん。それと日々比較されてるってことだもんね……)
ルートの序盤でアルフレッドが主人公に冷たく当たるのはストレスとプレッシャーによるものなのだ。
今も辛そうなアルフレッドの横顔に胸がギュッとなる。
(もし、私が何か力になれるのなら……、私頑張りたい)
今私は田舎の貧乏女子高生ではない。
思わぬ転生ではあったけれど、いまは財力もコネもある。
推しが苦しんでいるのに、手を差し伸べないなんてできるはずも無い!
「アルフレッド様、今やりたいことはありませんか?」
「は? なんだ突然」
怪訝な顔をして見上げるアルフレッドに私はにっこりと笑いかける。
「先ほど私のことを好きなことで成功しているとおっしゃいましたよね。私にはアルフレッド様が好きなことが出来ずに悔しい思いをしているように見えます。そのことを私にお聞かせ願えませんか?」
「そ……そんなこと突然言われても」
「大丈夫ですよ! ここには私しかいません。それに滅多に他人が来ないと言ったのはアルフレッド様じゃあありませんか。心配しなくても私は馬鹿にしたり、笑ったりしたりしませんよ。ね?」
「……」
アルフレッドは意を決したように私をまっすぐに見た。
そして静かに瞼を下ろすとゆっくりと口を開いた。
「……本当は兄を支えるべく、剣と魔法を磨き上げる予定だったんだ。だが今は叶わない……」
「え? どうして?」
「公務もあるし、王宮内では剣も魔法も近衛兵の仕事なんだ。学ぼうにも側近や貴族に反対されている。どちらかといえば俺の実力よりもお飾りとしてのカリスマ性の方が大切なんだと感じる節もある……」
つまり、周りの人間が全部アルフレッドを応援してるってことでもないんだな、きっと。
「なるほど。それはストレスが溜まりますね」
「すとれす?」
「あ……いえ、なんでもありませんわ。それでどうなさりたいのです?」
「俺はまだ王座に着くには未熟なんだ。もっともっと研鑽を重ねたい。だが周りがそれを許さない。仮に時間が出来たとして、王宮内では邪魔されてしまうんだ」
「うーん……」
ということは、邪魔されないで羽根が伸ばせて勉強できる環境があればアルフレッドは幸せってことよね?
なあんだ。簡単なことじゃない。
今の私だったら叶えてあげられるわ。
うん、このために私は働いているのだから!
「大丈夫ですわアルフレッド様!」
「リーザ?」
「私にお任せください! アルフレッド様の悩みをババっと解決してご覧に入れますわ!」
私は満面の笑みでアルフレッドの手をぎゅっと握った。




