表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/44

第44話 家族

 私はシメオンを背負い、引きずるようにして夜の街を歩く。

 この時間に神殿や教会に行っても、まともに相手にしてくれないだろうことは分かった。


 だから私が向かったのは、少し前に教えて貰った、セリーヌさんの住んでいる場所だった。


 住所を聞いただけで一度も訪れたことはなかったが……

 なんとか、そこに辿り着くことができた。


 聖職者が住むにしてはやや貧相なアパートの一室のドアを叩く。


「セリーヌさん、セリーヌさん、セリーヌさん……」

「……その声は、ショシャナね? こんな夜遅く、どうしたのよ」


 眠そうな、やや不機嫌そうな声と共にドアが開く。


「どうしたの? ……血の匂い!?」


 怪訝そうな表情のセリーヌさん。

 その顔を見た途端、私は気が抜けて、倒れてしまった。


「ちょ、ちょっと……何? この怪我は? 何があったの!?」

「助けて、ください……シメオンを……」

「おい、セリーヌ。どうした!? 血の臭いが……」


 アパートの奥から男性の声がする。

 同時に意識が遠のく。


「……アレク、今からひとっ走り、シャルロットのところに行ってきて」

「……ああ、分かった」


 ああ……これで、助かる……





「うっ……痛い!!」


 私は足に走る痛みで、跳び起きた。

 

「あら、丁度起きたようね」

「……セリーヌさん? って、痛い、痛いです!」

「我慢しなさい」


 ギュッと、セリーヌさんが包帯をきつく締める。

 そのたびに強烈な痛みが走る。


「クロスボウの矢が足首の骨にまで達していたわ。反しがついてたから、外科手術で骨を削って取り出した。痛いのは、当然ね」


「ほ、骨を削った!?」

 

 想像しただけでゾッとする。

 

「左足の膝から下は使いモノにならなくなったと思っておきなさい」

「そんな……いや、そんなことは、どうでも良いんです! シメオンは? シメオンは一体……痛い!!」

「落ち着きなさい。……急に起き上がろうとしない」


 そう言いながらセリーヌさんはゆっくりと、私を起き上がらせてくれた。

 私を肩に抱く形で、歩くのを手伝ってくれる。


「こっちよ……シャルロット、容体はどうなってる?」

「良くも悪くも、変わりはありませんね」


 もう一つのベッドの傍らに立っていたシャルロットさんはそう言った。

 その側のベッドにはシメオンが横たわっていた。


「シメオン……痛い!」

「だから、落ち着きなさい」

「はい、どうぞ。椅子です」


 私はシャルロットさんが用意してくれた椅子の上に座る。

 そしてセリーヌだんとシャルロットの顔を見る。


「その、シメオンは……生きているんですか?」

「一命は取り留めたわ」

「生きている、というよりは生かしている、ですけどね」


 生かしている?

 それは……あまり、良くないということだろうか?


「ちょっと、シャルロット!」

「嘘を言っても仕方がないでしょう。……内臓の損傷が酷過ぎます。もって、三日の命です。というのが、セリーヌさんの見立てです」

「……本当ですか?」

「……できる限りの手を尽くすわ」


 ……そんな。

 どうしよう、私のせいで、シメオンが……


 嫌だ、嫌だ、嫌だ……また、大切な人を、失うなんて、絶対に……


 あ、そうだ!


「エリクサー、エリクサーがあれば、治るんじゃないんですか!?」

「まあ、確かに治るけれど、エリクサーは教会に保存されているし、使用許可申請が通るには最短でも一週間が……」

「ありますよ、エリクサー」


 暗い表情で言うセリーヌさんの言葉を打ち切って、シャルロットさんが明るい声で言った。

 その手には薬瓶。

 そのガラスの管の中には、真紅の液体。


「え!? ちょっと、シャルロット! あるなら、あるって、先に……」

「お金を払うのはセリーヌさんではありませんから」


 シャルロットさんはそう言って、私に視線を合わせてきた。


「私たちモンモランシ家は、エリクサーを錬成できます。管理権は普遍教会にありますが……まあ、融通できないこともありません。ただし、そう易々と、渡すわけにはいきません。ケジメというものが、ありますから」


 じっと、シャルロットさんは碧い瞳で私の目を覗き込む。

 それは深く、そして冷たい青だった。


「十万ディナルです。ショシャナ様、支払えますか? ……その一生を掛けて」

「支払います! 何でもします!!」


 迷う余地はない。

 私は即答した。

 すると、シャルロットさんは……満面の笑みを浮かべた。


「その答えが聞きたかったです。……じゃあ、セリーヌ様」

「任せなさい」


 ニヤリ、とセリーヌさんは笑い、薬瓶をシメオンの口元に近づける。

 

「飲める? シメオン君」

「……」

「少し困ったわね、どうするか……」

「貸してください!」


 私は立ち上がり、セリーヌさんから薬瓶を奪った。

 ズキズキと痛む足を引きずり、シメオンのもとまで歩く。


 私は薬瓶を開け、エリクサーを口に含む。

 そしてシメオンの口を強引に開き……


「んぐ……」

「あらあら……」

「……」


 シメオンの喉が、僅かに動いた。

 飲んでくれたようだ。


「セリーヌさん、これで、良いですか?」

「……ええ、大丈夫よ。任せなさい」


 セリーヌさんはそう言うと、その白い手をシメオンの腹部に当てた。

 柔らかい光がシメオンの体を包む。

 そして……


「ん? ……ここは、どこだ?」

「シメオン!!」

「ちょ、ど、どうした!? お、おい、説明をしろ、ショシャナ!?」

「シメオン、シメオン、シメオン……生きてる、生きてる、生きてる!!!」


 シメオンの鼓動を聞きながら、私は心の底から安堵した。






「ぅぅ……ぐすぅ」

「はいはい、ショシャナ様。離れてくださいね」


 強引にシャルロットさんに、引き離される。

 止まらない涙を手で拭っていると……シャルロットさんがハンカチを手渡してくれた。

 

「体調は? シメオン君」

「えっと……大丈夫です。何ともない……あれ? 俺、矢で射られたはず……」

「さすがはエリクサーね。怪我も治して、失われた血液も戻って……完全な健康体ね」


 診断は終わったらしい。

 とにかく、シメオンは助かったようだ。

 本当に良かった……


「エリクサー? ……って、あのエリクサー!?」

「ええ、そうですよ」


 驚くシメオンに対し、シャルロットさんは頷いた。

 そして悪戯な笑みを浮かべる。


「十万ディナルでエリクサーを買うと、ショシャナは即決してくれました」

「じゅ、十万って、お、お前……」

「シメオンの命に比べれば、そんなの、安いものです」


 私の一生で十万ディナルを返せるかは分からないけど……

 もしかしたら、ずっと貧しい生活をしなければならないかもしれないけど。

 それでも、シメオンが無事なことの方が、ずっと、ずっと重要だ。


「それで、シャルロットさん。えっと、支払いはどうすれば……」

「ああ、別に要らないですよ」

「え?」

「やだな、友達からお金なんて取りませんよ」


 そう言ってシャルロットさんはウィンクをした。

 い、いや……でも、エリクサーって貴重だし……


 ううん、しかし十万ディナルはさすがに、一生かけて返せるか分からないから、ここは好意に甘えるべきなのか……あー、でもなぁ……


「じゃあ、ショシャナ様の持っているゲーム機、あれで手を打ちましょう。どうですか?」

「分かりました。安い物です」


 ここはシャルロットさんの好意に甘えよう。

 冷静に考えてみると、この人からすれば十万ディナルなんてはした金だろうし。


「でも、どうしてあんなことを聞いたんですか? ……ちょっと意地悪ですよ」


 ふざけている場合じゃなかったはずだ。

 と、私が不満を口にすると、シャルロットさんはケラケラと笑った。


「エリクサーはですね、濃縮された“神秘”なんです」

「それが、どうしたんですか?」

「“神秘”はあらゆる“奇蹟”を起こします。でも、“神秘”単体では“奇蹟”は起こりません。相応の願いがないと……分かりますか? つまり、十万ディナル程度躊躇する程度では、どのみち助かりはしなかったでしょう」


 貴重なエリクサーを浪費するわけにはいきませんからね。

 と、シャルロットさんは飄々と言った。


 うーん、ちょっと納得いかないけど……そういうことにしておこう。


 と、そこで私は重大な事実に気付く。


「いったぁああああ!!」


 思わず足を抑える。

 ズキズキと、強烈な痛みが走る。

 

 包帯からは血が滲んでいた。

 痛みと出血で視界がクラクラする。


「無理に立つからでしょう……全く」

「ぅぅ……シャルロットさん、エリクサーの残り、ないですか?」

「ないことはないですけど……十万ディナル、今度は本当に請求しますよ?」

「い、いえ、やっぱり良いです」


 私はなんとか、立ち上がろうとするが……痛みで思うように立てない。

 ……これは本当に、ダメになったかもしれない。


 骨を削ったとか、言ってたし。

 杖、買わないとな……


「ショシャナ、大丈夫か?」

「ちょ、ちょっと! それはこっちの台詞ですよ!」


 ベッドから降りて私に駆け寄ってくるシメオン。

 しかし情けないことに、シメオンに支えて貰わないと、まともに立てなかった。


「負ぶってやる」

「で、でも……」

「大丈夫よ、ショシャナ。エリクサーを使ったんだし。むしろ、いつもよりも調子が良いくらいじゃない?」

「あらゆる体の不調が治っているはずですからね」


 むむ……そう、なのか?

 いや、でも……こ、この場でおんぶは、ちょっと……その、は、恥ずかしい……


「ほら、早くしろ」

「……」


 仕方がない。

 私はシメオンの背に体重を預けた。


「ではでは、お大事に。ショシャナ様」

「熱が出るようなら、私のところに来るか……神殿か、教会に行きなさい」

「はい……ご迷惑をお掛けしました」


 私はシメオンに背負われたまま、その場を後にするのだった。






「シメオン」

「どうした?」

「本当に、ご迷惑をおかけしました」

「全くだ。もう、こんなことをするんじゃないぞ」

「……はい」


 もう、一生シメオンには頭が上がらない。

 大きな借りを作ってしまった。

 ……まあ、でも良いか。


 だって、私たちは……


「借金についてなんですけど」

「まだ言うか。言っておくが、俺は……」

「分かっています。はい、もうシメオンにお金を返すような真似はしませんよ」

「そうか?」

「ええ、もう、その必要はありませんからね」

「……必要がない? どういう気の変わりようだ?」

「それは……」


 私は体が熱くなるのを感じた。

 きっと、私の顔は真っ赤に染まっていることだろう。

 でも……ちゃんと、言わないと。


「家族になれば、借金も何も、ないじゃないですか」


 シメオンは足を止めた。

 心臓が激しく鼓動を打つ。

 

 しばらくの静寂の後、シメオンはようやく口を開いた。


「俺はお前の父親になるつもりはないぞ?」

「当たり前です! お父さんは、たった一人ですよ!」

「兄貴でも……」

「ふざけないでください!」


 全く、私は、真剣なんだぞ!!


「じゃあ……」

「夫婦です、夫婦!! 嫌とは、言わせませんからね!!」


 私はそう言ってシメオンのお尻を足で蹴り飛ばした。

 

「いったぁああああ!!」

「全く……お前は、馬鹿だな」

「う、うるさいです……」

「本当に世話が焼ける奴だよ……一生、俺がついていないとダメみたいだな」


 ニヤリと、シメオンが笑ったような気がした。

 表情は後ろからじゃ、見えないけど。


 あー、もう……


 私はギュッと、体を密着させた。


「一生って、言いましたからね?」

「ああ、言ったよ。それがどうした?」

「……これから、よろしくお願いします」

「ああ、よろしくされてやる」


 何で、こいつは上から目線なんだ……

 まあ、しかし、今回ばかりは許してやろう。



 ………………

 …………

 ……


 これから一生、尻に敷いてやるし。





「ふふ……」

「っ……」

「どうしました? シメオン」

「い、いや、ちょっと寒気が……」


 

これで完結です

まあ、後日談がないわけではないですが、それはおいおい、気が向いたらですかね


この小説は自分の書きたいものを書いたかなぁーって感じはあります

ちなみに、元々は「煙管を手に煙を吸う、中学生くらいの美少女店主」が書きたかったんです

唯一、読者に考慮した点は、ショシャナちゃんが吸ってた草を「大麻」から「甘煙」とかいう謎のファンタジー草に変えたところです


いやー、大麻はさすがに不味いかなぁーって、私の中の常識センサーがね

作動したんですよ


あ、念のために言っておきますと私は喫煙はしません

勿論ですが、大麻なんて吸ったことないです

明らかに体に悪い煙を摂取する理由はないですからね


ただ麻薬ネタが好きなだけです


もし私が現代モノの小説を書いたら、血走った目で「大麻は安全!」という主張を長文かつ早口でまくし立てる明らかにヤバい奴みたいな、ネタキャラ書きますね


それはともかくとして、次回作の予告を活動報告に上げました

まあ、暇な人は見てください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 完結おめでとうございます。とても面白かったです。ありがとうございました。 魅力的な3作品の主人公たちのその後を、 後日談なり新しい作品なりで拝読出来る事を楽しみにしています。
[良い点] 話、文章は面白い [気になる点] 打ち切り漫画 [一言] 結末を投げ捨てていること
[良い点] コン○イ?とかちょいちょいネタが出てきてそれの考察などはくすりとした 場違いな芸術品の種類によってはショシャナがヒューッ!!とか言ってしまう未来もあるのだろうか [気になる点] シャルロッ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ