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第25話 お洒落 前

 セリーヌさんとシャルロットさんが帰宅した後、私は二人から貰ったケーキを持ってシメオンが居を構えているアパートへ向かった。

 幸い、シメオンは在宅中だったので、私はケーキをお裾分けするついでにパーティーに関する話をすることにした。


「というわけなんですが、シメオン、来ます?」

「うーん……」


 シメオンは腕を組み、悩んでから、私に尋ねる。


「お前は俺に来て欲しいのか?」

「……まあ、一人は心細いと思っています」


 ホストであるアブドゥル・サイードさんは他のゲストのお相手に忙しいだろう。

 セリーヌさんやシャルロットさんも、まさかずっと私と一緒にいるわけにはいかないはず。

 パーティーというものに出席したことはないが、壁の花になるというのは精神的にキツそうだ。


「壁の花は誰だって嫌でしょう?」

「確かにな。……まあ、行っても良いけど、だがそれなりの服装が必要だろう? 中古で買えば間に合うかな?」

「それはシャルロットさんが作ってくれるそうですよ」

「あのお貴族様が? 大丈夫か?」

「あのメイド服、手作りだそうです」

「なら期待できるな」


 シャルロットさんは会うたびに違うデザインのメイド服を着ているが、どれも私の目から見ても可愛らしいものが多い。

 安心しても良いと思う。


「ドレスじゃなくて、メイド服を作ってきたりしてな!」

「私のメイド服、見たいですか?」

「きゅ、急に何を言いだすんだよ……」


 何故か慌てた表情を浮かべるシメオン。

 急に挙動不審になって、どうしたのだろうか?


「メイド服の話題を振ったのはシメオンでしょう?」


 でも、メイドになりたいとは欠片も思わないが、シャルロットさんの着ているメイド服はそこそこ可愛らしいので、一度くらいは袖を通してみたいという気持ちはある。

 興味本位だけれど。


「メイド服は冗談だ、冗談……しかし、そうか、ドレスか。ふーん」

「何ですか?」

「想像できないなと、思っただけだ」


 シメオンに言われて私は自分の服を見下ろす。

 お世辞にもお洒落とは言えない。

 生地も結構傷んでいる、中古品だ。

 私は基本的に中古品の私服か、お店で魔導具の修理兼接客をする時の作業着しか持っていない。


 だが、しかし、だ。

 

「ちょっと、失礼じゃないですか?」

「でも、俺はお前がお洒落しているところを見たことないぞ」

「まさか、そんなはず……」


 そう思い、私は日ごろの自分を思い浮かべてみるが……

 そもそもお洒落な服を持っていなかった。

 装飾品とかも、持っていない。

 化粧もしたことは一度もない。


 それどころか寝癖すらまともに直さないこともあったような……


「……」

「ほらな。お前は昔っから、そんなだった。違うか?」


 うぅ……否定できない。

 でも、私だって、別にお洒落とかに興味が全くないというわけではないのだ。

 ただ……それよりも面倒くさいなという気持ちと、魔導具とかを優先したい気持ちと、あとどうせ似合わないだろうという諦めがあるだけで。


「普通、お前と同じくらいの年頃の女の子はお洒落とかに精を出すものだろ。なのにお前は口を開けば、魔導具だ、《場違いな芸術品》だ、魔術だ、哲学だ、啓典だ、甘煙だ……もうちょっと、他の女の子みたいに、身だしなみとか、お洒落とかに気を使うべきだ」


 正論だ。

 正論だけれど……何だろう。とても腹が立つ。

 いや、正論だからこそ、腹が立つのかもしれない。


「まあ、良い機会じゃないか。お前のドレス、たのし……」

「そんなに他の女の子が良いなら、私になんか、構わなければ良いじゃないですか! バーか!!」


 気付くと、そんな罵倒が口から出ていた。

 シメオンは呆気に取られている。

 私自身も驚いているが、湧き上がる感情は止まらない。


「ふん、どうせ、私はブスで、ガリ勉で、可愛くない女ですよ!」

「いや、そんなこと一言も……」

「言いました! 言いましたぁー、五年くらい前に言いましたぁ!!」

「そんな、太古の昔のことを……」

「今でも、そう思っているんでしょう! この、馬鹿!!」


 自分でも子供っぽいことを言っているなと、思うが……

 それでも、どうしてか分からないけれど、私は自分自身の感情を制御できなかった。


「い、いや……その、昔のことは反省して……」

「いいですよ、どうせ、私はお洒落なんて似合わないんだから! 今でも、そう思ってるんでしょう? そうでしょう!! 取り繕ったって、無駄なんですからね!!」


 確かに、私は他の女の子(・・・・・)と比べれば、いつも酷い服装とかしているけれど……

 シメオンを慕う他の女の子(・・・・・)はもっと可愛いかもしれないけれど……

 

「私だって、ちょっと本気を出せば、可愛いんですから! 目に物を見せてやります!」

「いや、お洒落なんて似合わないって言葉と、ちょっと矛盾……」

「うるさい、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿!!」


 私は気付くとアパートを飛び出ていた。






「ということが、あった次第です。以来、シメオンとは業務的な会話以外をしていません」


 私はセリーヌさんとシャルロットさんにそう報告した。

 二人はなんだか……ちょっと呆れた表情を浮かべる。

 私だって、こんな話を聞いたら呆れるけど……でも、それでも感情が抑えられなかったんだから仕方がない。


「というわけなので、シメオンのやつをギャフンと言わせたいので、今日はよろしくお願いします」


 今日はパーティー当日だ。

 せっかくなので、セリーヌさんとシャルロットさんの二人と一緒に行くことにしたのだ。


 ちなみにまだドレスは見ていない。

 シャルロットさんのお屋敷――なんでも別邸らしい。どういう財力をしているのだろうか?――に集合し、そこで初めてドレスに袖を通す運びとなっている。


 尚、シメオンとセリーヌさんの恋人(?)のアレクサンデルさんは一緒に行くらしい。


 今はセリーヌさん(異端審問官)の下で働いているアレクサンデルさん(特務神殿騎士団長)は、数年前まで冒険者をしていたらしく、シメオンと一緒にチームを組んだことが幾度かあるとか。


 男同士、積もる話があるようだ。


「(どう思います? セリーヌ様)」

「(他の女の子を引き合いに出されて、腹が立ったんでしょうね。意外に嫉妬深いのね)」

「(無自覚なのは質が悪いですね。まあ、産地偽装のセリーヌ様よりかはよほど拗れてはいませんが)」

「(産地偽装言うな)」


 ごにょごにょと会話をするセリーヌさんとシャルロットさん。

 何の話をしているのだろうか?


「まあ、ドレスは気合いを入れて作りましたから。ご安心を。きっとギャフンと、シメオン様は言ってくれますよ」

「そうですか? ……でも、ちょっとそれはそれで心配です」

「どうしてですか?」

「ドレスに着られないでしょうか? 豚に真珠になるのは、ちょっと恥ずかしいです……」


 正直、容姿には自信がない。

 お父さんとか、常連さんは私のことを「可愛い」などというが、彼ら彼女らは私がまさに豚みたいな容姿でも「可愛い」と言うだろう。

 つまり信用できない。


「気にし過ぎでしょう?」

「そりゃあ……セリーヌさんは気にすることはないでしょうよ。シャルロットさんも……」


 セリーヌさんはキラキラと輝くような銀髪で、目が死んでいることを除けば紫水晶みたいに綺麗な瞳だ。

 顔立ちもまるで芸術品のように美しい。


 シャルロットさんも金髪碧眼で、肌も白くて綺麗だ。

 そして十人中十人が認める美人だろう。


 それに比べてしまえば私はずっと見劣りしてしまうのではないだろうか?

 思わず私はため息をつく。


「まあ、確かに私は世界で一番美人だし、シャルロットも私と比べれば少し劣ると言っても美人だけど……」

「セリーヌ様、大層な自信ですね」

「異論あるの?」

「うーん、ないですね。ええ、セリーヌ様は世界で一番の美人です。そして私は二番目です」


 ……別に二人が美人なのは認めるけれど、ナルシスト過ぎやしないだろうか?

 その辺は顔の好みにもよると思うけれど。


「まあ私たちが美人なのはともかくとして、ショシャナ様。あなたも可愛いと思いますよ。きっと、成長したら私の次、三番目くらいの美人になれます」

「そうよ、私と比べてしまえばあれだけど……あなただって、ずっと可愛いじゃない。あなたが可愛くなかったら、その他大勢の女は雌オークよ」

「……お世辞ですよね?」

「私はともかくとして、セリーヌ様はブスにはブスっていうタイプですよ。本心です」

「語弊があるわ、シャルロット。喧嘩を売られない限りは言わないわよ」


 まあ……確かに、この二人は割と本心を真正面から言うような人だから、その言葉は信用できるかもしれないけれど……


「でも、シメオンが……」

「シメオン君が?」

「彼がブスって言ったんですか? いつ?」

「五年くらい前です」

 

 と、私が言うと二人はまたこそこそと話を始めた。


「(いわゆる、好きな子に意地悪しちゃうってやつね)」

「(ショシャナもそんなに彼に言われたことを気にしている時点で……どうして気付かないのかしらね?)」


「あのー、何の話ですか?」

「何でもないわ」

「まずはお風呂に入ってください。せっかくなんで、気合いを入れましょう」


 そう言ってシャルロットさんは私を浴場へと誘う。

 うーん、なんか誤魔化され気がするが……まあ良いか。


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