第5話
タケルはとりあえず、
音楽番組を録画し始めた。
昨日の話ではテレビに話しかけた人間がいたそうだが・・・
ドラマのほうがいいんかな?
それより次の行動は・・・と、
友人達に電話をかける。
まだ、
今日子の行方の手がかりは全くつかめていない。
何人かの友人から、
イタ電や出会い系と思われる所からの電話番号を教えてもらった。
拡げたノートにその番号を並べていくうち、
・・・三つほど、
全く同じ番号が存在している事にタケルは気づいた。
タケルの動きが止まる・・・。
いったん、テレビの方を向きながら、
その番号を教えてもらった遊び仲間の一人に、もう一度電話をかけてみる。
「あ、オレ、何度もワリぃ・・・、
さっき教えてもらった番号ってさ、
イタ電のヤツだったっけ?
・・・無言電話?
奇妙な雑音だけ・・・?
そーか、掛け直しちゃいねーんだよな?
ああ、もちろんそれでいいんだ・・・
オーケー、ありがとよ!」
(奇妙な雑音か・・・、
そーいや、このテレビも最近、
時々雑音入るな・・・
言ってるそばから・・・まただよ・・・!
それにしても・・・無言電話?
今日子のは、
ちゃんと「友達になって?」
って女の声がするっつってたから・・・
関係ねーよなぁ・・・。
それとも話しかけるのは女性だけとか?
いやいや、
昨日の行方不明に関係あるんなら男もいたようだし・・・
うーん・・・。)
そんなことを考えていた時、
不意にタケルの携帯が鳴った。
発信者は知っている人間では・・・
イヤ、待て!
この番号は!?
先ほど友人達から聞いたまさにその電話番号であった。
・・・どうすりゃいい?
でていいのか?
美香には、
さんざん「後先考えろ」と言われたばかりだ。
万が一、例の電話だとしても、
今日子は電話に出ただけでは、
おかしな反応を起こさなかったはず、
しかもこの電話は、
複数の友人が無言電話だと言っている。
タケルはゆっくりと腕をのばし、
震える手で通話ボタンを押してしまった・・・。
・・・タケルは無言で携帯を耳に当てる。
相手も何も喋らない・・・。
電話口からは、
何か・・・
キュィーンと言うような、
小さな音が聞こえる。
チューニングの外れたラジオのようだ。
意を決してタケルは口を開く・・・。
「もしもし・・・?」
だが、電話は無言のままだ。
「おい? 聞ーてんのか?
おまえ、オレのダチんとこに掛けまくってんな?
何とか言えよ!?」
相変わらず電波のような音しか聞こえない。
「今日子に電話したのもおまえか?
『お友達になって』って・・・?
違うのか!?」
プツッ・・・
ツー・・・ツーッツーッ・・・
・・・電話はすぐに切れてしまった。
この電話が例の事件に関係あるのだろうか?
タケルの脳裏には、
「この電話に掛け直す」行動が思い浮かんだが、
すぐに頭を振って、その愚かな誘惑を否定する。
そして、その出来事から数分とかからずに、
姉の美香が帰ってきた。
「お帰り、美香姉ぇ!
頼まれた事はやってあるよ!
怪しい電話番号も見つかった。」
美香は上着を脱いでタケルの元へ駆け寄る。
「ホント!?
どれ? ・・・相手は固定電話?」
タケルはその時、
美香の香水がいつもと違うのに気づいた。
そういや、
化粧もいつもより女っぽい・・・、
探偵と会ってたって言ってたな・・・。
いや、今はそんなこと、どうでもいい。
「それで驚く事があるんだ!
この電話、
さっき偶然オレんところに掛かってきたんだ。」
「ええ!? 出たの!?
・・・それで何か喋った?」
「いや、相手は無言・・・、
こっちが何、聞いても、
壊れたラジオみてぇな雑音だけ。
なぁ? 教えてくれよ、
何がわかったんだ?」
「う・・・ん、
分ったといっても推測の域を出ないの、
試してみないと・・・。」
その言葉にタケルの全身の毛は逆立った。
「な・・・試すって何を・・・?」
タケルの怯えた表情に、
美香は弟を安心させる。
「大丈夫、
今の段階では危険はないはずよ、
録画は撮れてるみたいね?
・・・ねぇ、
気づいてたかどうか知らないけど、
最近、テレビ・・・雑音入ったりしない?」
「え・・・?
そういやぁ・・・時々。」
「録画している間は?」
「どうだろ?
電話してた時は気づかなかったけど、
・・・せいぜい一、二回じゃねーかな?
確か最初は、女性歌手のサビの辺りだったと思ったけど・・・。」
美香はそれを聞いて録画映像を止め、
巻き戻ししてその歌の始まる所から再生し始めた。
サビの部分はそろそろか・・・。
画面が女性歌手のアップに切り替わった時、
画面がやや歪み、
ジ・・・ジジという雑音が聞こえた。
「・・・ここね?」
美香はそのシーンを止め、
何度か再生をしなおす。
タケルも注視するが、
何かこの部分に問題があるのだろうか?
そのうち美香は、
同じ個所の早送り・コマ送りを試し始めた。
・・・ん?
その時、
タケルの目に、画面の異常が飛び込んできた。
コマ送りにした瞬間、
画面の歪みの中に、
ほんの一瞬、
気味の悪い映像が見えたのである。
・・・映像そのものが波打っているため、
正確な姿は判別できないが、
女性歌手の顔が映っているべきはずなのに、
何か別の女性の・・・全身像のような・・・、
何か長い金属のようなものを携える・・・
髪の長い女性の姿がそこにあったのだ。
顔は判別できない・・・
目や口もどうなっているかわからない・・・。
「・・・美香姉ぇ・・・今の・・・。」
タケルの全身の毛が逆立っていく・・・。
美香もカラダに緊張を走らす。
「音声は・・・わからないわね・・・、
パソコンの方で調べてみましょうか?」
美香はパソコンを起動させ、録画の一部分をDVDに移し始めた。
タケルは冷や汗を流しながら聞いてみる。
「・・・今の・・・映像、
今日、会ったって言う探偵に教えてもらったっての・・・?」
美香は指先を滑らかに動かしながら、
タケルの問いに答える。
「う・・・ん、
このこと自体を教えてもらったわけじゃないのよ、
その人、すごい情報網を持っててね、
電話や通信媒体を使った洗脳、
またはそれに類する事例が過去にあったかどつか、
聞きに行っただけなの・・・。」
「そうなんだ・・・オレはてっきり・・・。」
美香はきょとんとして振り返って聞きなおす。
「てっきり・・・何?」
「いや、なんでもない、
・・・ああ、
この事件の謎がもう判明したのかなっ、
て考えすぎただけ・・・!」
「・・・そんな簡単な事件ならいいけどね・・・。」
美香はコピーを終えたようだ。
また、それと同時に、
動画をそのままスロー再生できるソフトもぬかりなく落としている。
いつもながら仕事が速い。
下準備を全て終え、
美香はディスクをスローにして再生してみる。
歌手の歌が滑稽に思えてくるが、
それはまぁ仕方ない。
だが、
先ほど映像の歪みのあった歌詞の部分になると、
タケルも美香もその神経を集中させた・・・。
雑音が聞こえ始めた・・・
そしてその雑音の間に・・・
聞こえる・・・
他の音は音程が下がっているにもかかわらず、
やや、高めの・・・
舌っ足らずにも聞こえる女性の声が・・・!
『・・・クスクス・・・私メリーさん、
お友達のみんな、
私のところへ集まって・・・?
私、いま、
六本木の×××にいるの・・・!
邪魔する悪い人たちは・・・
殺しちゃいましょう・・・?』
タケルも美香も微動だにできなかった・・・。
映像は元に戻り、
歌手の新曲をスローで流し続けている。
「タケル・・・。」
「美香姉ぇ・・・間違いねぇ・・・!
こいつが今日子を呼んだ声だ!!」
美香は何度も先ほどの部分をリピートする・・・。
スピード調節も試している。
ある一定のスピード以上だと聞こえなくなるようだ。
気味の悪い女性の姿は、
何度見ても、
生理的嫌悪をもよおすほど異様な姿をしている。
確かに映像そのものは、
ぼんやりとピントがぼけているが、
顔そのものの判別が出来ない程ずれてはいないはずだ。
にもかかわらず、
その顔は絵の具で上から塗りたくったように、
目鼻立ちの区別もできない。
まるで顔がないみたいだ・・・。
しまった、画像作っておけば良かった…。
パーティーキャッスルで作ったキャラクター画像に
そこら辺のフリーエフェクト処理できる奴使えば再現できそうだった…。
後ほど時間あれば画像添付するかもです。