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第11話

キリが悪いので今回長めです。

 

タケルは今日子の頭を抱いて、

床にうずくまったままだ。

勿論そんな事などお構いなしに、

操られた者達はタケルと美香に襲いかかる。


 「タケルッ!?」

美香は懸命に、

木刀で暴徒達を打ち払うが、

自分を防ぐので精一杯だ。

あっという間にタケルのカラダがうずもれる。

 「うひゃあぁぁああッ!!」

各々、麻薬中毒のような叫び声をあげながら、

何十本もの腕が、

タケルの服、髪の毛、カラダなどに掴みかかった。


タケルは抵抗しなかった・・・、

カッターやハサミがカラダにつき立てられたり、

何度も何度も殴られたり引っかかれたり・・・、

抵抗できないのではない、

敢えて何もしないのだ。

全ての痛みや攻撃をタケルは甘んじて受けていた。


だが、

そのカラダが痛みや衝撃を感じるごとに、

その感情は、

段々と悲しみから怒りへと変化させていく・・・。

もはや彼の心が、

自分でもコントロールできなくなるまでに・・・


 ドガァァッ!!



 

突然部屋が・・・

いやそのフロア全体が、地震でも起きたかのように大きく揺れた!

大きな衝撃音と共に・・・!

タケルのそばにいた筈の男が壁に叩きつけられたのだ!


 「ぁ ぁ ぁ あ あ あああ・・・!!」

大勢の人間にのしかかられているにも関わらず、

まるで意にも介さずタケルは強引に立ち上がり、

手近にいる男の顔を鷲づかみにする・・・。

片手でその男を宙に持ち上げ、

先程と同じく部屋の壁にぶん投げた!

再び激しい轟音が鳴り響く。

 「・・・っらぁ~~ああああぁあッ!!」

獣のような咆哮と共に、

大量の息を吐きながらその巨大な拳が放たれた。

またもや人間が座布団のように宙を舞う。

その間も、タケルに様々な攻撃が加えられるが、

一向に彼は気にしない。

その腕を振るうごとに人間がスクラップと化していく。


・・・殴る! 砕く! 破壊する! 

男も女も関係ない! 

全て・・・

目の前にいる者たち全てが動かなくなるまでタケルは壊し続けた!

 


  

 「ぎゃぁぁあああ!!」

第二陣が部屋に飛び込んできた。

・・・タケルは全く動じない。

新たな獲物の顔面に非情な拳を叩き込み続け、

掴んだ頭蓋を壁にぶち当てる!

 掌の中で硬いものが砕ける感覚・・・

容赦ない丸太のような回し蹴りで、

一気に数人がなぎ倒される。

怒りに我を忘れたタケルの前では、

誰もが枯れ木同然に砕け散ってしまう。

・・・彼らに自我が残っていれば、

最初の二、三人で逃げ出していただろう。

この騒ぎが収まったとき、

果たして無事に、

日常生活に戻れるものが何人残っているのだろうか?


 「タケル!!」

応接室に残っていた者たちを片付けた美香は、

タケルを追って廊下に出る。

だが美香は、

目の前の悲惨な光景に足をすくませてしまった・・・。

ほとんど全ての人間が、

肉塊のように床に転げていた。

この中でまだ息がある者はいるのだろうか・・・?

しかもこちらに背を向けているタケルは、

未だに戦闘態勢を崩していない。

彼の間合いに入ろうとする者がいれば、

再び野獣のような攻撃を繰り返すであろう。

美香はショックを受けながらも必死に弟を呼びかけた・・・。


 「タケル! 待ちなさい!!

 私の・・・私がわかる!?」

 


 

時間がゆっくりと流れる・・・、

タケルはようやく首を後ろに回した・・・。

まるで鬼のような形相だ、

タケルがこんな恐ろしい目をするなんて・・・。

 「・・・タケル、落ち着いて・・・、

 タケル・・・あなた・・・。」

それ以上、

美香は言葉にはできなかった・・・。

ただ、ゆっくりと弟に近づき、

息を呑んでそっとカラダに触れる事だけしか・・・。

美香の指の感触と温度を感じ取り、

ようやくタケルは我を取り戻したようだ。

呼吸を少しずつ整え、

唾を飲み込む。

それでも気持ちの整理などつけられやしない。


 そうだ・・・、昔から。

 こんなに激昂したタケルを見たのは初めてだが、

 子供の頃からタケルの感情は激しかった・・・。

 それを見るたびに、自分は冷静さを・・・、

 どんな時でも落ち着かなきゃと、

 自分に言い聞かせてきたのだ。

 お父さんとお母さんが一緒に死んだ時も・・・。


 「・・・タケル・・・。」



 「もう・・・いいのよ・・・、ね?

 あなたのせいじゃない・・・、

 あなたのせいじゃないのよ・・・。」


タケルのその四肢から、

張り詰めた緊張の糸がほどけていく・・・。

だが、

タケルは自分の口から言葉を出す事が出来なかった。

どれぐらい時間が過ぎたのか、

しばらくして、

・・・ようやくしぼるようにして、

タケルは言葉を吐きだす・・・。


 「・・・でも、姉ちゃん・・・

 オレ、今日子を守る事も・・・

 助ける事も出来なった・・・。

 ずっと昔っから・・・

 姉ちゃんに負けてばかりで・・・

 見返してやるんだって・・・

 カラダ鍛えてきたのに・・・

 こんなにでかくなったのに・・・、

 強くなったって、

 結局何の役にもたてねぇ・・・。」


美香は静かに首を振る。

 「・・・また『姉ちゃん』に戻ってる・・・。

 それより、

 自分をそんな風に卑下するもんじゃないわ・・・。

 今日子ちゃんのことは辛いけど、

 ちゃんと、あなたは私を守ってくれてるでしょう?」

 

 

 「う・・・?

 姉ちゃ・・・何言ってんだよ、美香姉ぇ、

 オレの助けなんかいらねーだろ・・・?」

 「バカね、

 こんな恐ろしい人たちに囲まれて平気なわけ無いでしょう?

 あなたがいるから、

 私はくじけないでいられるのよ?

 ・・・それよりあなた、ケガは!?」


タケルは辺りを見回し、

ようやく落ち着きを取り戻してきた。

・・・改めて自分のしでかした暴力の結果に怯え始めてしまう・・・。

 「・・・オ、オレは大丈夫・・・

 血は出てるけど、ダメージはないよ・・・。」

タケルの厚い筋肉の鎧は少々の刃物など通さない。

流血は激しいが、こんなものはすぐに止まる・・・。

それにしても、状況は最悪かもしれない。

タケルの攻撃を喰らった者達は、

ほとんど一撃だけなのだが、

その一撃が致命的なのだ。

人命を優先するのなら、

すぐさま救護活動に入らねばならないのだが、

かといって例の化け物をほっとくわけにもいかない。


 「タケル・・・、ちょっと・・・。」

美香はタケルを呼んで、

手近な怪我人をエレベーターに運ばせた。

下に搬送するためではない。

これ以上、

外からあの集団がやってこれないように、

定員オーバーになるまでけが人を載せ、

エレベーターをストップさせるためだ。

管理会社か管理人が気づけばそれはそれで良し。

それまでには片をつけよう・・・!

美香はこれまでの状況を手短にまとめ、

例の探偵へとメールを送る。 

 


 

 「・・・美香姉ぇ・・・他はいいの?」

美香がメールを打ち終える間際、

タケルがおどおどしながら美香に尋ねた。

 「他って?」

そう言われてタケルは辺りを見まわす。

自分のしでかしてしまった事で、

姉に責められるのを覚悟していたのだ。

・・・死人が出ていたら・・・。

まあ、今の所、全員息はあるけども。


美香にしてみれば、

何を今更・・・とも思っていたのだが、

タケルを責めても仕方ない、

・・・第一、

自分達の命だって安心できない状況なのだ。

 「・・・言ったでしょ、

 あなたのせいじゃないって。

 わたしもこの状況に神経がマヒしてきたのかもしれないけど・・・。

 それよりとっととカタをつけて・・・、

 目的を済ませたら、

 救急車呼んでさっさとここから逃げる!

 ね? まずは社長室へ向かうわ・・・!」


普段は品行方正の美香がとんでもないことを言っている。

バックレるつもりだ。

・・・確かにヘタをすると、

タケルは傷害犯になってしまう可能性がある。

だが、タケルは気づいていない、

すでにこの事件は、

警察が解決できるレベルではなくなっていることに。

美香は、

すでに事件の本質に気づき始めていたからこそ、

救護活動も後回しにせざるを得なかったのだ。

 

 

 「社長室・・・

 さっきの化け物が・・・そこに・・・?」

 「アイツがそこにいるかはわからないけど、

 首謀者かその手がかりはあるはずよ、

 ・・・いつ・・・

 どこからアイツが現われてもいいように、

 身構えておきなさい・・・!」


タケルは身震いした。

・・・だがすぐに・・・

恐怖よりも先程の怒りを思い起こす事が出来た。


 どんな化け物だろうが絶対に許さねぇ・・・!


社長室は、

はっきりと分るように表示されており、

その部屋を見つけることは困難ではなかった。

部屋を前にして美香が尋ねる。

 「タケル・・・さっきの化け物・・・

 姿を思い出せる?」


正直、

あの姿をあまり思い出したくはない。

だが忘れられそうにないほど不気味な物体であったのも確かだ。

 「・・・黒いワンピース・・・

 長い髪・・・

 槍か斧みてぇなもん持って・・・

 顔は・・・いや、

 顔はあったんだか見えなかったのか・・・、

 ああ、

 今日子が言ってたのはアイツか・・・。」

 

タケルは独り言のように姉の質問に返した後、

少し気になっていたことを思い出した。

 

 「・・そう言えば美香姉ぇ、

 さっきノーフェイスとか何とか言ってたよな、

 アレ何だ?」

 「詳しくは話してる時間がないけど、

 ここの社長はあるテロ組織の関係者かもしれないってこと。

 タケル・・・扉を開けてくれる?」


タケルは目を白黒させたが、

確かに今は深く問い詰めれる状況ではない。

タケルは慎重に扉を開ける。

・・・社長室は明かりがついていない。

廊下の光が入り口付近を照らすだけだ。

美香が入ろうとするのをタケルが制止し、

一歩・・・また一歩と踏み出して、

部屋のスイッチを手探りで探し当てた。

明るい光が部屋全体を照らす。




 ・・・!


一人の男が椅子に座っていた。

机の上には、

パソコンと一冊のノートがある。

だが、

男は机の上に眠っているかのように伏したままだ・・・

もしかするとこれは?


 「タケル、前後左右・・・!

 天井も床も、

 椅子の陰も全てに注意しなさい・・・。

 それで私の後ろに背中合わせで・・・。」

タケルは姉の言いつけどおり、

背中をピッタリ合わせてあらゆる方向に気を配る。

美香はゆっくりと男のいる机に近づいた・・・。

 

この匂いは・・・

 


 

死臭か・・・

やや鼻につく変な匂いがする。

・・・頭がざっくりと割れていた・・・。

流れ出た血は乾ききっている。

 「・・・死んでいるわね・・・。」


タケルは首をひねりながら驚く。

 「ええっ?

 そいつが首謀者じゃねーの?

 ここの社長なんだろ?」


状況から見て、

背後から頭をかち割られてしまったように思われる。

・・・誰に・・・?

あの気味の悪い化け物にか・・・?


美香は慎重に机の上のノートに手を伸ばした。

何の変哲もない、私的なスケジュール帳のようでもあるが、

間に数枚の便箋がはさんであった。

・・・まるで誰かに読んで欲しいとでも言わんばかりに・・・。

署名がしてある・・・児島道幹、

・・・間違いない、本人だ。


 「タケル・・・読んでみる?」

二人は周囲を警戒したまま、

その便箋の内容に目を通した・・・。

 



次回、いよいよ事件の全容が明らかになります。

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