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リーリト麻衣は手を汚さない 第二十五話 もう一人の怪物

ぶっくま、また増えたかな?

そろそろ覚えきれなくなってきた。

ありがとうございます。

 

その叫び声は旧校舎じゅうに響き渡った・・・、

驚愕と恐怖に彩られた叫び声・・・。


「2階東館視聴覚室にいた」生徒3人は、

最後まで何が起きたかわからなかった・・・。

麻衣が何か、

脅かしたような真似をしてみせたのは辛うじて理解できたのだが、

実際に何があったのか知るものはいない・・・。


そして、

その叫び声の主、望月久代理事は、

あれほど大事そうにしていた杯をも落っことして逃げ出していた。

祖父が残したという交霊術、召喚術の記録、

それら全てに記されていたものより、

もっと恐ろしいものを目撃してしまったのだから無理もない。

履いていたパンプスが脱げるのも構わず、

自分がやってきた1階西館の、

ある場所めがけて逃走するしかなかったのだ。

 

残されていた生徒たちは、

しばらくしてようやく我に返った・・・。

 「あ、こ、これって、

 ど、どうしよう・・・謎は・・・すべて解けたけど・・・

 でも実際に結局、事件は起きる前に・・・。」


戸惑う永島先輩に、

麻衣はセーター下のブラウスのポケットから携帯を取り出す。

 「えーっと、録音・・・できてますね。

 これ、音声データ、あとでコピーしてください。

 出すとこ出せば、刑事事件にはならないにしても、

 もうこの学園で理事は続けられないでしょう、

 それこそ、あの人の言ってたスキャンダルになるでしょうからね。」


永島先輩は目をパチクリさせる。

 「・・・すっごぉーい、伊藤さん、

 そんな用意までしてたんだぁ・・・

 さっすが・・・ルポライターのむすめぇ~!」

 「えっ、いえ、これ、パパの仕事は関係なく!

 時間あったから用意できただけでっ!」


そこで永島先輩は意味深な笑みを浮かべた・・・!

 「いいこと思いついた!

 伊藤さん、うちの新聞部入らないっ!?

 生物部とかけもちで構わないわよ!!」

 

 「い、いえっ!

 いーです、遠慮しますっ!」

 「照屋君も歓迎するわよねっ!?」


照屋君も、

いきなりふられて、なんと反応すればいいかわからない。

もっとも、もちろん彼に拒否する理由なんてあるはずもない。

 「・・・あ、は、はい、だ、大歓迎します・・・!

 伊藤さん、フィギュアとか好き・・・?」

永島先輩絶叫。

 「きぃみの趣味の話はどうでもいいのーっ!!」


ただ一人、岡島君だけが、

その騒ぎの輪の中に入らずにいた・・・。

彼にはどうしても気になる事があったのだ・・・。

 「な、お、お前ら盛り上がってるとこ、悪いんだけどよ、

 あ、あの理事先生、ほったらかしでいいのかよ・・・?

 このまま、俺ら、ここ出るまで安心しねーほうが・・・。」


サーッと永島先輩の顔から血の気が引く。

そうだ、

もし何か他の凶器を持ち出したり、

自分たちを口封じのためによからぬことを考えていたら・・・。


そしてあの理事を放っておけないのは、麻衣も同様の筈だ。

彼女の正体を知るものが、

この世に存在してはならないのだから。

だが、当の麻衣本人は気にしていない。

何故なら・・・

先ほどの、旧校舎すべてに響きわたる悲鳴を聞いたのは、


この視聴覚室にいる者達だけではなかったのだから・・・。

  


 

望月理事は転がるように階段を下りていた。

片方、パンプスがないので、

痛みや体のバランスが崩れるのを必死にこらえながらの逃走だ。

1階まで降りたら、後は西館の秘密の出入り口まで駆け抜けるだけである。

その出入り口は、

1階西館階段踊り場の「床」に設置された地下に降りる出入り口で、

そこから長い地下道を抜けて、

自分しか知らない場所に出られるのである。

内側から鍵をかける方式なので、

自分がそこに戻ってしまえば、「あの生徒」が自分を追ってくる手段はない。

実際麻衣も、

当初スキャンしたのは校舎1~2階部分で、

地下層や、そこにつながる出入り口は探査対象外だったために気づかなかった。


そのまま望月理事は、

1階東側廊下を猛スピードで駆け抜け、

中央エントランスエリアを抜けたとき、

自らの視界に、何か違和感を覚えた・・・。

 何か・・・ある!?

 

 

西館の廊下の真ん中に、何かがある。

もう太陽は沈んで、この廊下は薄暗くなり始めていた。

それでも、彼女が来た時には、

そこに存在していなかったものがそこにあったのである。

・・・地下への進入口はその先なのに・・・。

 

だが、ゆっくりもしていられない、

後ろから、

あの人間のふりをした「化け物」が追ってこないとも限らない。

理事が慎重に近寄ると・・・、

自分の腰元の高さに煌くものが見えた・・・。


 金髪・・・?


人がうずくまっている・・・。

ようやく、彼女は「それ」が何か理解することができた。

美しくも流れるような金髪の女性が、

こちらに背を向けてうずくまっているのだ。

そしてその女性は震えているようでもあり、

また怯えているようでもある。

しかも、

長い髪のせいで最初はわからなかったが、

上半身、裸ではないか・・・。

少し離れたところに、

制服と思われる衣服が乱雑に脱ぎ捨てられていた・・・。

ではこの女性は学園の生徒だろうか?

だとしたら、何故こんなところに一人でいる?

理事は慎重に声をかける・・・。

 

 「あ・・・あなた、そこで何してるの・・・!?」


その女子生徒は、

その体同様、声も震わせていた・・・。

 「あ、あ・・・お、襲われたんです・・・。」

 「襲われた!? だ、誰に!?」


自分も今、他人を構う余裕などないのだが、

かろうじて教育に携わる者として、勝手に体が動いてしまったようだ。

だが、

皮肉なことに、それが彼女の命取りとなる・・・。


 「わ、わかりません、

 な、何か得体の知れない怪物みたいなものが・・・!」

 「何ですって!?」


ということは、さっきのあの「化け物」の仕業だというのか!?

 「は、早く逃げなきゃ!

 そ、その化け物はどこにいったの!?」

 「あ、あ、待ってください、足が震えて・・・、

 それに、背中も・・・。」

 「せ、背中? 背中がどうしたのっ!?」


ただでさえ薄暗くなっていることもあり、

女子生徒の背中は、流れる金髪でどうなっているのかわからない。

 「い、痛むんです、

 まるで肉をズタズタに食いちぎられたような・・・っ。」

 

 

 「・・・なっ!?」

理事の心に再び恐怖が甦ってきた。

あの女子生徒の恰好をした「化け物」が、

人間を捕食する生物だと言われても、

「あの姿」を見た今では何の不思議もない。

 

理事の両腕は震え始めた・・・。

この美しい金髪の下に、

獣に噛み千切られたような、恐ろしい傷でもあるというのか?

理事は女子生徒に問いかける前に、

一度、唾を飲み込んだ。

 「せ・・・背中はあなたの綺麗な髪があるだけよ?」


学園では、

こんなあからさまに髪を染めることは許可されていない。

もちろん外国人のように、

元から髪の色が違う場合は問題ない。

そういえば、

確か北欧出身の子が2年生にいたはず・・・。


そう、理事のその記憶は間違っていない。

そしてその2年の女子生徒は、一つの願い事を口にした・・・。

 「その・・・髪の下・・・です。

 傷がどうなってるか、み、見てもらえますか・・・?」

 「き・・・傷? 傷は・・・。」


正直、化け物に喰われた後の傷など見たくもない。

だが、理事は確認せずにはいられなかった・・・。

あそこにいた「女子生徒」が、

本当に化け物なのか、確かめるためにも・・・!


 

望月理事はゆっくりと・・・

そこに傷があるのなら、

この金髪の女子生徒に、

痛みを与えることのないよう、

ゆっくりと髪をかきわけた・・・。

後ろからでもわかる。

この子はとてもほっそりしている・・・。

贅肉など欠片もない。

傷というのがどの程度かわからないが、

それがなければ、きっと美しい肌をしているだろう。

体型から判断するに、背中は背骨が浮き出ているかもしれない。

だが・・・





そこには背骨にあたるようなものは何もなかった・・・。


 え? 背骨・・・どころか、肉も皮膚も?


理事は、

自分が何を見ているのか、

一瞬、完全にわからなくなった・・・。


空間・・・虚ろ・・・暗黒・・・裂け目・・・


そう・・・、

かき分けた金髪の下には何もなかった。

在るべき筈のカラダそのものが存在していない。

ただ、その左右に分かれた金髪の下に、

それぞれびっしりと醜い牙が並んでいただけだったのである!

そこにあったのは、

首の下から腰元まで真っ二つに裂けた、おぞましき魔獣の口だったのだ!!

今・・・その餓えた牙が、

唸り声をあげて、哀れな獲物に襲い掛かる・・・。

 


 

この世のものとも思えない叫び声がまたもや響く。

むしろ肝を冷やしたのは視聴覚室に残っていた3人の生徒だ。

一人数が合わない?

いや、そんなことはない。

4人の内一人は、

すでにその叫び声が上がることを知っていたのだから。


 「な、なに、今のっ!?」

永島先輩が怯えている。

まあ、10代の女子なら当たり前の反応だ。

男子だって似たり寄ったりだ。

麻衣は自虐的な笑みを浮かべるしかできない。

・・・まったく、あの人はぁ~・・・


 「先輩、怖がらなくてもいいです。

 知り合いですよ。

 後始末に行きましょう。

 あ、岡島君、そこのロープ持ってきてね。」

 



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