第22話
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一方、
人形、百合子はカラダを離した。
・・・じっと夫や麻衣を見つめる。
「泣かないで、麻衣・・・あなた。」
そうは言っても涙をとどめる事などできない。
「・・・もう、行かないと。」
「行くな! 百合子、
人形のカラダだって構うもんか!
一緒に暮らせばいいじゃないか!
今までと・・・、
今までどおりには行かないかもしれないが、
三人で一緒に・・・!」
人形は首を振る。
「元々わたしには、
感情はないはずなの、
寿命だってあなたの数倍は生きるわ・・・。
何も気にする事はないの・・・。
わたしにしてみれば、
本来の運命を歩むのと大して違いはない・・・。
お母さんと同様、
一定の年齢になったら、みんなの前から姿も消さなきゃならない・・・。
そのタイミングが少し早くなっただけよ。
それにこのカラダは、
やっぱり他人の感情を吸い取って動くみたい。
今は惰性で動いているけども・・・。
これからは、
今までのメリーと同様に・・・
この鎌を振り続ける事でしょう・・・。」
だが伊藤は彼女のカラダを放さない。
人形の百合子は、
ちょっと困ったような首のかしげ方をする。
「あなた。」
「・・・何だい、百合子・・・。」
「お願いがあるの・・・。」
「・・・何でも言ってくれ。」
「レッスル様。」
そう言って、百合子は顔を老人に向けた。
レッスルはうなずき、みんなを促す。
「もう、ここには用なかろう、
こっちへ来てくれ・・・!」
全員、ゆっくりとその場を離れる・・・。
伊藤と麻衣は、人形のカラダを放さない。
しばらく歩くと、
間道を抜け、崖のようになっているところまで戻ってきた。
そこに何か異物がある?
来る途中で乗り越えてきた岩場の上・・・。
そこには毛布にくるまれた、
一人の女性のカラダがあった・・・。
「あれは! えっ、ゆ、百合子・・・!?」
人形は優しくつぶやく。
「あなた・・・、麻衣、
・・・行ってあげて。」
伊藤は何が何だか分らず、
本来の妻であるはずのカラダの元に向かった・・・。
息がある・・・?
生きてる・・・? これは!?
二人の父娘は、
百合子のカラダであるはずの上体を揺する。
「・・・ん、んん・・・!」
「ど、どうなってるのぉ!?」
マーゴでなくとも全員わけが分らない。
この疑問には、
レッスルが穏やかに答えた・・・。
「人形に込められた魂を吸い出すことはできない・・・、
じゃが、
人形の内側からなら、
その魂を追い出す事ができたよ・・・。」
「ええぇ!?」
人形の百合子がつぶやいた。
「イヴの子孫とおんなじカラダに住み着くなんて、
まっぴらごめんだもの・・・。」
かつての百合子は目を開いた。
キョロキョロ辺りを見回すが、
何がどうなってるのか分らないようだ。
伊藤の顔を見て、
しばらくきょとんとしていたが、
思い出すことでもあったのか、ゆっくり腕を延ばす。
何かを差し出すかのように・・・。
・・・この動作には・・・覚えがある・・・。
あの時とは、
・・・六年前の東北の屋敷での時とは逆に、
今度は伊藤が後からその指に自分の指を重ねる。
洞窟の中で指は冷たくなってはいるが、
あの時のように固くはない。
目の前の伊藤と麻衣を、
不思議そうに見つめて彼女は口を開く。
「・・・?
手袋のおじさん? 麻衣ちゃん・・・!?」
そこにいたのは、
今まで長い間メリーに封じ込められていた女の子の魂であった。
レッスルと百合子は、
お互いの魔力を使って、魂を交換する術に成功していたのである。
彼らの背後から、
人形の百合子が声をかけた・・・。
「あなた、麻衣、
新しい家族をよろしくね・・・。」
伊藤の目には再び涙が溢れてきた。
悲しい現実はどうしょうもない。
だが、
遠い過去の悲劇は、この場で終結を迎えるのだ。
そうとも、可哀想な女の子の物語は、
いま、ここで解放されたのだ。
伊藤は顔をくしゃくしゃにしながら、
これ以上ないという笑いを顔に浮かべる。
麻衣も泣きながら喜んでる。
やっぱり親子だ・・・。
そして百合子の人形は、
満足そうに後ろを向いた。
「百合子! 待って!」
「ママーァ! 行っちゃやだぁ!!」
百合子は一瞬足を止め・・・、
そして顔だけをかつての家族に向ける。
「心配しないで・・・。
わたしはいつまでもあなた達の妻でママよ・・・。
麻衣が大きくなったら、
わたしと同じような目に遭うかもしれない、
その時は、
必ず麻衣を助けに行くから・・・。
さよなら・・・、
大好きなあなた・・・、
可愛い麻衣・・・。」
そう言うと、
百合子は大きく崖をジャンプして、
つむじ風でも起こすかのようにその場から走り去ってしまった・・・。
「百合子ーォッ!!」
「ママァーっ!!」
洞窟内に伊藤達の叫びがこだまする、
・・・だが、
その返事は返ってこない。
誰もかれもがその場を動けない・・・。
レッスルも・・・、
マーゴも、ライラック、義純、ガラハッド、全ての者が、
伊藤たち家族の、
数奇な運命を見守る事だけしかできなかった・・・。
次回更新でレディ メリー編は終了です。