表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/676

第2話

 

 「たっだいまー・・・。」

 「おかえりタケル、

 デート早かったわね?」 

 「・・・やーめーてよー、美香姉ぇ?

 そんなんじゃないってばよぉ。」

タケルは武蔵野市の自分の家に帰っていた。

この家には姉と二人だけで住んでいる。

二人の両親は、

今から10年以上前に事故で亡くなっており、

祖父も二年前に他界した。

姉は、短大卒業間近で就職も決まっている。

彼らは現在、

残された多額の遺産で生計をたてているようだ。

 「ふーん、仲は進展してないみたいね?

 ま、いいわ、

 ちょーどご飯の支度するから、

 お米といでちょーだい?」

 「はいはいっと・・・、

 でもよー、アイツ変なんだよぉ?

 なんか・・・幻聴みたいなのが聞こえるらしくてさぁ。」

 「ええ? 大丈夫なの?

 病気?

 アンタ今日子ちゃんそのままにして帰ってきたの?」

美香は野菜を切りながらタケルに問いかける。

歳は一つしか離れてないが、

彼女は姉であり母親役もこなしてきた。

しつけや礼儀にはうるさい。

 

 

 「だって、あいつバイトだし・・・

 とりあえず大丈夫だって・・・、

 それに何かあったら連絡するように言っといたよ。」

 「・・・そう、でも心配ね、

 タケル、バイトの終わる時間は知ってるんでしょ?

 あなたから電話かけなさい。」

 「だーかーらーおーれーはー

 かーれーしーじゃーなーいー・・・って、

 あーもぅわかったよぉ・・・。」

 「よろしい。」

タケルは美香に頭が上がらない。

美香は子供の頃からしっかり者の超優等生だ。

タケルは今では立派な体格に恵まれてはいるが、

かつては泣き虫小僧として有名だった。

勉強も得意なタイプではない。

今日子には「シスコン」とからかわれている。


今夜もいつもと同じように、

テレビを見ながら二人で夕食を終え、

ちょうど今日子の仕事が終わる時間になろうとしていた。

 「そろそろ・・・かな?」

携帯から電話をかけてみる。

 ・・・でない、まだ働いてんのか?

タケルは少し不安になった。

 ・・・まさか・・・だよな?

余計な心配かとは思ったが、

彼は職場にかけてみる事にした。

 「あ・・・すいません、

 従業員で・・・橋本今日子さんは・・・

 ええっ!? 無断欠勤!?」

 


 

 「美香姉ぇ、やべー・・・

 アイツ職場に行ってねぇ・・・!」

タケルはオロオロと姉に訴えた・・・、

でかい図体して情けない。

 「何ですって?

 だって吉祥寺の駅で見送ったんでしょう!?」

 「それは間違いねぇよぉ、

 最後はホームに立ってた・・・。」

 「階段は降りてないの?」

 「ああ、そこまでは・・・!

 お互い見送ってたし。

 ・・・アイツ倒れたのかなぁ・・・?」

 「落ち着いて、アンタは家に電話してみなさい。

 家の人が心配するといけないから・・・、

 そうね?

 自分の携帯落としちゃったけど、

 何か心当たりないか、教えて欲しいとかなんとか、

 適当に口実つけて。」

タケルは高校の名簿を引っ張り出して、

恐る恐る自宅に電話してみる。

・・・だがやはり答えは恐れていたとおりだ、

彼女は帰ってもいないし連絡もない・・・。

それを聞いた後の美香の行動は素早い。

すぐさま消防庁に電話し、

吉祥寺周辺で救急車の出動があったかどうか問い合わせた。

・・・「橋本今日子」でも18~9の女性でも該当者はいない。

吉祥寺駅でもそんな事件はないとの事だ。

 


 

 「ダメね・・・。

 あの子の職場って確かサンロードよね?

 駅からそんな離れてないし、

 何か事件に巻き込まれるにしては、

 目立ちすぎる道だと思うんだけど・・・。」

美香の行動力・判断力は二十歳そこらの学生の域を遥かに超えている。

そこらもタケルが頭の上がらない理由の一つだ。

 「け・・・警察には?」

 「うん・・・ご家族でもないのに、

 警察に問い合わせると大ごとになりそうだけど・・・、

 知り合いの刑事さんのツテで聞いてみるわ。」

美香は中学まで、

地元警察の剣道場に通っていた。

そこならば知り合いは多い。

さっそく警察署に電話をかけ、

事情を話し、吉祥寺周辺で事件が起きていないか聞いてみた。

 「・・・はい、そうなんです・・・、

 すいません・・・え? ええっ!?」

タケルは落ち着かずに、

姉の電話の様子を窺うしか出来ない。

しかも常に冷静沈着な姉ですら、

何か動揺しているように見える・・・。

 「美香姉ぇ・・・?

 ・・・どうなんだ?」

電話を切った美香は、

厳しい目つきをしてタケルに振り返る。

 「・・・今夜、

 三鷹署・武蔵野署管内で、

 7件もの行方不明事件が発生しているんだって・・・!」

 


 

その少女は六本木周辺を歩いていた・・・。

 あれはテレビ朝日だったかな・・・?

今、放映している番組が、

ウィンドウの奥に見える。

少女は、

ぼーっと歩きながら、

吸い込まれるようにその画面を見つめていた。

一人の女の子が映っているようだ。

何でかわからないが、

その声がここまで聞こえている・・・。

 『クスクス、

 そう、そのまま真っ直ぐ歩いて右に曲がってね?

 もうすぐ私に会えるわよ。』

声は聞こえるが、

その女の子の顔は遠くて判別できない。

だが、

この声は間違いなく、

今日、何度も耳にした声だ。


場所が場所だけに、

この時間でも人通りはある。

この少女と同じ方向に歩く者もいれば、

すれ違う者もいる。

誰もがお互いを注意深く観察する事などない。

せいぜい、

可愛い女の子に色目を送るオヤジが時々いる程度だ。

だがもし仮に・・・、

通行人を注意深く観察する人間がここにいたならば、

異様な表情で、

一つの場所へ集まりつつある者達に、

どんな恐ろしい事態が起きているのか、

気づく事が出来たであろうか?



 

どちらかと言うと、その少女・・・

今日子は普段、

目は細い方だが、

今は大きく見開いている・・・、

黒い部分より白目の方が大きい。

まばたきする事すら今はない。

メイクの関係で、

瞳の周りの白い部分がやけに気味悪く浮かんで見える・・・。

歩き方も変だ・・・。

まるで機械のように、

規則正しく一定の動作を繰り返して歩いている。

そして奇妙な事に、

まさしく同じ歩行パターンを有する者達が、

六本木の、とあるビルに集まり始めだしていた。

 ザッザッザッザッザッザッ・・・

ライトアップされたビルの入り口に・・・

まるで操り人形の行進のように、

同じ間隔、

同じ動作、

同じ歩調で、

何人もの若者たちが、

次々とそのビルの中に吸い込まれていった・・・。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRoid版メリーさん幻夢バージョン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ