第34話 手作り料理
ある日、夕方にお店を閉めた後のこと。
「シメオン、ちょっと遊びません?」
「はぁー?」
私が新しく修理した《場違いな芸術品》を手に持って言うと、シメオンは特に興味のなさそうな返事をした。
ちょっと傷つく。
「……嫌ですか? 私と遊ぶのは。……そうですか、いや、別に良いんですけどね、無理に付き合う必要とか、全然ないというか、正直最近あなたには頼りすぎというか、甘えすぎているのは自覚しているので、愛想が尽きたというなら、別に……ぐすっ」
「いやいや、まだ何も言ってないだろ!」
ちょっと悲しい気持ちでいると、シメオンが慌てた様子で駆け寄ってきた。
そして私が手に持っている《場違いな芸術品》を指さす。
「それは何だ?」
「よくぞ聞いてくれました! これはですね、“スーパーファミコン”です!!」
「……いや、名前言われても分からないのだが。そういう意味だよ」
「『スーパー』ってのは、なんか、凄いみたいな感じの意味らしいですよ? まあ、つまりうちに既にあるゲーム機の強化版です」
まあ、どう凄いのかは正直私もよく分らないのだけれど。
シメオンはあまり興味なさそうな表情を浮かべている。
「ふーん……」
「なんですか、その顔は!」
「だって、それ要するに魔導具と一緒に遊ぶようなものじゃないか。俺は人同士で遊びたいんだよ」
言うと思った。
シメオンはゲームのような《場違いな芸術品》には否定的なのだ。
もっとも、今回はシメオンが相手でも自信がある。
「今回はコントローラーが二つあります」
「はぁ? ……で、何だよ」
「つまり、シメオン。なんとですね、対戦ができるんですよ!」
「……」
あー、興味ないって顔してる。
まあ、良いよ。
やれば面白いはずだ……多分。
「まあ、良いや。付き合ってやる……って言いたいところだけど、今日はもう遅いぞ? 泊まらせてくれるって言うなら、考えてやらんでも良いけど」
「分かりました。じゃあ着替えを持ってきてください」
「だよな、泊まりなんて……え? 今、何と言った?」
「だから着替えを持ってきてくださいと、あなたが泊まりたいと言ったじゃないですか」
自分が言い出したことなのに何を言っているんだ、この男は。
しかしシメオンは尚も渋る。
「いや、だけど……年頃の男女が、同じ屋根の下というのは、あまり良くないだろう?」
「私が風邪を引いたときには同じ屋根の下にいたじゃないですか」
あの時はドアの前にスタンバイしてくれていた。
ほかにも下着を取って貰ったり、体を拭いて貰ったり……
思い出すと顔が熱くなってきた。
「と、とにかく! 持ってきてください!!」
「わ、分かった!」
さて、シメオンが着替えを取りに行っている間に料理でも作るか。
まず私は庭へと向かった。
庭には小さな鳥小屋があり、そこには三羽の鶏がいる。
バスコ地区の住民は、一軒家持ちならば、大抵は鶏を飼っている。
道路を脱走した鶏が歩いているのは、見慣れた光景だ。
鶏は適当に生ごみを与えていれば毎日卵を産み落としてくれるので、都合が良い。
食べない日は売りに行けば良いのだ。
また、特別な日には肉屋に行って潰してもらうこともできる。
「卵、貰いますね」
私は適当に足で鶏を払いながら、卵を三つ回収する。
台所で軽く水洗い。
「さて、献立は……魚のフライかな」
私は氷冷蔵庫を開けて呟いた。
丁度、昨日、近所のお魚屋さんの大型魔導冷蔵庫の修理に伺ったのだが、その時に白身魚を頂いたのだ。
魚用の包丁で鱗を取り、頭を落とし、内臓をだし、しっかりと水洗いをして血を抜く。
「ふんふんふん♪~」
魚の解体や料理をしている時、鼻歌が出てしまうのは私だけだろうか?
私は鼻歌混じりに包丁を動かし、魚を捌く。
それから塩と白葡萄酒を振りかける。
塩は血、体液を完全に抜くため。
白葡萄酒は臭み消しのためだ。
さて、次はスープでも作るか。
野菜は以前、シメオンに貰ったもので良いだろう。
さて、ここで少し重要な点だが……野菜は魚とは別の台所で調理する。
ユタル派の教義では、合わせてはいけない食材とかがあるので、金銭的・空間的に余裕のある家では台所は二つ、設置してあるのだ。
まずは人参、馬鈴薯、玉ねぎを切る。
それから事前に水に浸して柔らかくした大豆を用意。
鍋でオリーブ油と共に玉ねぎを入れて、色がつくまで炒め、ニンジン、ジャガイモ、大豆を投入。
それから水と、生のトマトを投入。
後はトマトが完全に崩れるまで煮込む。
「おーい、ショシャナ。着替えを持ってきたぞ……って、何をしているんだ? 良い匂いがするけど」
台所にシメオンが顔を出した。
何をしている、って見ればわかるだろう。
「料理ですよ」
「……ということは、お前の手作りか?」
「野菜と付き合ってもらうことへのお礼です。座って待っていなさい」
スープを煮込んでいる間に、メイン料理に取り掛かる。
まず魚を一度水洗いし、綺麗にふき取る。
これで体液は完全に出たはずだ。
次に摺り下ろしたニンニク、ハーブ、香辛料で香りづけ。
味が馴染むまで少し放置。
その間に卵のうち二つをお湯に入れ、軽く熱を通す。
固まらないうちに取り出し、殻を割り、オリーブ油、酢、香辛料と合わせる。
魔術を使い、高速でかき混ぜ……マヨネーズを作成。
そこへ微塵切りにした玉ねぎ、ピクルス、パセリ、香辛料、マスタードを加えてよくかき混ぜて……これでフライに付け合わせるタルタルソースは完成だ。
もう一個の卵は生のまま割り、小麦粉と合わせる。
そこへ切った魚を入れ、パン粉をつけて、熱した油に投入。
魚と一緒に馬鈴薯も揚げる。
揚がったら油が落ちるまで放置。
その間に野菜を千切り、サラダを作成。
あとは完成した料理を盛りつけるだけ。
パンは買ったものがあるので、軽く火を通して温めるだけで良いだろう。
……はい、完成!
「ほら、どうですか?」
「……普通に美味そうだな」
やや驚いた表情のシメオンに対し、私は胸を張った。
メインは魚と馬鈴薯の揚げ物。
スープは、トマトと玉ねぎのスープ。
サラダは生野菜を千切り、手製のドレッシングをかけたもの。
パンは事前に買ったものを、火を通して温めた。
「なあ、食べる前に吸って良いか?」
シメオンは葉巻を取り出して言った。
私は小さく頷く。
「ん……まあ、良いですよ」
私がそう答えると、シメオンは満足そうに葉巻を吸い始めた。
私も煙管を口に咥える。
食べる前に吸うと、料理が一段と美味しくなるのだ。
一服してから私はフライにフォークとナイフを走らせる。
タルタルソースを付けて食べると……うん、久しぶりにしては上手くできた。
「……美味いな。外食ばかりしているから、てっきりあまり料理とかはできないのかと思い込んでいた」
シメオンも美味しそうに食べてくれている。
「ふん、お父さんが生きていた時は私が料理をしていたんですから、料理くらいはできます。まあ、最近は忙しいので外食が多いのは事実ですが」
うんうんと頷きながら、パクパクと料理を口に運ぶシメオン。
気前よく食べてくれると、私も気分が良い。
「好きなだけ、食べてください。たくさん作っちゃったので」
「じゃあ遠慮なく……お前は食べなくても良いのか?」
「私は小食なので」
小食、というよりはそもそもあまり運動をしない。
普段は引きこもって魔導具や《場違いな芸術品》を弄るか、読書するだけだし……
あまり食べて太りたくない。
さて、さすがは男性ということか。
食べた量は私の二倍以上にも関わらず、食べ終わる時間は同じだった。
さて……
「じゃあ、ゲームをしましょう!」
お待ちかねの時間だ。




