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第24話 パートナー

 招待状を貰ってから暫くした、お店の休業日。

 正面玄関ではなく、裏口のドアベルが鳴った。

 

 時間通りだなと思いながらドアを開けると……

 

「遊びに来ましたよ! ショシャナ様!!」

「お邪魔するわ、ショシャナ」


 シャルロットさんとセリーヌさんの二人が立っていた。

 名目上は打ち合わせ、実際は……まあ、ちょっとした女子会だ。


「どうぞ、いらっしゃい」


 私は二人を家の中へと招く。

 さすが、二人とも育ちが良いからか、しっかりとマットで砂を落としてから家に入ってくれた。


「これはお土産です、どうぞ」

「ちゃんとユタル人にも配慮したお店のだから、安心して良いわよ」

「これはこれは、どうもありがとうございます……って、これ、すごく高いお店のやつじゃないですか」


 シャルロットさんから箱を受け取り、少し驚いてしまう。

 エスケンデリア市ではそこそこ名の通った、お菓子のお店だ。

 ちょっと甘い匂いがする。


「さすがは貴族様と司祭様ですね……えへへへ」

「もっと敬っても良いですよ?」

「喜んでもらえて幸いだわ」


 良い物を貰ってしまったので、いつもより少しだけ腰を低く対応する。

 二人をリビングに通してから、珈琲を入れる。


「さて、箱の中は……苺のケーキかぁ」


 とてもおいしそうだ。

 

 私はホールケーキを切り分け、三つの皿に乗せる。

 余った分は慎重に氷冷蔵庫へ。

 ついでにお茶請けでクッキーをお皿に盛る。


 お盆にそれらを乗せて、リビングへ向かう。

 二人はすでにソファーに座り、くつろいでいるようだった。


「どうぞ」

「これはどうも」

「悪いわね」


 私もソファーに腰を下ろす。

 そして煙管を取り出した。


「吸って良いですか?」

「家主はショシャナ様ですので」

「甘煙なら気にしないわ」


 許可が出たので、火を着けて煙を吸う。

 煙を吐いてから珈琲を口にすると……ああ、美味しい。深みが増したような気がする。

 さらにフォークでケーキを切って口に運ぶと……


「甘い……」


 思わず頬が緩んでしまう。

 

「あ、吸えるようになったんですね……私も一口頂いても良いですか?」

「良いですけど、吸うんですか?」

「嗜んではいません。でも、錬金術師として、職業柄……まあ、毒や薬を舌で検分します」

「……薬はともかくとして、毒は良いんですか? 体、壊しません?」

「毒には耐性があるんです。『耐毒体質Ⅳ』『毒物親和体質Ⅳ』という“祝福”を持っています。いやー、強い毒って舌がびりびり、頭がギュンギュンして楽しいんですよね」


 などとシャルロットさんは人間として終わっているようなことを言いながら、私から煙管を受け取り、割と慣れた手つきで吸った。


「けほっけほっ……あー、やっぱり私は煙は苦手ですね」


 煙は苦手?

 ……煙草や甘煙以外となると、かなりヤバイ薬物(毒物)なのでは?

 と思ったが、何だか突っ込むと怖いのでやめておくことにした。


「……あなたたち、躊躇ないのね」

「躊躇? ……何がですか?」

「ああ、セリーヌさんは間接キスとか気にするタイプなんですよ」


 ……間接キス?

 ま、待てよ? 私、前にシメオンに煙管を吸わせたけど、あれはもしかして、間接キスなの?


 私は自分の顔が真っ赤に染まるのを感じた。


「……もうしばらく、シメオンの顔を見れません」

「あー、なんか、すみません」


 シャルロットさんが申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 ええい、気にしても仕方があるまい。

 私は変な考えを振り切るために、頭を大きく左右に振った。


「セリーヌさんは、どうなんですか?」

「どうって?」

「何か、吸ったりしないのかなと思いまして。お酒飲む人って、大抵、何か吸ってません?」


 何か、というのは具体的には煙草や甘煙だが。

 

「私、アルコール以外のそういうのからは足を洗ったのよ」

「足を洗ったって……」


 ということは、昔はお酒以外の何かを摂取していたのだろうか?


「まあ、強いて言うならば、そうね、ショシャナ」

「何ですか?」

「睡眠薬とアルコールの組み合わせは悪魔的だから、絶対にやめておきなさい」


 割と真剣な声音で言われた。

 多分冗談だろう。

 と、私は思い込むことにしたので、とりあえず笑った。


「ところで、アルコールは良いんですか? セリーヌさん、かなり飲んでますけど。やめた方が良いのでは?」


 見ているこっちが心配になる量を普段から飲んでいる気がする。

 あれは致死量じゃないだろうか?


「ああ、私は『アルコール親和体質Ⅳ』という“祝福”を持っているから」

「どういう“祝福”ですか?」

「摂取したアルコールを体内で“神秘”に変えられるのよ。あと、中・長期的な健康被害が限りなくゼロになるわ。私の健康診断、見る? 私の肝臓はとっても綺麗よ」

「いえ、結構です」


 しかしレベルⅣの“祝福”を持つ“神秘体質”の人間がここには三人もいるというわけか。

 何という偶然……


 いや、きっと、主の思し召しだな、うん。


 そんな話をしていると、ケーキを食べ終わる。

 せっかく良い区切りなので、私は部屋の片隅に置いておいたファミリーコンピューターをテレビに繋げる。


「じゃあ、早速やりましょうか」

「また、前と同じやつ? えっと……ほら、ホムンクルスが主人公の」

「ホムンクルスよりもゴーレムの方が適切では?」

「ゴーレムは意志なんてないじゃない。ホムンクルスよ」


 “ロボット”は果たしてホムンクルスなのかゴーレムなのか、という議論を始めるセリーヌさんとシャルロットさん。

 結論が出そうもないので、私はやや強引に話を打ち切る。


「別のやつですよ。新しいものが手に入りまして」

「それは楽しみね」

「どういうゲームですか?」


 興味津々という様子のセリーヌさんとシャルロットさん。

 私はすでに一度だけ遊んだので、何となく内容は知っている。


「簡単に説明すると、魔王に攫われたお姫様を勇者が救うという話です」

「へぇー、王道ね。楽しそう」

「もしかして、それって……」


 まあ、説明するより見た方が早いだろう。

 私はカセットを機械に入れて、起動させ、コントローラーをセリーヌさんに持たせた。


「……ねぇ、勇者ってもしかして、こいつ? 想像してたのと、ちょっと違うんだけど」

「説明書によりますと、上下水道の維持・管理をする職人らしいですよ」

「何でそんな人がお姫様を助けに行くの? 騎士は? 兵士はどうしているのよ。それとも“異世界”では上下水道の管理は兵士がやるの?」

「深刻な人材不足なのでは? まあ所詮は架空のお話です。面白ければ良いじゃないですか」

「ん……まあ、それもそうだけど。前のホムンクルスの話もそうだけど、“異世界”人って、妙な捻りを入れないと気が済まないのかしらね?」

「“異世界”では一般的で、王道なんじゃないですか?」


 そんな話をし始めながら、セリーヌさんはゲームを進めていく。

 どうやらセリーヌさんはゲームの才能――そんなものが何の役に立つのかは分からないが――があるようで、どんどん先へと進めていく。


「操作が単純だから、遊びやすいわね。それに動くたびになる音とか、音楽とかが面白いわ」

「セリーヌ様、私にもやらせてくださいよ」

「そうね、じゃあゴールしたらシャルロットに交代ね」


 それからすぐにセリーヌさんはゴールの旗のところに到達した。

 コントローラーをシャルロットに手渡す。


 シャルロットさんもそこそこ上手で、まるでやったことがあるかのような手慣れた動きだった。

 

「ここ、もしかしたら入れるんじゃないんですか? ……あ、入れた」

「へぇ……私、そこは一回、遊びましたけど、全然気づきませんでした」

「隠し要素みたいなのがあるのね。興味深いわ」


 と、みたいな感じで三人で仲良く――たまにコントローラーを取り合いながら――勇者を動かし、数時間後には無事に魔王を炎へ叩き落とし、お姫様を救うことができた。


 しかし自分で作った罠に嵌るとは、この亀の魔王も間抜けだな。


「そう言えば……お二人にご相談がありまして。アブドゥル・サイードさんって知ってます?」

「アブドゥル・サイード……もしかして市議会議員の?」

「《場違いな芸術品》の愛好家で有名な方ですね」


 二人とも知っているようだ。

 話が早くて助かる。


「その方は常連さんなんですけど、パーティーに招待されまして」

「それは奇遇ね。私もよ」

「私も招待状を貰いました」


 セリーヌさんとシャルロットさんも?

 うーん、まあセリーヌさんは当然か。今はバスコ地区特別司祭区の司祭区長だし。


 でもシャルロットさんは?


「シャルロットさんはどういうご縁が?」

「私、今はエスケンデリア大学で教鞭を取っているんですよ。その関係ですね」

「それは凄い!」

 

 しかし、パーティーに出席するのはバスコ地区特別司祭区の司祭区長や大学教授なのかぁ……

 私が行っても、場違いな気がする。

 それに何より……


「それで、あなたは行くの?」

「行きたい……と思ってはいたのですが、ドレスがないので……」


 まさか、ドレスを着ずに出席するわけにはいくまい。


「なら、私が作りましょうか?」

「……え?」


 シャルロットさんがそんなことを言いだした。

 いや、作るって、あなた貴族じゃ……ああ、そう言えば本人曰くメイドが本業で貴族が副業なんだっけ。


「それは良いわね。シャルロットはこう見えて良いセンスしているのよ。私もシャルロットに作って貰ってるし」


「そう……なんですか? でも、時間は大丈夫ですか? もう日にちはないですけど……」


「魔術を使えばあっという間ですよ」


「……そんなこと、人間にできますか?」


 いや、できるか否かで言えばできるのだろう。

 糸と布を操ってそれを繋ぎ合わせるわけだから……しかし現実として、そんな器用な真似はできない。

 魔術の才能は数学的な演算処理能力に比例すると言われているが、そんな細やかな魔力操作なんて、人間には不可能だ。


「こいつ、器用なのよ。まあ、才能の無駄遣いというやつね」

「無駄遣いか否かは価値観によります」


 そ、そうですか。

 いやー、まあ《場違いな芸術品》なんて何の役に立つのかよく分らないものを修理して喜んでいる私が言える立場ではないか。


「そう言えば、ショシャナ。シメオン君は連れて行く?」

「はい? どうしてシメオンが?」

「招待状に書いてあったはずよ。親しい人を誰か、連れて行っても良いって。私は部下の特務騎士団長連れて行くけど……」

「つまりセリーヌ様は恋人を連れて行くわけです。ショシャナ様も、シメオン様を連れていかれては?」


 はい?


「セリーヌさんは知りませんが、シメオンは恋人じゃありませんよ」


「恋人か否かは、まあ今は良いですけど……お世話になっているなら、連れて行かれては? 彼の分も私が作りますよ。あ、お代は結構です。趣味ですので」


 うーん、別にシメオンは恋人とか、そんなんじゃないし……

 いや、でもお世話になっている、うん、なっているね。最近は甘えてばかりだし、連れて行くのは道理にかなっている、のかな?

 で、でも恋人だと思われるのは……


「顔赤いけど、もしかして風邪、治ってない?」

「い、いえ……ご心配は無用です、セリーヌさん。……シメオンに関しては後で追って連絡します、シャルロットさん」

「お早めにお願いしますね」


 ニコリ、とシャルロットさんは笑った。


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