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第29話 私、綺麗?

 パーティーから一週間後のこと。


「うーん、シメオンのやつ、遅いな」


 私はお使いに行ってから中々帰ってこないシメオンに気を揉んでいた。

 来客用の珈琲が切れてしまったので、それをシメオンに買いに行ってもらいにいったのだが……


 少し時間が掛かっている。

 私もシメオンに日常的に利用しているお店だし、道に迷うようなことはないはずだけれど。

 

「……事故に巻き込まれた、とか?」


 仮にもA級冒険者だけれど……もしものことがある。

 それに、場合によっては警吏から取り調べを受けているのかもしれない。


「迎えに行ってやるか」


 私はため息をついた。

 しかし迎えに行くのには準備がいる。


 ちょっと前の私なら作業着を脱いで適当な服を着るだけで出かけていたが、今は最低限の身だしなみとお洒落をするようにしている。


 とりあえず洗面台に行って鏡を見て、顔を確認。

 薄くした化粧は落ちてないし、顔も汚れていない。

 

 作業着を脱ぎ、最近購入した流行モノの衣服に袖を通す。

 それから乱れた髪を櫛で整え、香水を振りかけ……


 よし行くか。


 準備している間に帰っては来ないだろうかと思ったのだが、やはり帰ってくる気配はなかったので、私は置手紙を置いてから店を出た。


 シメオンが通ったであろう道を歩くと……店から十分くらいのところでシメオンを発見した。

 複数人の男女と楽しそうに談笑している。


 あいつ、仕事サボって何をしているんだ。


「シメオン! 珈琲は買ってきましたか?」


 若干、イラっと来たので私は少し強い口調でシメオンの名を呼ぶ。 

 シメオンは私の方を向いて、ギクッという表情を浮かべた。

 こりゃあ、買ってないな。


「あ、あー、す、すまん、いや、買いに行くつもりだったんだが、少し話が弾んで……」

「そうですか。……まあ、別にそういうことが悪いとは言いませんけれど」


 実際のところ、私はシメオンに世話になりっぱなしなわけで。

 あまり強くは咎められない。

 だけど、だ。


「休憩とか休暇は望めば望むだけあげますから、その時にしてください」

「おう……悪かった」

「いえ、取り合えず一緒に買いに行きましょう」


 私はシメオンの手を引いて珈琲が売っているお店へと向かおうとする。

 が、進路を塞がれる。


「ちょっと、あなた誰? 私たちは今、シメオン君と話していたんだけど」


 何なんだこの女は? と思って顔を見ると、シメオンの幼馴染だった。

 なるほど、特に興味もなかったので顔を確認しなかったが、彼・彼女らはシメオン幼馴染ーズのようだ。


 いや、シメオンの幼馴染であるということはイコールで私の幼馴染でもあるのだけれど。

 正直、私は彼・彼女らとは遊んだことはあまりなく、精々少し会話をしたくらいであって、名前と顔が一致する程度だから、実質的には他人だ。


 彼・彼女らのご両親とは絡みが少しあるんだけどね。

 うちのお店を贔屓にしてくれる人もいるから。


「誰? って、シメオンの雇い主のショシャナ・レヴィ・モーシェですけど。それ以外にこんな顔の人がいますか?」


 いたとしたら、それは死に別れになった双子の姉妹とか、そんなのかもしれない。

 是非ともお会いしたいものだ。いや、そんなのいないけど。


「え? ショシャナ?」

「そうですけど?」


 思わず首を傾げる。

 すると彼らは驚きで目を見開き、そして彼女らはややたじろいだ表情を浮かべた。


 何なんだ、人の顔を見て、失礼な連中だ。


「もう、良いですか?」

「え、ええ……わ、悪いことをしたわね」


 そう言って彼女は道を開ける。

 変な奴だと思いながら通り過ぎる……前に服を掴まれた。


「何ですか?」

「……今度、機会があったらシメオン君と一緒に、食事をしない? みんなと一緒に」

「別に、構いませんけれど」


 何だろうかと思いながら頷くと、彼女は満足気な表情を浮かべた。


「詳しい話を聞かせなさいよ!」

「はいはい……」


 私は軽く手を振り、シメオンの手を引きながら分かれる。

 

「あの人たち、どうして私の顔が分からなかったんですかね? 忘れていたんでしょうか?」

「お前の顔を見て、驚いたんだろ」

「顔?」

「……ほら、可愛くなったから」


 少しだけ顔が熱くなるのを感じた。



 

 さてようやくシメオンと珈琲のお店に到着した。

 顔見知りの常連なので、「いつもの」と伝えればすぐに対応してくれる。


「あれ、ちょっと多くないですか?」


 注文した量より少し多い珈琲に首を傾げる私。

 すると店主のおじさんは笑った。


「サービスだよ、サービス」

「サービス?」

「ああ。それにしても……前々から美人さんだと思っていたけれど、急に綺麗になったね、ショシャナちゃん。おじさん、驚いちゃったよ」

「あはは、お上手ですね」


 最近、「綺麗になった」「美人だ」と言われることが多い。

 そして買い物の時に少しだけ、サービスしてくれるようになった……気がする。

 

 美人は得をするというが、なるほどこういうことか。

 もっと早く知っていれば、ちゃんと化粧とかしたのに。


「いやーしかし、本当に美人になった。うん、お母さんに、サラさんにそっくりだよ」


 などと言ってから、おじさんはシメオンにウィンクをした。

 何の合図だろうか?


「上手くやりなよ」

「は、はい……」


 シメオンは何故か赤らんだ表情で頷いた。

 うーん、どうやら二人の間に何らかの非言語的な会話が成立しているらしい。


 まあ、良いか。


「帰りましょう、シメオン。お客様が来ていると不味いですし。じゃあ、おじさん。また今度!」

「じゃあね、ショシャナちゃん」


 手を振ってからお店を出て、来た道を戻る。

 それにしても、だ。


「シメオン」

「何だ?」

「私、可愛いですか?」

「……可愛いけど?」

「そうでしょう、そうでしょう」


 どうやら私は本当に美人だったらしい。

 確かに客観的に見れば私は美少女だ。

 それに気が付かなかったのは……昔、シメオンが私のことを「ブス」だ何だのと言ったからだが、今ではシメオンも私のことを「可愛い」と認めている。


 つまり私が可愛いことは確定的に明らかなのだ。


 素晴らしい。 

 実に気分が良い。


「お前、急にナルシストになったな」

「事実を言っているだけです。それとも……実はやっぱり、私は可愛くないんですか?」


 ちょっと不安になってシメオンに尋ねると、シメオンは頭を掻いてから、首を横に振る。


「いや、美人だけどさ……」


「なら良かったです。自分のことを可愛いと思っている醜い人間ほど滑稽なものはありませんからね、ええ。ところで……セリーヌさんとシャルロットさんと比べて、どう思います?」


「ええ!? 面倒な質問をするな、お前……」


 シメオンは腕を組み、うんうんと唸る。


「……やっぱり、世間一般的には二人の方が美人ですかね?」

「まあ……お前は十三歳で、あっちは十八だろう? 子供と大人じゃな」


 そうか……いや、まあ知っていたけどね。

 私、まだ(・・)胸とかないし。


「じゃあ、成長したらどう思います?」

「それなら……良い勝負するかもな」

「本当ですか!?」

「ま、まぁ……あの二人の幼い頃を俺は知らないから、確かなことは言えないけど」


 確かなことは言えなくとも、将来性はあるわけだ。

 セリーヌさんやシャルロットさんみたいな美人に成長する見込みがあるというのは、それだけでも素晴らしい。

 

「……俺は今でも、十分、勝っていると思うけど」

 

 小声でシメオンが呟いた。

 一瞬、何を言われたのか分からず……そして気付いた途端、顔が熱くなる。


「な、何を、急に言っているんですか!」

「え? き、聞こえてたのか?」

「き、聞こえてません!」

「いや、どっちだよ!」


 もう、知らない。

 どうしてか分からないけれど、とても恥ずかしかったので、私はしばらくシメオンの顔を見ないようにした。



 さて、お店に帰ってくると……お店の前で宝石商の奥様がうろうろしていた。

 

「あ、すみません! 少し留守にしていました!」

「ショシャナちゃん! ああ、良いのよ。気にしないで。急ぎの用ではないから」


 奥様はそう言ってから、シメオンを見て、少し悩んだ様子を見せてから……

 私に言った。


「ショシャナちゃん」

「何でしょう?」

「お見合いに興味、ない?」


 お見合い?


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