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第18話 莫大な借金

前話、十七話で十六話と全く同じ話を投稿してしまうというミスを犯しましたが、修正しました

「……これ、ここで良いか?」

「ええ、お願いします」


 私は魔導具の修理をしながら答えた。

 ついでに重い荷物を運んできてくれたシメオンを労う。


「やっぱり男手があると頼りになりますね」

「……」

「それに安心できます。シメオンがいるだけで、抑止力になりますから」

「……」

「それにシメオンは物覚えが良い上に器用ですから、いろいろ仕事を任せられます。それに人柄も信用できるし……」

「お前さ」


 シメオンは腰に手を当て、呆れ顔で言った。


「俺を褒めそやして昨日のことを有耶無耶にしようとしていないか?」

「ま、まさか……ほ、本当の気持ちを言っただけですよ?」


 嘘は言っていない。

 ……そういう意図がないわけではないが。


「まあ……昨日のことは本当に、反省していますから。お詫びに何でもしますよ。勿論、私にできる範囲で、ですけれど」


「ふーん、何でもね」


「あらかじめ言っておきますが、やらしいことはしませんよ」


「お前にそんなこと、頼むわけないだろ」


「それはちょっと、失礼じゃないですか!?」


「何で怒るんだよ……」


 複雑な乙女心というやつだ。

 まあ、シメオンはモテるから私のことなんて眼中にないことは知っているので、別に何ともないのだが。


「まあ、メシでも奢って貰えればそれで良いよ」

「食事ですか。ん……じゃあ、ちょっと高めのレストランでも行きますか?」

「いや……それは良いよ。なんか、お前、お金に余裕がないだろ?」

「……よく分りますね」


 お金に余裕がないのは、借金のせいだ。

 前までは私と父の両輪で店を運営していたが、今では私一人だ。

 これではどうしてもできる仕事量は減ってしまい、生活も苦しくなる。

 

 今思うと、父はかなり頑張ってくれていたのだろう。

 父の努力は知っていたが……やはり自分自身がしっかりした立場になるのと、保護される立場に甘んじ続けているのでは全然違う。


「仕事を早めに切り替えて……安い酒場にでも行こう」

「お酒、ですか……まあ、良いでしょう」


 たまにはそういう日もあって良いか。






 その日は早めに店を閉め、少し明るいうちに酒場へと向かった。

 お酒もさほど飲むわけではないし、こういう時に食べる料理も分からない。

 

 私は注文に関してはシメオンに任せることにした。

 シメオンは慣れた様子で料理を頼んでいく。


 しばらく待っていると、麦酒を店員が運んできた。


「「乾杯」」


 私とシメオンは軽く、コップを当てる。

 ごくっ……うーん、苦いな。

 

 次は蜂蜜酒にしよう。


 遅れてやってきた肴の揚げ物を摘みながら、他愛無い会話をする。


「……そう言えば、さ」

「何でしょう?」

「例の仕事、受けるのか?」

「セリーヌさんからの依頼ですか? それなら受けるつもりですよ。報酬も貰えるらしいですしね」


 あの後、セリーヌさんとシャルロットさんから手短な説明があった。

 それは《場違いな芸術品》に関する研究に協力して欲しい、ということだ。


 普遍教会は「この世のすべては創造主の作り出した、絶対にして唯一にして普遍の法則によって成り立っている。故にこの普遍法則を“科学”によって解き明かすことはすべてのイブラヒム教徒の義務である」というお題目を掲げている。


 そんな普遍教会にとって、既存の自然科学や魔法科学で説明できなかった《場違いな芸術品》は非常に気に食わないものであった。


 これを“科学”の外側であると認めることは、自らの普遍性の否定だからできない。

 しかし自分たちが普遍的であるとしている“科学”では解き明かせないのもまた事実。

 それがもしかしたら解き明かせるかもしれないというのだから、躍起になるのは無理もない。


 ……まあ、本音のところは戦争などに利用したいだけなのかもしれないけれど。

 

「だが、店があるだろう? 仕事はどうするんだよ」

「勿論、疎かにするつもりはありません。無理のない範囲で、協力するだけです」


 私はチビチビと麦酒を飲む。

 うーん、大して飲んでないけど、何だか少し回ってきた気がする。


 一方、シメオンはかなり強い方らしい。

 グビグビと飲みながら、どこか不機嫌そうな表情で言う。


「そんなに金が必要なのか?」

「……卑しいと思いますか?」

「そうじゃない!」


 シメオンは語気を強めた。

 やや顔が赤らんでいる。


「俺は……昨日、お前が遊んでいるのを見て……腹が立ったが、それ以上に安心したんだ!」

「はぁー?」


 何を急に言い出すんだ。


「お前、安息日以外はずっと、仕事をしてるだろ! 夜遅くまで!!」

「そんなことは……」

「じゃあ、どうして目に隈があるんだ! お前、全然、寝てないだろ。ちょっと前、見張ってたけど……真夜中、ずっと灯りがついてたぞ! 三時間くらいしか、寝てないんじゃないか?」


 す、鋭いな。

 確かに……私のここ半年間の睡眠時間は三時間程度だ。


 ずっと灯りを着け、作業をしている。

 最初は辛かったが、最近は慣れてきた……と思う。


「大体、お前、十三歳だろ? 十三歳の女の子は、そんな夜遅くまで、働いたりしないんだよ!」


「し、仕方がないでしょう……売上を落とすわけにはいかないんです。父の分まで、私が働かないと」


「お前一人で、お前の親父さんの分まで働けるわけないだろ! それに……俺がここに来るまでは、ずっとあんな重労働を一人でしていたんだろ? 働き過ぎだ!」


 魔導具は大型の物が多いし、それにうちの店は家具なんかも取り扱っている。

 時には力仕事が必要になる。

 だからシメオンがいない時は……正直、かなり大変だった。


「そうですね。シメオンが来てくれたおかげで、かなり楽に……」

「でも、その分、仕事を増やしちゃダメだろ! このままじゃ、体を壊……」

「うるさいですね!!」


 思わず、私はテーブルを叩いた。

 そんなこと、言われなくても分かっている。

 私だって、眠いし、疲れてるんだから!!


「仕方がないでしょ!! 借金があるんです!! それを返さないと、家と店を手放さなきゃならなくなる。今は、私が頑張らないと、ダメなんです!!」


 怒鳴ってから、気付く。

 ちょっと大きな声を出し過ぎた。


 いたたまれなくなった私は、チビチビと麦酒を口にする。

 あー、こんなに感情を露わにするなんて、私らしくない。


 やっぱり酔ってるのかもしれない。


「……今、借金と言ったか? 俺は、聞いてないぞ」

「言ってませんからね」

「どうして、教えてくれなかったんだ?」


 どうして、と言われても。


「教える必要がありませんし、無用な心配を掛けるだけかと……」

「一人で背負い込むなよ!」


 シメオンは強くテーブルを叩いた。

 

「お前はいつもそうやって、一人でやろうとして、人に頼らない」

「うるさいですね……あなたは、私の何だって言うんですか」

「幼馴染だ」


 シメオンはきっぱりと答えた。

 幼馴染って……


「私と違って、あなたにはほかにもたくさん、友人がいるでしょ? 私のことなんて……」

「お前は、特別だ!」


 と、特別?

 私は自分の顔が熱くなるのを感じた。


 ……落ち着け。

 どうせ、酔った勢いで変なことを言っているだけだ。

 

 変な意味があるわけない。


「どう、特別だって言うんですか?」

「そ、それは……い、妹だ! そう、お前は俺の妹なんだよ!」

「……私はあなたみたいな兄は嫌ですけど」


 妹ね。

 ふん、どうせ、そんなもんだと思ったよ。


「い、嫌って……と、とにかく、俺はお前のために、帰ってきたんだから、何でも相談しろ!」

「……私のために帰ってきたんですか?」

「え? いや……う、うん、まあ、とにかく、俺を頼れ! 借金はいくらあるんだ?」


 ……まあ、そこまで言うなら。

 教えてあげるか。


「千ディナルです」

「せ、千!?」

「ええ……父はずっと昔から返済していたようですが、今でもそれくらい残っています」


 一ディナルが日雇い労働者が月で稼げる金額くらいだから……

 日雇い労働者の四十年分の賃金くらいになる金額だ。

 成人一人の最低限の生活費も一ディナルくらいなので、日雇い労働者では一万年働いても返せないだろう。


 勿論、私の魔導具店はそれなりに儲かっている。

 税金等を含めなければ、百ディナルくらいの収入がある。

 無論、これは私が頑張り続けることが前提だ。

 今は一日に十八時間程度働いているけれど、それを半分にしたら、当然その分収入は下がる。


「十五年以内に完済予定です。それで、あなたはどうしてくれるんですか?」

「……肩代わりしてやる」

「はぁ?」


 何を言ってるんだ。


「そんなお金、どこに……」

「ある」


 シメオンははっきりと、そう言った。


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