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第7話

 

あの映像の女性が告げていたビルは、

六本木界隈の有名なビルだ。

地下から二階までは商業テナントが入っており、

その上はほぼフロア毎に、

それぞれ別々の企業が入っている。


 「・・・まさか、

 居酒屋やレストランは関係ねーよなぁ?

 上のオフィスのどれかかなぁ?」

タケルと美香は、

目的のビルの真ん前にたどり着いていた。

美香はビルのエントランスを見つめながらタケルにつぶやく。

 「タケル、気づいてる?

 あ、まわりをキョロキョロしちゃダメよ。」

 「え? な、なに?」

 「さっきからこのビルに出入りしている人たち・・・、

 やけに一人で入る人たちが多くない?

 しかも動きが不自然なほど単調だわ・・・。」

言われてタケルは視線を左右に散らす・・・。

 

 

そう言えば、

どうみてもこのビルの従業員に見えないし、

飲食に来ているようにも見えない。

コンビニ袋をぶら下げるものもいるが、

男も女もほとんど単独で行動している。

複数で行動しているものは、

入り口のすぐ中に見えるエスカレーターで二階か地下に向かうが、

単独行動組は、

ほとんど脇のエレベーターを使用している。

それにしても・・・

言われて見ると確かに歩調のリズムが全員一緒だ。

 「・・・あれ・・・なのか・・・?」

 「中に行きましょう・・・。」

 「一緒にエレベーターに・・・乗るの?」

 「まずは、観察。」

二人は、

エレベーターの近くにゴテっ 

と飾られているオブジェの下まで移動した。

 「ちょっとカップルの真似しましょうか?」

 「・・・えぇっ!?」

 「その方が怪しまれないわよ?」

場所的にもそれはその通りだ、

しかし先程、腕に抱きつかれたばかりなので、

タケルは恥ずかしそうに反応する。

 「・・・あのね、今日子ちゃんを助けるんでしょ?

 変な事考えてる場合じゃないでしょ?」

 「か、考えてねーよ!

 ただ、フリって言ってもどこまでやるか・・・、」

 「適当でいいわよ、ばか、

 ・・・こりゃ今日子ちゃんとは確かに進展してないわね・・・。」

美香はため息をついた。



美香は、

何気なくタケルの腕を引っ張って、

カラダの位置を調節する。

なるほど、

恋人同士がいちゃつきあっているように見えるだろう。

タケルはその動きに姉の目的を知ろうとした。

美香はタケルの体躯の影で、

エレベーターに乗り込む者たちの動きを観察する。

止むを得ず、

タケルは美香の肩口を見ながら、

チラチラと入り口に目をやるので精一杯だ。


だが、

タケルにも彼らの異様さを目の当たりにして背筋が寒くなっていた・・・。


彼らは瞬きをしていないのだ・・・。

痛みを感じないのだろうか?

いや・・・

よおく見ると瞬きをしている・・・。

だが、

それは全員計ったかのように同じタイミングだ。

普通の人間なら、

視線を動かしたり微妙に首を動かしたり・・・

そういった細かい動作が何もない・・・。

ロボットか操り人形のようだ・・・。

操り人形・・・、

今日子も操られているのだろうか・・・、

だとしたら、

やはり彼女の母親を殺害したのは・・・。

タケルがその忌まわしい考えに思考を支配され始めた時、

不意に美香が口を開いた。

 


 「わかったわ!」

 「え・・・え、何!?」

 「彼らの行き先・・・、

 エレベーターには一般の人も乗ってたから、

 しばらく判断に時間かかったけど、

 あの、気味の悪い奴らが乗る時、

 必ずエレベーターは特定の階に止まる・・・!」

 「じゃぁ、そこが・・・!」

 「ちょっとこっちに・・・。」


そう言って美香は場所を変える。

エレベーター脇のビルの入居掲示板だ。

 「13階・・・わざとなのかしらね・・・?

 悪趣味としか思えない・・・。」

 「13階?

 ・・・じゃあこの、”ノース・フィールド・カンパニー”てのが・・・。」


美香はそれには答えず携帯のメールを打つ・・・、

例の探偵に情報を送っているようだ。


 「タケル・・・

 こっから先は言動に注意してね?

 携帯もマナーモードに・・・。」


二人の後ろを、

異様に目を見開いた者達がやってくる、

次のエレベーターを待っているのだろう。

美香はタケルの服を引き、

エレベーターの正面へと誘った・・・。

タケルの心臓が早鐘を打つ・・・。


ポォンという音と共に、

エレベーターの入り口が開く、

・・・異世界への入り口のようだ。

この先にはどんな異様な世界が彼らを待っているのだろうか?

 


 

エレベーターは定員12名、

扉が閉まるまでに10名ほどが乗り込んだ。

もちろん、タケル・美香込みの数字で。

美香はごく自然な動作で14Fを押す。

一瞬、タケルは驚いたが、

すぐに美香の目的を理解した。

エレベーターの中には一般の会社員もいるらしく、

5F、7Fが押されていた。

ただ、

彼らもこの数日の異常を気づき始めているのだろう、

狭いエレベーターの中で、

同じ表情、同じ動作で同じ階に無言で降りる気味の悪い集団に、

あからさまな怯えの色をその顔ににじませていた。

もはやその空気に、

違和感を感じない者の方がかえって不自然だ。

タケルと美香は黙って顔を見合す。

その場の会社員も、

タケルたちに何かを訴えるような視線を送るが、

一言も発する事が出来ない。

もっともこの集団も、

周りの人間が何をしようが、

気にも留めない風な雰囲気ではある・・・。

7Fを過ぎ、

一般人はもはやこのエレベーターにはいない。

そこにいるのは、

奇妙な集団と、タケル・美香だけである。

彼らは全員、

エレベーターの表示階数の動きを黙って見続けている。

 

 

美香の腹積もりは、

一度、当の13階の様子を入り口から覗こうとしていたのだが、

彼女の予想を裏切るハプニングがここで生じた。


美香の携帯が振動し始めた・・・着信。

美香はその番号を確かめる為に、

視線をカバンに下げようとしたその瞬間、

突然の恐怖に襲われた。

エレベーターに乗っていた全ての人間が、

大きく見開いた白い目で美香を凝視していたのだ。


タケルのアドレナリンが噴出する・・・。

いつでも攻撃に転じられるように・・・。

だが、

この狭いエレベーターでうまく戦えるだろうか?


彼らは何をするでもなく、

美香が電話に出るのをじぃーっと待っているようだ。

それこそ電話を無視するとか、

電源を切ったりしたら何をされるか分ったもんじゃない、

・・・この番号は、やはり・・・。


美香は、

自宅でタケルに掛かってきたのと同じ電話番号であるのを確かめると、

覚悟を決めたように通話ボタンを押す・・・。


・・・雑音が多い・・・

 「もしもし・・・?」


・・・タケルの時と同じだ、

美香には何も聞こえない。

エレベーターがちょうど13階に着いた時、

電話は勝手に切れた。

そしてそれと同時に例の集団は、

一斉に、顔を出口に向けてしまったのである・・・。

 



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