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第10話 幼馴染とお父さん

「げっほ、げほ……さて、困ったな」


 私は煙管を吹かせ、咳き込みながら呟く。


「道に迷った」




 私は大型の魔導具の修理依頼を受け、バスコ地区を出た。

 そしてちゃんと依頼主のもとへと辿り着き、魔導具を修理し、お金を受け取った。

 

 まあ、ここまでは良い。

 問題はそこからだ。


 道に迷った。


「困ったな……もう暗くなり始めてるし」


 太陽はもう傾きかけており、このままでは辺りは真っ暗になってしまうだろう。

 

「まあ、歩いていれば着くでしょう」


 私は煙管を口から取り出すと、適当に歩き始める。


 エスケンデリア市は広い。

 が、私はこのエスケンデリア市の生まれだ。


 どこか、見覚えがある場所に出ることができれば、帰ることもできるはずだ。


 

 ……と考えていた時期が私にもありました。


「不味い……ちょっと、入り組んできた」


 いつの間にか、私は大通りから外れ、狭い道に迷い込んでしまったらしい。

 無数に乱立した高層住宅と、それに囲まれた細い道はまさに迷路。


「こ、困ったぞ……」


 何が不味いのか、というと今はもうとっくに日が落ちて、暗くなりはじめている。

 そしてここはあまり治安が良いとは言えない裏路地。

 私は大金を持っていて、そして非力な十三歳の女の子。

 顔も……まあ、そこそこだと思う。 

 何より、少数派の異端者だ。


 これはいわゆる、鴨というやつではないだろうか?

 

「と、とにかく、表通りに出よう」


 ここでは何かあっても、助けは呼べない。

 私は早足でこの場から立ち去ろうとする。


 が……


 暗闇で何かが、私の手を掴んだ。

 不味い。


 そう思うまでもなく、路地裏へと引きずり込まれる。


「た、たすんぐっ!」

「死にたくなかったら、黙れ」


 大きな手で口を塞がれる。

 そして背中に何かを突き付けられた。

 チクン、と痛みが走る。


「このまま、こっちへ来い」

「……」


 従うしかない。

 私はゆっくりと後ろへ下がる。


 奥へ奥へと、連れ込まれる。


「ここまで来ればもう良いか。ほら、こっちを向け!」

「あっぐ!」


 強引に体を引っ張られ、そして壁に叩きつけられる。

 

「っひ!」

「妙な真似はするなよ?」


 顎先にナイフを突きつけられてしまえば、もう何も抵抗できない。

 暗闇の中には男が三人ほど。


 ニヤニヤと笑っている。


 リーダー格と思しき男が、腕を組みながら言う。


「ショシャナ・レヴィ・モーシェだな」

「ど、どうしてそれを……」

「早く答えろ!」

「っひ、は、はい! そうです!!」


 私が何度も首を縦に振ると、男は満足気に頷いてから再度尋ねる。


「有り金を全部出し……いや、妙な真似はするな。金はどこに仕舞っている?」

「か、鞄の中です」


 男の一人が私の鞄をひったくる。

 

「おお! 十ディルハームもありますぜ、お頭」

「そんなものよりも、ほれ、こいつが持ってる、これ!」

「あっ……」


 右手に持っていた煙管をひったくられた。

 男は、リーダー格の男に私の煙管を持っていく。


「見てください、お頭! これ、かなり良いものじゃねぇですか?」

「ほう……これは中々の品だな。間違いなく、一ディナル以上はするぞ」


 父の形見の品をしげしげと眺める男たち。

 しかしナイフで脅されている私は何もできない。


「まあ、戦利品の鑑定は、身包み剥いで売り払っちまってからでも良いだろ」


 リーダー格の男は煙管を胸ポケットにしまうと、剣を抜いた。

 ……売り払う?


「すぐに売っちまうのは勿体ないですぜ。久々の上玉だ」

「その前に少し、楽しんでも良いでしょう?」

「……まあ、それもそうだな」


 楽しむ……?

 間抜けなことに、私はようやく、自分が貞操の危機に瀕していることを本当の意味で自覚した。


「っひ! い、いや! 誰か、助け、っぐぁ」


 お腹に強い衝撃。

 思わず息が止まる。


 気付くと私は押し倒されていた。

 三人がかりで抑えつけられ、身動きが取れない。

 口に布のようなものを押し込まれ、声が出せない。

 男たちは野卑な笑みを浮かべながら、私の体に手を伸ばす。

 服が破かれる。


(父さん、助け……)


 涙で目の前が霞む。


「っぎゃぁ、な、何だ?」

「誰だ、貴様! っぐぅぁ!」

「っひ、助け……」


 うん?

 気付くと、男たちの動きが止まっていた。

 

 沈黙してしまった男たちの下から、もぞもぞと私は這い出る。


 周りを見ると、男たちは血を流して倒れていた。

 顔を上げると、そこには剣を持った男性が一人。


「……父さん?」

「お前には俺が父親に見えんのか?」


 そう言って男性は私に手を差し出してきた。

 甘えるままに手を借りて、起き上がる。


「えっと……助けてくださり、どうも、ありがとうございます。その、お名前を……え? シメオン!?」


 月明りに僅かに浮かぶその男性の顔は、シメオンのものだった。

 そ、そうか……し、シメオンだったか……

 

「そうだ。……さっきのは聞かなかったことにしてやる」

「そ、それは、助かります」


 まさかシメオンを父と勘違いするなんて……一生の不覚だ。

 ……そもそも父さんは、もう死んでいるというのに。私はどうかしている。


「怪我はないか?」

「おかげさまで」

「そ、そうか……まあ、とりあえず、それは良いんだが……こいつを着ろ」


 そう言ってシメオンはマントを脱ぎ、私に手渡してきた。

 思わず首を傾げる。


「どういうことですか?」

「い、いや……か、隠せ! 目の毒だ」


 そういうシメオンの視線は、やや私の顔の下辺りに向かっているような気がした。

 思わず視線を降ろし……そして気付く。


 服が破けている。


 私は顔が熱くなるのを感じた。


評価、ブクマ等、ありがとうございます

これからも応援をよろしくお願いします。

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