第14話
いよいよ戦闘開始です!!
誰かが自分を見ている・・・
美香は無意識に首を動かした・・・。
その方向にあるのはスチール製の書類棚・・・。
いつの間にか扉は開ききっており、
何かがそこにうずくまっている。
「 キリィィリヤァァァァーッ!!」
美香の視界いっぱいにそのおぞましい姿が拡がる!
人形マザー・メリーが美香に襲い掛かったのだ。
美香の美しい顔に分厚い斧の接近・・・!
油断こそしてはいなかったものの、
受けの体勢を取ってはいない!
重量と遠心力が加わった幅広の斧の攻撃は、
美香のカラダごと防御の木刀を弾き飛ばした。
「アグッ!」
彼女の柔らかいカラダが激しい音をたてて椅子や床にはずむ・・・。
美香はギリギリのタイミングで、
自ら後ろに跳び下がる行動を選択していたのだ。
木刀そのものは、
斧の柄の部分を受けたために損壊はしていないが・・・、
攻撃が頭部に向かっていたから防ぎ易かったものの、
これが胴体に向けての攻撃だったなら・・・。
「美香姉ぇーッ!!」
今日子を殺され・・・、
今また、たった一人の肉親をも攻撃されたタケルがブチ切れた!
机の上に一足で乗り上げ、
間髪いれずに跳躍する。
空中を滑空するかのような跳躍力、
アドレナリンの異常な分泌により、
タケルの目には全てが止まって見えていた。
眼下には床に転がった美香・・・
そして醜い化け物人形・・・!
今日子を殺ったのはテメェかぁッ!?
人形がタケルの攻撃に反応する。
人形の顔がこっちを振り向いた!
知ったこっちゃねぇ!!
このまま蹴り飛ばす!!
強烈なタケルの右足が人形の顔面にめり込む・・・。
このまま・・・
テメェのカラダごと壁に叩きつけてやらぁッ!!
吹き飛ばされて空を舞った人形は、
部屋の壁面に激しい音を立てて激突した。
タケルは辛うじて着地に成功し美香を振り返る。
「美香姉ぇッ!?」
美香は、
倒れ掛かった姿勢から必死に声を張り上げた。
「・・・無事よ!
それより前を見なさい!!」
人形はゆっくりとだが・・・
何事もなかったかのように立ち上がった。
全く効いていないのか?
机の上のモニターから舌ったらずの声が聞こえてくる・・・。
『・・・やったわねぇ?
今度はメリーさんの番よぉ?』
当然のことながら、
無機物の人形を攻撃したところでダメージなどない。
だが、
そのことを理解したうえで、
タケルの目は人形の顔面に吸い付けられていた。
(何だ・・・こいつのツラはぁ・・・!?)
長い髪の下には確かに顔らしきものがある。
普通の人間の顔なら・・・
いや、それが人形であったとしても、
目のあるところには目が・・・、
鼻の部分には鼻が・・・、
口には口がついているものだという先入観があるだろう・・・。
その前提で人の顔を区別する。
しかしこいつにはその前提が成立していない。
蝶の幼虫のように、
模様なのか感覚器官なのか一見してわからない。
それともリアルなお多福とでも言えばよいのだろうか?
目、鼻、口が、
いずれも有り得ないはずの場所についている。
だからこそ、
ピンボケの映像では顔を判別できなかったのだ。
そして今や、
マザー・メリーはゆっくりと攻撃態勢をタケルに向ける。
・・・タケルは素手だ。
相手は遠距離戦に優れた斧を両手で握りしめている。
自分を有利にさせるためには、
あの斧の軌道の中に入り込む事・・・。
接近戦ならこっちのもんだ!
そんなことを考えた刹那、
いきなり斧の攻撃が顔面をかする。
「うわわっ!?」
天性のカンで避けるのに成功したが、
タケルはこの人形の恐ろしさを、
今ここでようやく理解した。
人間なら、
その攻撃に移る瞬間、何らかの反応をする・・・、
それにあわせてこちらも防御なり反撃なりに移れるが、
この人形にはそういった予備的動作がない。
何の前触れもなく次の動作に入るのだ。
受けに回っていたらいつかやられる!
『あっれぇ? よけられちゃったぁ?
よぉ~し・・・次こそ当ててやるぅ!』
タケルの背後でモニターの声・・・。
醜悪な人形の顔と、
キャラゲーの声優のような、
甘ったるいボイスのアンバランスさがタケルをいらつかさせる。
次の人形の攻撃を待つ前にタケルが一気に踏み込む!
・・・しかし今度は人形の方が待ち構えていたようだ、
タケルの動きにあわせて斧が飛んでくる!
「う お お ぉ っ!?」
もはや避ける事などできはしない、
必死で斧の柄を抑えに掛かった。
タケルの目の前で、
黒光りする斧の刃が止まる・・・。
だが、
敵の間合いの中に入る事には成功した・・・。
このまま・・・!
一方、
美香は立ち上がって人形の動きを分析していた。
(学習しているの・・・?)
操られていた者達の動きは確かに単純だった。
だがこの人形は違う!
恐らくあの目のようなもので、
そこに映るものの動きを計算して・・・フィードバックさせ、
次の行動に反映させている、
・・・長引けば不利だ!
しかも、
ここまでずっと暴れていて、
自分もタケルもスタミナが限界に近い。
逆にタケルは別のことを考えている。
このまま力でねじ伏せる!
五体バラバラにしちまえば動けるわけはねぇ!!
タケルの腕の筋肉が張り上がる・・・
グ グ グと音が聞こえてきそうだ。
片手で斧の柄を掴んだまま、
・・・もう片手で人形の顔面を鷲掴みにする。
人間よりは軽い・・・!
そのまま空中に持ち上げ何度も何度も壁に叩きつける。
このまま砕いてやろうかぁッ!?
その時、
美香の耳は、再びハードディスクの異音を聞きつけた。
『・・・あ~ん、この人強い~!?
お友達のみんなぁ、メリーさんに力を分けてぇ?』
美香とタケルには何が始まるか分らない・・・、
だが、
マザー・メリーは、自らがデータとして保有している大勢の携帯電話の番号に、
許容範囲最大の発信を行い、適合者の精神エネルギーを吸い取り始めたのだ。