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第22話 幼馴染による看病 後

「ん……おいしい」


 私はストローからお水を飲みながら呟いた。

 セリーヌさんが残してくれたメモからシメオンが作ってくれたものなのだが、これが中々飲みやすい。


 しかしどうして塩と砂糖を入れるのだろうか?

 美味しくするため?

 今度、聞いてみようか。


 などと思っていると、ちょっといい匂いがしてきた。

 シメオンがお皿を持って現れた。


「顔色が少し良くなったな。食欲はあるか?」

「匂いを嗅いだら、出てきました」

「それは良かった」


 そう言ってシメオンはお盆に乗せたお皿を私の膝の上に乗せた。

 お皿に入っていたのは……ミルク粥だ。


 米を牛乳で煮て、砂糖や蜂蜜などで甘く味付けした食べ物だ。

 ドライフルーツが乗っている部分が、少し女子力高い。


「料理、できたんですね」

「簡単なものならな。味は不味くはないはずだ。ほら、食べろ」


 私に食べるように促すシメオン。 

 ミルク粥は確かに美味しそうだけど……違う、違うんだよ、シメオン。


「……食べさせてくれないんですか?」

「はぁ?」

「お父さんは、私が風邪の時は、食べさせてくれました……」


 ダメだ、気が弱くなっているらしい。

 最近、ちゃんとお別れしたばかりだというのに……父のことを思い出したらちょっと涙が出てきてしまった。


「はぁ……」


 シメオンは大きなため息をつくと、皿を手に取り、匙で粥を掬った。

 そして私の口元に運ぶ。


「ほら、これで良いか?」

「猫舌なんで、ふーふーしてからしてもらえると、もっと嬉しいです」

「お前、急にずうずうしくなったな」


 シメオンは眉を顰めた。

 が、しかし文句を言いながらも、冷ましてから私の口に運んでくれた。


「ん……美味しいです」

「そいつは良かった」


 一通り食べ終えると、シメオンは食器を下げた。


「……どうした? 寝ないのか?」

「その前に体を拭きたいです……べちょべちょで。ついでに着替えも」

「ああ……まあ、汗まみれだと、それはそれで体を冷やしそうだな。少し待ってろ」


 シメオンはそう言うと、食器を持って台所に消える。

 しばらくするとお湯を沸かす音がし、それから少しするとお湯の張った桶とタオルを持ってきた。


「これで良いな? 俺はドアの外で待っているよ」


 私は小さく頷いた。

 シメオンが出て言ったのを確認すると、服を脱いだ。

 タオルをお湯で濡らし、体を拭く。


 ちょっと気持ちが良い。


 あらかた体を拭き終えてから、最後の部分に手を伸ばそうとして……

 私は重大な問題に気付く。


 あー、どうしよう。

 これは……シメオンに頼むしかないけど、いや、でも、恥ずかしいし……

 うーん、でもここだけ汗まみれは気持ち悪いしなぁー。


 ……まあ、シメオンは無害だし良いか。

 襲う気があるなら、とっくに襲っているでしょう。


「あー、シメオン、シメオン」

「どうした? 何か、問題が?」

「そのー、できれば、なんですけど……」

「どうした?」

「背中、拭いて貰えませんか」


 ガタリ、と音がした気がした。


「はぁ? お前、正気か!?」

「正気ですよ。……ほら、前に言っていたでしょう? 私は妹だって……なら、良いでしょう?」

「い、いや、あれは……その、ああ、もう! 分かったよ。取り敢えず、前を隠して、背中を向けろ! 準備が出来たら言え」


 私は脱いだ衣服で前を隠してから背中を向いた。

 そしてシメオンを呼ぶ。


 ドアが開く音、そして背後にシメオンの気配がする。


「じゃあ、拭くぞ」

「よろしくお願いします」


 ぴちゃり、と暖かい濡れタオルが背中に触れた。

 ゴシゴシと肌を擦られる。


「ん……」

「どうした?」

「いえ、心地よかっただけです」

「そ、そうか」


 シメオンはああ見えて几帳面な性格をしている。

 文句を言いながらも隅々まで背中を拭いてくれた。


「ほら、終わったぞ。もういいか?」

「一つ、頼みがあるのですが」

「何だ?」

「そこのクローゼットから、服も取って来て貰えませんか?」


 生憎、着替えを用意していなかった。

 しかし体が怠くて、取りに行くのも億劫だ。

 まあ、無理をすればできるのだが……折角なのでシメオンに甘えてしまおう。

 

「……まあ、別に構わないが。服は何でも良いんだな?」

「ええ」


 シメオンは適当な衣服をクローゼットから引っ張り出してくれた。

 出かける用事は当然なく、組み合わせなどどうだって良いのでシメオンの服のチョイスには文句はないが……


「下着もお願いします」

「はぁ? ……あー、もう、分かったよ」


 シメオンはため息をつくと、私に下着を放り投げた。

 顔に下着が張り付く。


「あの、嫌なのはわかりますが、そういう、露骨に汚いものを扱うかのように振る舞われると、ちょっと私の繊細な心が……」


「いや、汚いって、別に……」


「じゃあ何ですか?」


「あー! もう、俺は出る! 体を冷やさないうちに服を着て寝ろ。何かあったら大声で呼べ!!]


 シメオンはそう叫ぶとドアを開けて出て行ってしまった。

 はて?

 何か、怒らせるようなことを言っただろうか。





「んー! 調子が良い!!」


 翌朝。

 私は気分よく、目覚めることができた。


 身支度を整えるためにドアを開けると……


「うわっ! シメオン!?」


 なぜか、廊下でシメオンが毛布に包まって寝ていた。

 私の声に反応し、むくりと起き上がる。


「ん……ショシャナか。その様子だと、熱は下がったようだな」

「ええ、おかげ様で。……情けない姿を晒してしまいましたね」

「気にするな。……うん、熱はないな」


 シメオンは私の額に手を当てて言った。

 これにはちょっとびっくりしてしまう。


 ……そういえば、昨日、かなりシメオンに恥ずかしい頼み事をしたな。

 あー、もう……今になって恥ずかしくなってきた。

 

「顔が赤いな? まだ熱が下がってないのか?」

「ち、違いますよ……ところで、ど、どうして廊下で?」

「そりゃあ、お前が助けを読んだ時に声が聞こえないと困るだろ?」

「そ、そうですか……」


 昔はあんなに、意地悪な悪ガキだったのに。 

 本当に、いつの間にこんなに紳士になっちゃったんだ?


「あ、ありがとう、ございます。すみません、本当に、迷惑を掛けて」

「気にするなと言っただろう? お前はもっと、普段から人に迷惑を掛けろ」

「でも、その……」


 正直、恥ずかしいからあまり持ち出したくはないが……でも謝らないわけにはいかないだろう。


「本当に、変な頼み事ばっかりしちゃって、すみません」

「あ、ああ……あれは、まあ、そのあれだ。風邪で弱ってれば、そういう時もあるだろう」

「……そういって頂けるとありがたいですけど、その、できれば、忘れて頂けると。い、今更思い返すと、父以外の男性に自分から肌を晒したのは、初めてなので……」


 ああ、恥ずかしい。

 思い出すと顔が熱くなってしまう。


「あ、ああ……努力するよ」

「お願いします」 


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