第43話 襲撃
「だから、要らないって言っているだろ?」
「あー、聞こえない、聞こえない~」
私はこちらに紙幣の詰まった封筒を押し付けてくるシメオンを無視しながら言った。
もういくら話しても平行線なので、私は話し合いを放棄した。
シメオンには紙幣を渡してしまったのだから、あとは私が相手をしなければ、私の勝ちだ。
何の勝負か分からないけど。
「おい、馬鹿ショシャナ!」
「聞こえません!」
「アホ!」
「……聞こえません」
「貧乳」
「これから大きくなるんです!」
「聞こえてるじゃないか!」
「あー……聞こえません」
「子供じゃないんだから!」
「……」
それはこっちの台詞だ。
全く……
「店番を、よろしくお願いします」
「ん? どこに行くんだ?」
「買い出しです。丁度、珈琲が切れたので」
「なら、俺が行こうか? 今は昼間だが、女の子が一人で歩くのは……」
「子供扱い、しないでください!」
私はそう言うと、シメオンから逃げるためにお店の外に出た。
そしていつも珈琲を買っているお店に向かう。
すぐに買い終えて……しかし帰る気にはなれない。
帰ってもまた、シメオンにグチグチ言われることは目に見えているし。
さーて、どうするか。
たまには一人でカフェに入って、優雅に過ごそうかな?
少し、遠くまで行こうか。
ちょっとくらい、仕事をサボっても良いだろう。
と、自分でも子供っぽいなと思いながら、カフェで夕方まで時間を潰す。
………………
…………
……
今頃、シメオンは一人で店番をしてくれているのかな?
もしかしたら、心配しているかもしれない。
私を探しに来ているかも……
「はぁ……何やってるんだ、私……」
これじゃあ、反抗期の子供じゃないか。
あー、もう……
「帰るか」
そして謝ろう。
うん、今回は私が悪い。
ちゃんと話合わないとダメだね、こういうことは。
私は立ち上がり、お金を払ってから家路に就く。
……ちょっと暗くなってきたな。
私は足を速め……
ふと、違和感を感じて足を止める。
冷や汗が背中を伝う。
――つけられている――
ど、どうしよう。
しかしどうすることもできず……私は足を進める。
再び、誰かが私の後ろで動き始める。
歩を少し早める。
背後の足音も大きくなる。
「っく……」
私は歯を食いしばりながら、走り始めた。
がむしゃらに、必死に走る。
ここまで来ると、私が気付いていることに相手も気付いたのか、足跡は隠す気もないものへと変わっていた。
このままだと、追いつかれる!!
全速力で走り、とにかく、曲がり角を何度も何度も曲がる。
視界が涙で滲む。
あー、もう……私は……
馬鹿だ。
「はぁ……はぁ……撒いた、かな?」
かなり遠くまで逃げてきたし、何度も角を曲がった。
多分、相手も私を見失っているだろう。
……それにここから、私の家までは近い。
出会わないように、気をつけて帰ろう。
それでシメオンと、明日にはセリーヌさんとシャルロットさんに相談しよう。
そう、思い、足を動かした、その時。
「……え?」
気付くと、私は地面に倒れていた。
そして……足に激痛が走る。
「っくぅ……な、何が……」
足には矢が突き刺さっていた。
「おい、何外してるんだ!」
「いや、あいつ、急に動くから……」
「まあ、良いだろ。あれじゃあ、逃げられないだろうし」
「直接、殺しに行くぞ」
暗い裏路地から、男たちが現れた。
あー、私は……本当に……
馬鹿だ。
追い込まれていたことに気付かないなんて。
馬鹿らし過ぎて、笑みが浮かぶ。
「悪いな、嬢ちゃん。仕事なんだ」
男の一人はそう言って、剣を振り上げた。
……あーあ、嫌だ。
嫌だ……まだ、謝ってないのに。
シメオンに……
「シメオン……助けて……」
私は目を瞑った。
生暖かいものが私の顔に振りかかる。
……しかし痛みはいつまで経ってもやってこない。
恐る恐る、目を開ける。
「……え?」
男は頭から血を流し、倒れていた。
な、何が……
「おい、お前ら……ショシャナから、離れろ」
声が聞こえた。
声のする方を見ると、そこにはシメオンがいた。
手には拳銃という、《場違いな芸術品》を手にもって構えている。
「そいつは、俺の女だ!」
シメオンが引き金を引く。
聞きなれない音がして、次々と男たちが倒れていく。
「この、クソ野郎!」
男の一人がクロスボウの引き金を引く。
が、その直後に弾丸が男の顔面を吹き飛ばした。
辺りが静かになる。
「……ショシャナ」
「シメオン……」
私はシメオンを見上げる。
言わないと……ちゃんと、謝らないと。
「ごめん、なさい……」
「無事でよかった」
強く、抱きしめられた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……迷惑ばかり、かけて……私は、本当に、馬鹿でした……」
「ああ、本当に馬鹿だよ、お前は。……迷惑なんかじゃない」
そう言って、シメオンは私の目を見つめながら、はっきりと言った。
「俺はお前のことが好きなんだ。惚れた女を守るのは、当然だ」
「ほ、惚れたって……な、何を、急に言うんですか!? ……シメオン? シメオン? ちょっと、急に黙らないでくださいよ!!」
シメオンは目を瞑り、急に黙ってしまった。
そして……本当に馬鹿な私は、ようやく気付く。
シメオンのお腹が、生暖かい液体で濡れている。
「嘘、でしょ?」
そのお腹には、太い矢が突き刺さっていた。
次回で最終回です




