これは、突破口なのではないかしら?
「はあ……っ。はあ……しんどい」
あまり運動してないだろうこの体ではすぐに息が切れてしまう。
むむ。後で筋力トレーニングも考えなくちゃいけない。
慣れない体で走り出すこと15分。
「つ……ついた!」
額に浮かんだ玉のような汗をぬぐいながら私は感嘆の声をあげる。
目の前に広がる、広大な大地。
一面に広がる土の所々には作物が植えられ風に揺れている。
そしてかすかに漂うい草の匂い。
その先には煉瓦造りの建物がそびえ立つ。
きっとあれは牛車か何かだろう。
その間を優雅に流れる水路。
私の目の前には理想の光景が広がっている。
そう、これは立派な農園なのだ。
「す……すごいわ」
小道を歩きながら進むと、所々に農夫の姿が見えた。
姿形で遠目でも分かるのだろう。
みんな軽く会釈してくれる。
私の中のリーザの記憶が、シャルトワース家が運営している農園なのだと教えてくれる。
「さすが……貴族ともなると大規模ねえ……。あれ?」
ふと見上げた先、おそらく廃棄する農作物を積み上げているのだろう。
牛に引かれた荷車が畑脇に止まっていた。
いやそれは問題ないのだ。
私が気になっているのはその積み荷だ。
じゃがいもやら人参やら、見事な野菜が乱雑に積み上げられているのだ。
「ちょ……! ちょっと待ったああああ」
「ひいっ! リーザ様?」
思わず駆け寄ると、 農夫の一人が飛び上がった。
「こ……これどうする気?」
「どうするも何も……、廃棄ですよ。使えませんので」
「なんで! 確かにちょっと小ぶりかもしれないけど、全然売り物になるじゃない?」
「はあ……ですが、基本少しでも形が悪いとお屋敷におろしてはいけない決まりになっておりますので」
「ほ……本当に?」
こんな立派なジャガイモなのに?
人参やピーマンだってみずみずしくて、生でも食べられそうなくらいだ。
私の手先が震える。
うおお、この世界の貴族たちは生産者の方々に失礼すぎるのでは?
「ほ、本当に捨ててしまうの?」
「ええ。まあ埋めて肥料にするか、このまま腐るのを待つだけですねえ……」
「そんな……」
私は落胆のあまり、ジャガイモを握りしめる。
ショックなのだ。
私の家は小さいながらも農家と酪農を生業としていた。
こんな……、立派な農産物を捨てる?
もったいないおばけが出るよこんなの!
いや、そもそもこんな立派な農場を持っておきながら上手く使いこなせてないに違いない。
はー! 歯がゆい!
私だったら絶対いい使い道を考えるのに……。
ん?
使いみち?
「リーザ!」
私を呼ぶ声に振り向くと、メイドたちと一緒にこちらにかけてくる人影が見える。
「だ……旦那様!」
農夫が驚きの声をあげてその場にひれ伏した。
リーザの記憶が私に告げる。
近づいてくるリーザと同じ金髪の初老の男性。
それがリーザの父親であると。
「どうしたのだリーザ! 皆が叫び声をあげてお前が飛び出して言ったと聞き、慌ててこちらに駆けつけたのだ。……まあ、無理もない。あれだけ慕っていたアルフレッド王子から婚約破棄されるなどお前にとってはショックだろう?」
「あ……、いえ。私はアルフレッド様が幸せならそれでいいので。正直そこまででも……」
しかし父親が私の手をぎゅっと握る。
「王子のことは任せなさい! 私が国王に相談し、お気持ちが変わるように説得してみせよう。それよりも、お前をまず元気づけないとな。何か欲しいものはないかい? 靴でも、宝石でもお前の好きなものを買ってあげよう!」
「ほ……本当ですの?」
「ああ、もちろんさ。なんでも言ってごらん。お前の望みを出来る限り叶えてあげよう」
なんでも?
私の口元がにっこりと歪む。
「でしたらお父様。私、お父様にお願いがございますの」




