リーリト麻衣は手を汚さない 第二十六話 御神楽ルカは美味しいところを持っていく
この理事先生が見たのは何なのでしょうね?
それはまたいつかどこかで。
今回はちょい短めです。
その場の全員、何が何だか分からないが、もう麻衣の言う通りにするしかない。
視聴覚室を出て、
麻衣を先頭に、足早に階段を降りる。
「い、伊藤さん! 危なくないのっ?
・・・もしかして、
どこかに隠れて襲いかかってきたりとかっ?」
麻衣はにっこり笑って振り返る。
「だいじょぶみたいです、
気絶してますね、あの理事先生。」
「ええええっ、な、何でっ!?」
「さあぁあ?
怖いものでも見たんですかね~?」
彼らが1階の西側廊下に差し掛かった時、
ちょうど、その生物部の2年生、
御神楽ルカが、
制服のウェストのファスナーを閉めるところだった。
岡島君が、
今日一番の美味しいものを見て鼻の下をのばす。
ルカ先輩の生ウェストを脳内に焼き付けたに違いない。
「え? ル、ルカちゃん!?
どうしてここに?」
永島先輩が驚くのも無理はない、
しかも彼女の足元には、望月理事がひっくり返っている。
「生物部の・・・
生き物たちの世話が終わったから・・・
様子見に来たの・・・。」
間違いなくいつもの・・・
何の感情も見せない御神楽ルカだ。
「で、でもどうやってここへ!?
それに、その理事先生っ!?」
御神楽ルカは、
まるで石コロでも見つめるように、
自らの足下を見下ろす。
「脅かすつもりはなかったのだけど、
暗かったから、余計びっくりしちゃったのかな?
でも、・・・気絶までしなくてもいいと思う。」
麻衣は笑うのを堪えるのに一苦労だ。
確実にトドメ刺したのはルカ先輩だろうに。
多分ルカ先輩は詳細には喋らないと判断したのだろう、
永島先輩のもう一つの質問には、麻衣が代わりに答えるようだ。
「ルカ先輩、理事先生が通ってきた道が視えたんですね?」
御神楽ルカは、一度、自分の後輩の麻衣をじっと見据えた後、
再び望月理事に視線を落とした。
・・・口から泡吹いてる・・・。
「この人の・・・、
濁った感情が職員棟の辺りで視えたから・・・。
突然、湧き上がったのを感じたの・・・。」
2人の能力は常人には区別できないだろう。
強いて分かりやすく言うならば、
麻衣は能動的に感覚を拡げられる。
御神楽ルカは、受動的に情報を入手しているだけだということだろうか。
ただし、それらは絶対的な特性というわけでもなく、
単にどちらかが得意だというだけの話に過ぎない。
「と言うことは、隠し通路の出入り口も見つけたんですね?」
「・・・麻衣ちゃんが誘い出してくれなかったら、
きっと私にも、
分からないままだった・・・。」
それはあくまで結果論であって、
意図的に誘い出せたわけでもないのだけども。
2人が特別な力を持っていること・・・
それには今更永島先輩も驚きはしなかった。
それよりも・・・
「ル、ルカちゃん、どうしてっ?
ルカちゃん、ここに来るの全然乗り気じゃなかったじゃないっ?
「・・・あ、一応、私も後悔したの。
麻衣ちゃんに勝手に押しつける形になっちゃって・・・。」
それには麻衣本人が目を丸くして驚いた。
ルカ先輩は絶対にそんな殊勝なキャラじゃない。
一応黙っておこう。
その後、永島先輩は、
生徒会に緊急連絡を入れ、後の始末は彼らに任せた。
岡島君と照屋君にぐるぐる巻きにされた望月理事は、
目を覚ますと、麻衣やルカ先輩を見て半狂乱に暴れ始めたが、
もう何も出来やしないだろう。
2人の方を向いて「人間のフリをした化け物よ! 騙されないで!!」
とか何とか、訳の分からない事をまくしたてても、
麻衣の録音音声を聞かせてしまえば、
どちらがおかしくなったのかは疑いようもない。
到着した教員数名と、生徒会メンバーによって、
望月理事は連れて行かれてしまった。
もう、
二度と会う事はないだろう。
さて、残りの不明な点についてであるが、
既に時刻も遅くなっているため、
秘密の出入り口については場所の特定だけ行い、
誰も入らないよう改めて施錠封鎖したようだ。
今後、改めて調査の手が入ることになるだろう。
とりあえず、
どこに出入り口が繋がっていたかというと、
職員棟近くの草むらに、
古い道祖神が残されていて、
その後ろに秘密の出入り口があったということだ。
何のためにこんな仕掛けを当時していたのだろうか?
そこは謎のままである。
後でわかったことだが、
旧校舎が取り壊されもせず、残されていたのは、
やはり望月理事の意向が働いていたそうだ。
余談だが、
卒業式の日に、この道祖神前で告白すると幸せになれるという、
学園都市伝説もある。