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第17話


緒沢家発祥の縁起? 


その質問は、

すでに家督を継がないことが決まってるタケルにはきつい質問だ。

 覚えちゃいねー・・・って。


 「え・・・えーと、

 大昔のえらーい神様の子孫だってことだよな?

 緒沢家は、元々そいつを祀る神職で、

 爺ちゃんの前までは神主だったんだよな・・・?

 なんとかのミコト・・・だったよね・・・?

 タケハヤ・・・なんとかゴニョゴニョ・・・」

 「・・・やしろそのものは、

 今は田舎の信者の方に管理してもらってるけど、

 本来、緒沢家を継いだ者は、

 代々受け継いだ様々なしきたりや縁起を伝えていかなくてはならない・・・、

 そこまでは・・・いいわね?」

 「お・・・おう・・・。」


タケルに抱えられた人形は既にぐったりとしている・・・

時々無意味な動きを繰り返す。


 「私が受け継いだ緒沢家門外不出の『祓の剣』は、

 もともと侍や武士の剣術ではなく、

 ・・・神職に携わるものとして、

 魔物や魑魅魍魎を鎮める為に、

 1000年以上に亘って受け継がれてきたものだわ・・・。

 その事は?」

 「そう言えばそんな事を・・・て、

 まさかこの状況でそんな話をするってことは・・・」

 

 

美香は立ち上がって、凛としてタケルに告げる。

 「その人形をこっちに持ってきて。

 ・・・私も初めてだけど、

 この人形を成仏させる事が出来れば・・・!」

 「そんな事ができるのか!?

 第一こいつは今日子を殺して・・・

 そんな奴の為に!!」

 「罪があるとしたら、この人形を作った奴よ!

 殺された人の魂はモノを考える事が出来ない、

 魂の無念さ・・・、

 殺される事への恐怖と、

 プログラムが融合してこんな事態に発展したに違いないのよ。

 ・・・それにタケル、

 家督を継がないあなたには、

 今まで『祓の剣』を見せた事はないわ。

 それは家督を継ぐ者にしか見せられないものだから・・・。

 でも、もし私に万一の事があった場合、

 緒沢家を継ぐのはあなた・・・。

 いま、ここで、その技を目に焼き付けなさい・・・!」

 「またそんな不吉な・・・万一って・・・。」


だが、

美香の強固な意志にタケルは反論できやしない。

タケルは美香の指示を受け、

机の位置をずらしてスペースを造り、

人形をモニターの手前に立てかける。

身を清める代わりなのか・・・

美香は上着を全て脱ぎ捨て、

ブラとボトムのみの姿で人形の前に立った。

 


 

 (何だ何だあ!?)

下はさすがにそのままだが、

上半身はライトグリーンのレースのブラだけだ。

ローライズのウェストからは、

ブラとセットの下着も見え隠れする。

・・・まぁ、

普段、家で見慣れてるからどおって事は無いが・・・。

いつもなら「まな板」とでも言う所だが(その場合は血を見る覚悟がいる)、

今はそんな状況じゃない。

しかも美香があんな目をした時に、

どんな男だろうと、

茶化したり、ふざけられるものではない、

・・・それは女神か女王のような絶対的威厳を、

見るもの全てに与えるものだから・・・。


準備が全て整うと、

美香は再び弟を真剣なまなざしで見つめる・・・。

目で詰問しているのだ・・・、

覚悟は出来たのか・・・と。

タケルもそのことは察知した・・・。

しかしながら、

1000年以上に及ぶ伝統と重みを、

自ら支える覚悟を決めれる程、

タケルの心の準備はまだ整ってはいない・・・。

美香は、

抜き身の刃のような厳しい視線をタケルに突きつける。

気弱なタケルは思わず視線を落としてしまうが、

自分がすべき事ぐらい理解はしているのだ。

 


  

 ・・・自分で立てた誓いを忘れたのか?

 いや、忘れるものか・・・。

 それはオレが強くなる事・・・、

 美香姉ぇが安心してオレを見ていられること・・・

 だから・・・。


タケルは勇気を振り絞って姉を見返す・・・

力強く!

 全部受け止めてやる!


しばらく二人はそのままの状態だったが、

美香は弟の意志を感じ取ると、

表情こそ変えないものの、

彼女の心は誇らしさで満たされていった。

もう、心配は何もない、

美香は今一度人形を見下ろし、

握りしめていた木刀を、片手で高々と天にかざす。


 「・・・葦原の国にて迷いし荒御霊よ、

 此処は汝が留むる処にあらじ・・・、

 我が指し示す道路みちぢに寄りて、

 汝のあるべき処に鎮め奉らん・・・」


詩でも吟じるかのように、

美香の声が静かな部屋に響き渡る・・・。

ほんの一瞬、

目をつぶったかと思うと、

すぐに目を開くと同時に右手を払って木刀が大きな弧を描く。

美香の舞が始まった・・・。

腰を深く沈ませ、

腕をいっぱいに広げながら・・・、

時に静かに・・・時に激しく・・・、

悲しそうでもあり、

優しそうでもある不思議な舞踏・・・、

タケルが初めて目にする「祓いの舞」・・・。

 


それは、

タケルがこれまで見知ってる如何なる舞踏にも、

似ているようで似ていない奇妙な舞だった・・・。

しめやかな神楽の様でもあり、

情熱的なフラメンコのようでもあり、

華麗な歌劇のプリマのようでもある。

緒沢家が伝えていたのは、

遠い遙かな古代のシャーマンの記憶・・・。

時代や様式、

言葉が変化しても、変わりなく伝えられていた原初の神事であったのだ。

後に神道や武術の発展などの影響も受けたが、

その本質は変わることなく、

子々孫々まで伝えられてきた。


そして今、

当代継承者の美香は、

その秘儀の一部を弟に伝えようとしていた・・・。


 タケルはみるみる成長している・・・、

 まだ頼りないし、お粗末な事が多いが、

 彼も間違いなく緒沢家の血を受け継いでいる・・・。


美香は、

こんどの事件でそれを確信するに至ったのだ。

そしてまた、

弟のタケルも姉の美しい舞いから全てを学んでいた。

恐らく、美香が上半身を露出させたのも、

その微妙な流れを見せ付けるために違いない。

天女の舞のような美しさに目を奪われながらも、

その流れ、リズム、目の配りや指先の細かい角度でさえも、

頭で覚えるのではなく、

タケルは己が目に刻みつけていたのだ。


・・・祓いの儀式が終わっても、

タケルは目を逸らす事が出来ない・・・。

美香も静かに舞踏の余韻の中にいる・・・

ある種のトランス状態の中にいたのだろう、

なかなか、「こちら」に戻ってこれない。

タケルと美香は段々と意識を取り戻し始めた。

美香ももう、

体力は残っていない。

よろよろとよろめくと、

タケルが下着姿の美香のカラダを支える・・・。

彼女の目も、

もう瞼が重く半開きだ・・・。

だが、

彼女のその視線はマザー・メリーとモニターに注がれていた。

いまや人形は、ピクリとも動かない、

モニターもカーソルが静かに点滅しているだけ・・・、

その点滅の直前のメッセージは、一言、


 「 ありがとう 」

・・・


それだけ確認すると、

美香はタケルを見上げて、

 「・・・やったじゃん・・・?」

と、勝ち誇ったように微笑んだ。

 





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