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第9話

 

薄暗い照明に照らされた非常階段は、

この信じがたい光景に奇妙な現実味を醸し出していた。

この状況をもはや疑う事が出来ない。

タケルと美香の目の前には、

異様な形相を浮かべる今日子の姿があった。

目を大きく見開き、

口からは白い泡が吹き出している。


 「・・・今日子!

 俺達がわかんねーのか!?」

今日子はタケルの声には全く反応を示さない・・・。

だが、

彼女は低いうなり声をあげた後、

ナイフを振りかざしてタケルに襲い掛かった。

 「うがあああぁぁッ!!」


こんな状態とは言え、

真正面からだったら、タケルも今日子の攻撃をあしらうには苦にならない。

身長・リーチ・スピード、

いずれも差がありすぎる。

 ・・・だが、どうすればいい!?

やむを得ず、

タケルは彼女の攻撃を見切り、

ナイフを掴んでいた手首を抑えた。

すかさず手首を捻り、

後ろに回ってカラダを封じる。

それでも今日子は叫び声を上げ、

暴れてタケルを振り切ろうとする。

 「うあぎゃぁぁあああ!!」

 

 

 「・・・ちくしょう!

 なんでこんなことに・・・!

 美香姉ぇッ! 大丈夫か!?」

先程の今日子の奇襲で体勢こそ崩していたが、

美香はゆっくりカラダを起こした。

 「あたしは大丈夫よ、

 皮一枚、切られただけ・・・、

 どうしよう?

 なるべくなら今日子ちゃん、

 傷つけたくないわよね・・・?」

 「こいつをうまく気絶させられるかい?」

 「そおね・・・?

 それよりタケル、

 ちょっと試してくれる?

 今日子ちゃんの顔ひっぱたいてみて?

 強いショックを与えれば正気に戻るかも・・・。

 できればその方がいいわ。」

タケルはためらってたが、

ついには片手で大きな音が出るように、


 バ チ ン!!

と今日子の頬を引っぱたいた・・・!


瞬間、

今日子の抵抗が止まる・・・。

タケルは今日子を抑える力を弱めた。

・・・もちろん、

油断することはない・・・。

 「・・・おい、今日子・・・!

 オレがわかるか? タケルだ・・・!」


少女は唇を震わせながら・・・

ゆっくり首を振り向けた・・・。

 「タ・・・タケルル ル・・・?」

 


どうやら試みは成功したようだ。

 「あ・・・?

 あたし・・・ここどこ?

 なんでタケル・・・?」

今日子は怯えた顔でタケルを見上げる・・・。

それでようやく、

タケルは肩から力を抜く事が出来た。

 「よかったぁ~!

 気がついたぁ・・・!」


タケルは今日子のカラダを放し、

姉に視線を送る。

美香もほっとしたようだ。

 「・・・良かったわね、

 とりあえず無事みたいね?」

思わず今日子は美香のほうへも振り返る。

 「あ・・・あれ?

 お姉さん・・・?

 お、お久しぶりです・・・?」


事態を飲み込めてないために、

先程までの修羅場からは想像できないセリフが出る。

混乱したまま顔をキョロキョロするしかできない。

そのうち、

階段の下で崩れている数人の男女の姿を見て、

だんだん自分に起きた事を、

わずかながらも理解し始めた。

タケルのカラダに崩れるようにもたれかかる。

 「お・・・おいおい!」

 


 

 「あ・・・あたし、どうなったの?

 おかしくなっちゃたの!?

 変なものが聞こえたり・・・

 気が狂っちゃった・・・!?」

タケルもどうしていいかわからず、

今日子の小さな肩を抱いてやるしか出来ない・・・。

彼女のカラダが震えている。

さすがにタケルも、

こういう時は今日子を異性として捉えてしまうが、

姉の目があるので遠慮がちだ。

もっとも、

美香はこういう時は話のわかる姉なのだ。

アゴでタケルに

「抱いてあげなさいよー?」

とでもいうように促す。

しかしタケルが姉の期待に応えることはない。


・・・何もしないのか、ヘタレ弟め。

 「・・・ねぇ、今日子ちゃん?

 もう大丈夫よ、

 タケルのばかが助けにきたわ。

 安心して?

 落ち着いたらすぐに帰りましょ?」


美香の優しい言葉に今日子は泣き出した。

・・・タケルは美香の言葉に文句がありそうだが何も言えない。


 「・・・うっ、う゛っ・・・

 あ゛りがどーござい゛ます・・・

 うぃっく・・・」

あまりに心細くなってしまったのか、

今日子の方からタケルに思いっきり抱きついた。

タケルも今まで彼女としょっちゅう口喧嘩してきたが、

こんな今日子を見るのは初めてだ。

無理もない・・・。

 


 

ようやく今日子の興奮が冷め始めた頃、

美香は次に取るべき行動を口にした。

 「さて問題はこれからよ、

 今日子ちゃんをどうやって無事に帰らせるか・・・?」

 「そうだな、

 親父さんに迎えに来てもらうのがいーか?」

 「・・・ただ、心配なのは、

 この後も例の電話やテレビの放送が流れたら、

 また大変な事になるのよね?

 携帯は電源を切っとけばいいけど、

 他にどんな手であの催眠をかけてくるか、

 分ったもんじゃないわ?」

 「どっちにしろ、

 俺達は大元を断たなきゃなんないってか・・・。」


その時今日子が、

泣き声とも判別できないような小さな声で美香に訴えた。

 「いやっ・・・

 一人にしないで下さい、

 また・・・どーにかなっちゃいそぉで怖いんです・・・!」


無理もない・・・、

だがここは一回、引き上げた方がいいのだろうか? 

さすがに一人では、この先に向かうのは無謀だ。

美香はしばらく悩んでからタケルに問いかける。

 

 

 「タケル・・・、

 この先、今日子ちゃんを守れる?

 わたしがその役をやってもいいけど、

 その場合はあなたに先陣をきってもらうわよ・・・?」

ここまで来ればタケルの腹も据わっていた。

姉の顔をにらみつけて自信満々に答える。

 「不意をつかれなければ、

 この程度の奴ら、へっちゃらだよ、

 どっちだろうと任せてくれよ!」


美香はニコっと笑う。

その後、今日子が歩ける事を確かめると、

美香は非常扉に耳を当て中の音を確かめた。


・・・静かだ。

先程、襲ってきたような者たちは、

中にはいないのだろうか?

それとも手ぐすね引いて待ち構えているのか?

美香は木刀を構えて不意の攻撃に備え、タケルに視線を送る・・・。

その意味を理解したタケルは、ゆっくりドアノブを回し・・・、

そして一気に扉を開け放った!





・・・そこには誰もいない・・・。

先程の襲撃が嘘のようだ、

エレベーターに乗っていた集団はどこに行ったのだろう?

美香が訝しがっていると、

同時に彼女は、

今日子の様子がちょっとおかしい事に気づいた。

 「・・・今日子ちゃん?」


今日子はタケルの背中にしがみついたまま、

震えながら口を開いた・・・。

 「・・・タケル・・・、

 あたし・・・ママに何した・・・?」


 「きょ・・・、今日子?

 なんだ、どうした・・・?」

 あの時の記憶があるのか!?

 「ママの・・・悲鳴が耳に残ってる・・・。

 手には嫌な感触が・・・、

 あたし・・・あたし!?」

 


次回ついに衝撃の事実と事件が。

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