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第41話 新たな依頼


「ほら、受け取りなさい」

「要らない。俺はお前に金を貸したつもりはない!」


 シメオンの給料日。

 私が給料のディルハーム紙幣をシメオンに渡したのだが……こいつは何故か受け取らない。


「知っていますよ。だからこれは返済じゃないって、言っているでしょ?」

「それは詭弁だ! こんなに高いのはおかしいだろ! お前、絶対に返済分を含めてるだろ!」


 私はシメオンに一千ディナルという借金を立て替えて貰った。

 シメオンは大したことないとか、あぶく銭だったとか言うけど……


 流石に一千ディナルをタダで貰うのは私の気が済まない。

 しかし彼は借金の返済を受け付けてくれない。


 そこで「最近いろいろお世話になっているのも含めて昇給します」という感じで今までの十倍の給金を支払おうとしたのだが……

 ちょっとムリがあったかもしれない。


「詭弁じゃないです。あなたにはいろいろお世話になっているのだから、これくらいは適正……」

「適正じゃないだろ、適正じゃ」

「私がそうだと言ったら、そうなんです!」


 私は強引に紙幣のは言った袋をシメオンに押し付ける。

 が、シメオンは強い力でそれを押し返してくる。


「この分からず屋!」

「この頑固者!」


 あー、そうですか、受け取ってくれませんか。

 じゃあ、良いですよ。

 私にも考えがあります。


「なら、給料はいらないんですね?」

「お、おい! 飢え死にするだろ! 金が無いとアパートも……」

「なら、この家に住みます?」

「冗談じゃない!」

「冗談じゃないって、どういうことですか! ちょっと、失礼じゃないですか?」


 と、少しシメオンと揉めている時。

 カランカランと鈴が鳴り、ドアが開いた。


 現れたのは眼鏡をかけた、神経質そうな女性だ。


「……お取込み中でしたか?」

「いやいや、まさか! いらっしゃいませ、お客様!」


 私は強引にシメオンにお金を押し付けてから、お客様の方へ向かった。

 ……どこかで見たことがある顔をしているぞ。


「あなたが、このお店の店主の、ショシャナ・レヴィ・モーシェですね?」

「ええ、そうです。本日はどのような……」


 しかしお客様はにこやかな笑みを浮かべたまま、私の言葉を無視するよう続けた。


「私はエウドキア・ステファノプロス・ヴァシレフス・エイギプトゥスと申します。今日はあなたに依頼があって参りました。聞いてくださいますね?」


 うーん、なんだろう。

 口調は丁寧だけど、ちょっと横暴な感じがするぞ。


 まあ、こういう人は別に珍しくもないし、お金を払ってくれるなら良いけどね。


 しかし、ステファノプロス・ヴァシレフス・エイギプトゥスか。

 つまりステファノプロス選教候の関係者か。


「はい、勿論。それでご依頼の内容は?」

「ここでは言えません」


 言えない内容? ……物騒だな。

 ちょっと怪しいぞ。


 でも、まあ……ステファノプロス家が下手なことをするはずないか。


 この人が本当にステファノプロス家の関係者ならば、の話だけど。


「……失礼ながら、あなたはステファノプロス家の関係者ですか?」

「はい、そうですよ。ステファノプロス選教候閣下は私の兄です」

「証拠を見せて貰っても?」


 貴族なら紋章くらい持ち歩いているだろう。

 私がそう思いながら尋ねると……女性は一瞬だけ、眉を顰めた。


 が、しかしすぐに懐から紋章を取り出し、見せてくれた。


 うん、本物だろう。

 私に判断なんてできないから、多分だけど。


 紋章の偽造なんて、大罪中の大罪だ。

 小娘一人騙すのに、そんなことはしないはずだ。


 もっとも、仮に信じられなかったとしても信じるしかないけれど。

 紋章を見せろと言って、それが偽物かもしれないと言って依頼を断るのは、あまりにも無礼だ。


「ありがとうございます。分かりました……場所はどこに移せば?」

「エスケンデリア市にある、我が家の屋敷にご招待しますよ」


 貴族のお屋敷か。

 となれば、相応の準備が必要か。


「分かりました。少し準備のために時間を頂いても?」

「お早めにお願いします」


 急かされた。

 ちょっと、感じが悪いぞ。……これが貴族か。


 別に良いけどさ。


「そういうわけですから、シメオン。あの話は、御終いです」

「……終わっていない。帰ってからだ」


 まだ言うか。全く、強情だな。


 とはいえ、客を待たせているのだ。

 今ここで口論するわけにはいかない。


 私は持っている中でもっとも上等な服を着て、化粧をする。

 香水を振りかけ……


 そしてお店の前で待っていたエウドキアさんに報告した。


「準備、終わりました。今すぐ行けますよ」

「そうですか。では、馬車にお乗りください」


 そう言って馬車に乗るように言われる。

 私が乗り込んでから、エウドキアさんも馬車に乗る。


 ガタガタと馬車が走り出す。

 ……気まずいぞ。


 エウドキアさんは無表情で窓の外を見ているし。

 何か、話題を振った方が良いのだろうか?


 ……いや、やめておこう。

 何となくだが、この人は私と話したくなさそうにしている気がする。


 おそらく、実はユタル人が嫌い、というタイプの人だな。

 ユタル人じゃなくて、平民が嫌いなのかもしれないけど。

 とにかく、態度の節々に私を見下す感じがどことなく現れている。


 私は彼女と話をするのはやめて、反対側の窓の外を眺めることにした。




 さて、馬車で揺られることしばらく。

 ようやく馬車が止まった。


 外へ出ると……大きなお屋敷が聳え立っていた。


 さすがは元王族。

 何だかんだで相当な財産を持っているのだろう。


「では、こちらへ」


 エウドキアさんについていき、屋敷の中へ。

 すると……


 柔らかい笑みを浮かべた男性が、私を出迎えてくれた。


「よく来てくれた! お久しぶりだ、ショシャナさん」

「これは……ステファノプロス閣下。お久しぶりです。本日はご依頼、ありがとうございます」


 ステファノプロス選教候に対し、私は頭を下げた。

 まあ、ステファノプロス選教候の屋敷に行くのだからステファノプロス選教候が出てくることは予想できたので、別に驚きはしないのだけど。


「それで、ご依頼内容をお聞きしても?」

「……む?」


 私が尋ねると、ステファノプロス選教候は不思議そうな表情を浮かべた。

 そしてエウドキアさんの方を見る。


「まさか、伝えていないのか?」

「どこに目や耳があるか、分かりませんから」

「何も伝えずに連れだしたのか! それはいくらなんでも……」

「普遍教会が盗聴魔法を仕掛けていたかもしれません。警戒は当然です」


 いや、私の店なんだけど。

 私の店に盗聴器があるかもだって? いくらなんでも、失礼だろう。


「エウドキア!」


 これにはステファノプロス選教候もそう感じたのか、エウドキアさんを咎めようとする。 

 が、それでは話が前に進まない。


「まあまあ……よく分かりませんけど、秘密にしなければいけないことなのでしょう? ……ご依頼内容をお聞かせください」


 喧嘩をしていないで早く話を前に進めてくれと、私は暗に伝える。

 するとステファノプロス選教候は頷いた。


「おお、そうだったね。……こちらについて来てくれ」


 私はステファノプロス選教候の後ろをついていく。

 辿り着いた先は……大きな倉庫だった。


 ステファノプロス選教候は鍵を開け、中に入る。

 そこで私が目にしたものは……


「これを、修理して欲しいんだ」


 


 大量の《場違いな芸術品》。

 それも……以前、大聖堂で見たものと似たような、大量の兵器・武器の類だった。


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