リーリト麻衣は手を汚さない 第六話 旧校舎1階
旧校舎は、
東西に広く伸びる2階建ての建物だ。
普通に歩いて回るだけなら、
30分もあれば全部の部屋を回れるだろう。
まだ陽も明るい・・・。
すでに集合時間の4時ジャストから15分ほど経過しているが、
写真撮影やら、細かいところを調べたりとか、
遅くとも夕方6時までにはこの建物を離れる計画だった。
何事も起きなければの話だが。
廊下以外の部屋は、
全てカーテンで閉ざされているが、
遮光式のものでもないので、日光は十分入り込むし、
電気も通っているので照明をつけることもできる。
旧校舎1階西側部分は、
特別教室ばかりのようだ。
職員室は本校舎エリアにあるせいか、
職員用と思われる部屋は、そんな広くもない。
まぁ、どの部屋も雑多な備品ばかりで、
書類なども残ってはいないようだ。
単純な探検とでも考えればそれなりに面白いかもしれないが、
麻衣はいろいろ考えることがある。
自分の過去に起きた忌まわしい事件は置いておくとしても、
いったいなぜ、
ルカ先輩は自分を引っ張り出したのか。
ルカ先輩本人が巻き込まれたくないと思うのは当然だが、
だからと言って自分を身代わりに差し出す必要もないはずだ。
そう考えると、
麻衣はやはり一つの回答にたどり着いてしまうのだ。
この旧校舎には何かある。
そして、それは、
麻衣の特殊能力で明らかにできる性質のものなのかもしれないということ。
少なくともルカ先輩は、
そう考えたということなのだろうか。
当然、未知のものに対して、
危険があるかどうかは誰でも考える。
では自分にとって、
この場所は危険があると言えるのだろうか?
いくらルカ先輩だって、
まがりになりにも同じ生き物である自分を、
危険な場所に行けとは言わないだろう。
せめて何らかの注意やアドバイスぐらい・・・。
それが一切なかったということは、
安心して調べられる性質のものだということか。
以前、
自分の能力を過信して酷い目にあった麻衣は、
油断も慢心もせずに状況を分析すべきだと考えていた。
もちろん、ここにいるメンバーに、
自分のことを変に勘繰られても堪らない。
「あ、ちょっとトイレ行ってきていい?
水が流れるかどうかも見てくるよ。」
「んだよ、お前の方が怯えてんじゃねーのぉ?」
岡島君がいつもの憎まれ口をたたいているが無視しよう。
やるべきことは一つだ。
女子トイレは古い建物らしく、
昔ながらの和式便所だ。
それはそれで凄い新鮮だが、
別にトイレで用を足すために入ったわけではない。
まぁ一応水は流してみる。
・・・ちゃんと流れる。
それよりもここでやりたかったこと・・・。
誰にも邪魔されずに・・・。
個室のカギを閉め、壁にもたれる・・・。
そんな時間は要らない。
建物の中に入ったこの状況なら、
建物内部のサーチは容易い。
麻衣の得意能力・・・
それは遠隔透視。
自分はその場所にいたまま、
遠くの物事を認識できる能力。
建物内に、
誰か入り込んでいるならば、
この方法で感知することができる。
もちろん、それが人間でなくとも、
悪意のある存在、
霊的エネルギーをまとったものならば、
この方法で見逃すことなどあり得ない。
かつて、
彼女のいた中学校でも、
これで連続猟奇殺人犯を追い詰めたのだ。
麻衣の瞳が妖しい色を放つ・・・。
だが・・・
少なくとも東館、西館・・・1階も2階も・・・、
ざっとスキャンしたところで、
危険なものも霊的なものも、
何も怪しいものはない。
やはり、この校舎にまつわる噂話など、
取るに足らないものだったのだろうか・・・。
「伊藤さん・・・!?」
ドキッ!
トイレの個室の外から、
扉越しに永島先輩が声をかけてきた。
別に驚くほどのものでもないのだが、
意識をこの空間から遊離させていただけに、
間近で声をかけられてびっくりしたのだ。
「あ、せ、・・・先輩、何か?」
「うん、伊藤さん大丈夫かなって、
トイレにしては様子が少し変な気がして・・・。」
「だ、大丈夫です、いま、出ますよ。」
時間はそんなにかからなかったはずだが、
心配かけさせてしまったようだ。
瞳の色は元に戻ったろうか?
すぐに扉を開け、
申し訳なさそうに麻衣は笑顔を浮かべた。
永島先輩もつられたように笑顔を見せる。
「ごめんね、余計な心配だったかな?」
「いえいえ、ありがとうございます、
私の方は心配いりません、
それにこの建物も・・・
今のところは。」
二人で女子トイレから出てくると、
岡島君が待ちくたびれていたようだ。
「早くいこうぜぇ、
でも面白いもの、何もなさそうだなぁ?」
一階部分はほとんど見どころはなかった。
まぁ、古い建物特有の匂いと、
今や珍しい、木製の扉にペンキを塗った各部屋の出入り口が新鮮に見える。
気のおける友達と、
ただの探検だと思えば楽しかったのに。
麻衣が落ち着きまくっているのに安心したのか、
岡島君は少し余裕・・・
というか調子に乗ってきたようだ。
「な、これ、
4人でまわっても効率悪くね?
二手に分かれて、
お互い何か見つけたら合流しねぇ?
どうせ携帯で連絡できるし。」
一見正論だが、
永島先輩は岡島君の性格を危惧したようだ。
「・・・だめよ、
4人で動いてるのは、
お互いを監視するって目的もあるのよ?
あたしたちの誰かがイタズラやヤラセをしたら意味ないでしょ?」
なるほど、
岡島君が各所に仕掛けをして、
大騒ぎの元を作らないとも限らないわけだ。
ところが、これには無口な照屋君が岡島君の弁護についた。
「あ、先輩、僕がいますから・・・。
そんなことは・・・。」
「・・・任せていいのぉ~?」
永島先輩は不安そうにしていたようだが、
同じ新聞部員の後輩として、照屋君は信用しているらしい。
最終的には折れて、
男子2人は2階東側、
女子2人は2階西側とそれぞれ分かれ、
東西離れた階段から上の階へと目指すことにした。
もっとも、
永島先輩がこの案に同意したのは、
どこかで麻衣と二人きりになってみたかった、
ということもあったのかもしれない。
・・・前日の、
岡島君の話が気になっていたからだ。
「ぼっち妖魔は異世界に飛ばされる」に、まだかなり先の話ですが、
緒沢タケル編で名前しか出なかった、オリオン神群の一人が登場します。
もともと「黒十字軍編」登場予定でしたけども。
いま、その辺りを作り込んでます。
うりぃ
「そのねーちゃん、うちの物語にも日本語に訳した名前で出とったやろ? 名前だけ。」
○○○○
「な・・・なぜ私に女神アグレイアの力が使えるの?
まさか他の神々の能力も・・・炎よ・・・!
あ、出た・・・ヘファイストスの力も使える・・・。
あと誰がいたっけ・・・胸ばかり大きくて頭が空っぽのアルテミスの能力は・・・
矢がないと意味ないわね・・・。
私より少し年上だからって偉そうなアテナは・・・盾か、
今は必要なさそう・・・。」