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第2話 修理したバイクで走りだす

 それから約一週間。

 私はこのバイクと格闘した。


 いくら構造、材質、仕組み、使用用途が分かっても私にはこれを直すような知識や技術はない。

 何しろ“異世界”の科学技術なのだから。

 完全な手探りだ。


 幸いだったのは、ほぼほぼ同じ型のものが三台あったことだろう。

 壊れている部品を、壊れていない部品と交換するのはさほど難しくはない。


 足りない部品は魔導具や魔術で代用する。

 原理は異なれど、同じ結果を弾き出せる魔導具や魔術は存在する。

 頭を使えば十分に代替は可能だった。


 長く苦しい戦いは続き……

 そしてついに、修理が終わった。


「よっし!! 完成!!」


 ちゃんとエンジンが掛かることを確認した私は、思わずガッツポーズを取った。

 この喜びは五歳の頃、初めて魔導具を自作した時以来のものだ。


「ふふ、まあ魔導具もバイクも、原理は違えども結局は同じ機械製品であり、科学技術の結晶である点は変わらない。なら、魔導技師である私が修理できないはずがないってね」


 よし、完成したとなれば後は試運転だ。

 私はウキウキでバイクを手で引きながら家を出る。


「さすがに大通りでは走れないからなぁ……」


 神聖イブラヒム同盟、有数の大都市、エスケンデリア市。

 そして神聖イブラヒム同盟最大の“異教・異端街”であるバスコ地区。


 その大通りでバイクを爆走させるわけにもいかない。


 そういうわけで私は徒歩でバスコ地区を出て、さらにエスケンデリア市の市街へと向かう。

 エスケンデリア市を出ると、そこには広大な岩石砂漠が広がっている。


 私は太陽の直射日光を避けるために、フードを深く被る。


「ちょっと足場は悪いけど、この子ならば乗り越えられるはず」


 もはや母性すらをも感じるほど愛着を抱いているバイクの上に私は跨った。


「ところで、これ私に乗りこなせるかな? ……まあ、なるようになるでしょ!」


 取り敢えず、知識だけはあるのだ。 

 人間が乗れるようにできているのだから、人間である私に乗れないはずがない。

 もっとも“異世界”人の人体構造が私と同じであれば、の話だけれどね。

  

 エンジンを掛け、アクセルを入れる。

 少しずつ前へと進み始めるバイク。


 私は両足を離し、さらに速度を上げる。


「っく、ぉおおおおお!!!!」


 するとふらつきながらも、順調にバイクは進み始めた。

 ぐんぐん、速度が上がる。


「な、なるほど! 速度がある方が安定するのね!!」


 風を切って進む、とはまさにこのことだろう。

 強い風でフードが外れてしまったが、気にならない。

 

 馬やラクダよりも、早いのだ。

 楽しくないはずがない!


「さすが、さすが私! やっぱり、私って神童だわ! 《場違いな芸術品》を修理したのって、私が世界初じゃない!?」


 最高の気分だ!!


 と、調子に乗っていたのが悪かったのだろう。

 

「あっ……」


 少し大きな石に乗り上げてしまった。

 体が投げ出される。


 強い衝撃が全身に走り、視界がぐるぐると回る。


「い、いたたたた……調子に乗り過ぎたぁ……」


 とりあえず、五体満足なのは不幸中の幸い。

 私は砂ぼこりを払いながら、相棒(バイク)のもとへと向かう。


 幸いにも壊れた様子はない。


「さて、試運転は終わったし、歩いて帰りますか……そういえば、何か、大切なことを忘れているような……」


 はて、何だったか? 

 そして、私は気付いてしまう。


「あ、借金」


 ま、不味いな。

 あれから何日経過した? ……一月は経過しているよね?

 そろそろ利子の返済期日じゃないか?


 えっと……三日後だ。


「あ、遊んでいる場合じゃない!」


 こんなガラクタで私は何をしているんだ!

 とっさに私は駆けだそうとして……


「ちょっと、君!」

「はい?」


 声を掛けられた。

 振り向くとラクダに乗った、浅黒い肌の男性がこちらを見下ろしている。

 年齢は……二十歳前くらいか? 容姿はまあまあ整っているように見える。

 身なりからするに、かなり身分が高い、もしくは富裕層の人だ。


「さっき、盛大に転んでいたようだが、大丈夫かな?」

「は、はい! 怪我はありませんが……」

「そうか、ならば良かった」


 男性はそう言ってラクダを降りた。

 そして私のバイクを舐め回すような視線で見つめる。


「えっと……」

「それ、《場違いな芸術品》だね?」

「そうですけど……それが?」

「さっき、動いていたよね?」


 私は頷いた。

 先程まで、バイクを乗り回していた姿はしっかり見られてしまっているだろう。


「見せてもらえないか?」

「ええ、良いですよ」


 どうやらこの人も、父と同じ“オタク”らしい。

 キラキラとした目でバイクを見たり、触ったり、嗅いだり、叩いたりする。


「凄いね……ちょっと、乗ってみても良いかな?」

「構いませんが……危険ですよ?」

「なーに、何とかなるさ」


 まるでさっきの私みたいなことを言いながら男性はバイクに跨った。

 とりあえず、私は操作方法を教えてみる。

 

 腹の立つことに、男性は私以上に上手にバイクを乗りこなしてみせた。


「これほどまで調子良く動く、保存状態の良い、《場違いな芸術品》は初めてだ!! どこで見つけたんだい?」

「見つけた……と言うよりは、私が修理しました」


 嘘を言っても仕方がないのでそう答えると、男性は目を丸くした。

 そしてしばらく考え込んだ様子を見せてから、私に対して指を一本出した。


「これで、どうかな?」

「どう? とは?」

「値段だよ、値段。買い取らせてくれ!」


 指、一本?

 ということは銀貨一枚ということか!

 

 こんな、足が速いだけのガラクタが銀貨一枚だなんて……


「そ、それは……」

「むむむ、安すぎるか! では、これでどうだ? いや、こうだ!」


 男性は指を五本立て、そこからさらに五本立てる。

 合計、十本。

 銀貨、十枚!


 最低限の利子が払えるじゃないか!


「ど、どうぞ、どうぞ! 差し上げます!」

「ふむ、ありがとう。……ああ、しかし手持ちにお金がなくてね。屋敷まで、来てもらえないかい?」

「分かりました!」


 私は男性と共にエスケンデリア市へと戻る。

 男性のお屋敷とやらは、エスケンデリア市の一等地にあった。


 私の推察通り、とんでもなく大きな屋敷だ。

 もしかしたら貴族か、聖職者階級なのかもしれない。


「ほら、代金だ」


 渡されたのは……銀貨ではなく、金貨。


「約束の金貨十枚だ」

「き、金貨!?」


 私は思わず息を飲んだ。

 あ、あんな動くガラクタに金貨十枚は申し訳ないような……

 

 私が戸惑っていることを知ってか知らずか、男性は私に尋ねる。


「そういえば君の名前は?」

「は、はい! バスコ地区、モーシェの息子のレヴィの娘、ショシャナです。ショシャナ・レヴィ・モーシェです」


 男性は目を細めた。


「なるほど、覚えておこう。しかし、バスコ地区、か。まあ、良いか」


 どうやら男性は“異教・異端”か、そうでないかは細かいことは気にしないタイプのようだ。 

 それともそれ以上にバイクが手に入ったことが嬉しいのか。


「……そろそろ日が暮れる、早いうちに帰りなさい。大金を持っていることだしね」


 男性は上機嫌な様子でそう言った。

 私は何度もお辞儀をしてから、屋敷を後にする。


 そして金貨十枚が詰まっている袋を見て、思うのだった。


「……これは商売のタネになる」


 状況を打開する方策が浮かび上がった。


評価、ブクマ等をしてくださりありがとうございます

これからも応援をよろしくお願いいたします

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