リーリト麻衣は手を汚さない 第八話 旧校舎2階東側
さて、
男子二人組はどうなっているのだろうか。
この階、東側一番奥の教室は、
例の、窓に人の姿が目撃された場所である。
なので、そこを最後の探索地とすべく、
反対側の教室から調べることにしたのである。
「なんもねーなあ?」
岡島君が不満げにつぶやく。
このエリアも西側の内容と大差ない。
「でも、落書きとかイタズラされた形跡はあるね。」
カメラを撮りながら照屋君は無難に答える。
微妙に先ほどより口数が増えてるようだ。
きっと女子がいなくなったせいだろう。
「さっきの話じゃ、
変な文様とかあったってことだよな?
どこに行けばそんなのあるんだ?」
「うーん、どうだろ?
永島先輩が守衛さんに聞いた限りでは、
そんなものなかったっぽいよ。
もしかしたら、
清掃に入った業者が消しちゃったとか?」
「けーっ、つまんね!
照屋、やっぱ、
なんか記念に残しておこうぜ?
その方が記事も書きやすいだろ?」
2人はマニアックな趣味を共有する仲間らしいが、
照屋君は新聞部員の自覚があるようだ。
「ダメだよ!
先輩言ってたろ!
僕達は調査と取材にきただけなんだから!」
「あー、みんなつまんねーなあー。」
もう飽きてきたのか。
本当にロクでもない人間にこの先なりそうだ。
その代わりなのか、
岡島君は新しいネタを思いついた。
「な、照屋、お前さ?」
「な、なに?」
「お前、永島先輩のことどう思ってんの?」
「な・・・いきなり何言い出すんだよっ!?」
いきなりなのは確かだが、
この校舎でイタズラしでかすよりかは、
この年代の男子にしては間違いなく健全だ。
下種な内容には違いなさそうだが。
「いやあ、やっぱさぁ、
俺らの年と1つしか違わないっつってもさぁ、
大人っぽく見えるもんなあ?
フィギュアしか興味ねーお前だって、
いろいろあの先輩で妄想するだろ?」
「ぼ、僕にも永島先輩にも失礼だよ、それ!
第一、新聞部には他にも男子も女子もいるんだし!」
「でもよー、なんだかんだで同じ時間、
近い距離にいると、むずむずしねー?」
「知らないよっ!
それより早く行くよっ!」
「あっ、悪かった悪かった、照屋、
ホントは頼みあんだよ。」
「・・・何さ・・・?」
「後でさ、
永島先輩と伊藤のスナップショット撮ってオレにくんない?」
照屋君が、
最初の印象からは想像できない剣幕で騒ぎ出した。
「何考えてんの!?
まず本人達に許可もらいなよ!」
「永島先輩はわかんねーけど、
伊藤はまずムリだろ?
・・・だからさ、
何のために別行動にしたと思ってんだよ、
後でシャッターチャンス見つけたら、
ベストショットよろしくな!」
照屋君は心底呆れている。
「岡島君、女子なら誰でもいいのかい?」
「何言ってんだ、照屋!
あいつはこれから化けるぞ!
中学校時代はオレもほとんど知らなかったけど、
卒アルの昔の写真から比べるとどんどん色っぽくなってる!
後2年もして大人の化粧とか覚えてみろ?
絶対に男どもを惑わすようないい女になるって!」
こちらは西側・・・。
「伊藤さん、どうしたの?」
麻衣が毛虫でも踏んづけたような顔をしている。
「な、何でもないです。
瞬間的にちょっと寒気が・・・。」
「・・・瞬間的?」
まあ、岡島君に容姿を褒められても嬉しくないか。
一応誤解を避けるように説明するが、
岡島君たちの会話が聞こえているわけではない。
その言葉通り、瞬間的に寒気を感じただけである。
話を岡島君たちに戻そう。
「やれやれ、
照屋が三次元の女にも興味持ってたらなあ?」
「フィギュアだって三次元だろっ!」
それはどうなんだと、
オタク論争が白熱しそうな時、
ようやく2人は、
例の噂のある教室の前にたどり着いた。
「おっと、ボーイズトークはここまでだ、
ようやくラスボスの前までやって来たぞ?」
その教室は、
これまでと部屋の作りも広さも異なっていた。
教室・・・というか、
講義会場に使っていたのか、
生徒が使うような机は一切ない。
壁の脇に、
パイプ椅子が並べられているだけである。
いや、それと、部屋の端に大きな台が残されていた。
古い映写機のようなものが残されている。
電源入れたらちゃんと動くのだろうか?
窓のカーテンは遮光性のもので、
他の教室のものより分厚い。
2人はそれぞれ、思い思いに歩き始めた。
照屋君は、三脚立てて撮影を試み、
岡島君は、例の窓際まで行って、
カーテンめくって本校舎のほうをのぞむ。
「景色はいいな・・・。」
窓からは色々なものが見える。
体育館や運動場、近場に職員棟と、
本校舎からこちらに誰かが向かってくれば、
それも一目瞭然となるだろう。
でもそれだけだ。
何のネタにもなりゃしない。
岡島君はため息ついて部屋の中央に戻ってきた。
その時、
照屋君が、少し奇妙な表情を浮かべていた・・・。
「ん? 照屋どした?」
「あ、いや、
僕らが入ってきた扉のすぐ右の壁、
この壁は教室の後方・・・てことになるのかな?
僕らが入ってきた扉の真正面が教室の前方なら・・・。」
一度岡島君は首を左右に動かし、
不思議そうに照屋君の話に同意した。
「・・・だな、それで?」
「この部屋は視聴覚室としても使われてたのかもしれない、
映写機も残ってるしね、
それと、この後ろの壁、
中央がスライド式の扉になってる。」
確かに中央の壁は、
腰から頭の上辺りまで、
左右二枚に分かれており、
それぞれ、境目付近に手をかけるための金属部分がついている。
「おお・・・。」
岡島君は、
何の気なしにその金具に手をかけた。
キュラキュラキュラと、
扉が左右に開いていく。
現れたのは大きな黒板・・・
だが
「な、・・・なんだこりゃあっ!?」
次回、麻衣と永島先輩合流。