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第21話

 

伊藤は自分の耳を疑った・・・。

馴染みのある声、

いつも耳にする口調・・・。

 ・・・そんな馬鹿な・・・。

間違うはずがない、

だが・・・、そんな事があるはずもない。

しかし、

伊藤は反射的に咽喉から出る言葉を押さえる事はできなかった・・・。

 「ゆ り こ ・・・!?」


伊藤のカラダが震えだす。

「人形」は身じろぎ一つしない、

・・・視線も伊藤に向けたままだ。

何か言いたいことがあるとき無言で見つめるクセ・・・、

昔からの百合子のクセだ。

 「・・・嘘だ、

 そんな・・・百合子? どうして!?」

 「あなた、ごめんなさい・・・。」


彼女はゆっくりと伊藤たちに近づいた・・・。

鎌を後ろに、そっとカラダを寄せる。

 「・・・麻衣も・・・、

 泣かなくていいのよ、あなたは何も悪くない・・・。」


伊藤の手がかぶさっている麻衣の頭に、

人形も片手を優しく乗せる・・・。

マーゴ達も徐々に何が起きてるか把握し始めた。

だが、

あまりの残酷な現実に言葉を発する事もできない・・・。

レッスルが見かねて話しを始めた。

 

 「・・・お嬢ちゃん・・・

 麻衣ちゃんの力は遺伝なんじゃ・・・。

 奥さんは全てを知っておったのじゃ、

 かつてお前さんがメリーに会った時も・・・、

 今度もそうじゃ、

 お前さんを一人でここに来させれば・・・、

 お前さんが死ぬと予知していたそうじゃ・・・。

 じゃが、

 麻衣ちゃんを連れてゆけば、

 麻衣ちゃんも命が危険に陥る事も気づいてしまった。

 奥さんが選んだ道は・・・、

 お前さんたち親子の命を救う事・・・

 それが全てだったのじゃ・・・。」


伊藤は力なくレッスルを振り返る・・・。

だが・・・何も喋れない・・・。

立ち上がったマーゴがようやく口をはさむ。

普段の彼女では想像できないほど激昂している。

 「・・・どういうこと!?

 メリーのカラダに奥さんの魂を封じ込めたって事!?

 何でそんな恐ろしい事を!?

 彼らを助けるには他に方法だって!?」


レッスルは首を振る。

 「・・・彼女は普通の人間じゃない・・・。 

 マーゴ、お前さん調べていたな、

 世界の平和を脅かすかもしれないと言っていた・・・

 闇の一族の事を・・・。」

 

 「な・・・、

 それって・・・まさか・・・!?」

 「彼女達がそうじゃ・・・。

 かつてエデンにおいて、

 ヴォーダンから「生命の実」を受け取った一族・・・、

 バァルも言ってたじゃろう、

 『リーリト』・・・。

 それが彼女達の種族の名じゃ。

 長い寿命を持ち、

 時にはイヴの子孫にはない能力を有する・・・、

 そしてその代わり、

 イヴの子孫のように複雑な『心』は持たないし、

 繁殖力もない。

 かつてはお前さんたちに、

 『魔女』のレッテルを貼られ、多くの先祖が火あぶりにされた・・・。

 イヴの子孫との溝は深く、

 子供を生む時には男に近づいて自らの子孫を残し、

 必要がなくなれば、

 夫といえども殺していくようになったのじゃ・・・。

 自分達の正体を気づかれないようにする為にな。

 ・・・わかるか!?

 いずれ、今度の事件がなくともいつか、

 この奥さんは旦那を殺さなくてはならなかったんじゃ・・・。

 それが一族の掟・・・。

 彼女が『人形』に転生したのは、

 自分が愛する夫を殺さなくてもいいように・・・!

 一族を裏切る事も、

 愛する者を見捨てる事もできない彼女が選んだ唯一の選択だったんじゃ・・・!」

 

 

伊藤の呼吸が荒くなる・・・。

レッスルの説明なんかはどうでもいい・・・!

話よりも事実そのものを受け止める事ができない。

潤んだ目からは涙がこぼれ始めた・・・。

再び力なく「百合子」を振り返る・・・。


 「・・・うそだろ・・・?

 冗談なんだろ・・・? なぁぁ おい・・・。」

 「・・・あなた、愛しているわ・・・。」


そう言って「百合子」は、

その人形の頭を伊藤の肩に乗せる・・・。

そのまま銀色の髪は、

伊藤の背中や胸に静かに垂れた。

レッスルは話を続ける。

 「・・・既に奥さんには『感情』が芽生えていた・・・。

 生まれた時からか、

 伊藤さん、

 アンタと出会ってから覚えたものかは分らんが・・・、

 これは避けられん運命だったんじゃ。」

 


麻衣は、

泣きながら人形のカラダの母親にしがみつく。

伊藤ももはや、

何も考える事ができなくなっていた・・・。

目の前の人形は、

かつて麻衣と姿をだぶらせた可哀想な女の子ではない・・・、

自分が生涯愛すると誓った最愛の女性・・・。

 「・・・百合子!」

伊藤は冷たいカラダの百合子を抱きしめた、

力いっぱい・・・!

もはや涙を止める事すらできない。

 「ごめんよ・・・おれ、

 君が苦しんでたなんて、

 ・・・分らなくて・・・

 気づく事もできなくて・・・!」

 「・・・いいのよ、幸せだったわ・・・。」


そして百合子はそっと頭を起こし、

愛する夫に顔を近づける。

夫は愛する妻に唇を重ねる・・・冷たく固い唇に・・・。

見ていたマーゴも両手で顔を覆って泣き始めた。


レッスルは振り返る・・・。

 「さて、お前さんたち、

 ・・・これでも彼女達は危険と思うかね・・・?

 彼女だけが特別でない。

 世界の紛争地の人間同様、

 復讐を行動原理にした『リーリト』もおれば、

 大なり小なり感情が芽生えて、

 同様に思い苦しむ『リーリト』もおる。

 全く能力が発現せずに、

 普通に人間として暮らしておる者もたくさんおる。

 今後、

 どうやって彼女達と折り合っていくかは、

 全てお前さんたち次第じゃがの・・・。」

 


マーゴは泣きながら首を振る・・・・。

ライラックは思慮深く答える。

 「彼女達に・・・

 手を差し伸べるのも一つの道だと仰るのですね・・・?」

 「わしにはどちらを選べと言う事はできん・・・、

 バァルが言ってたじゃろう?

 お前たちが争うのも、

 ヴォーダンやわしのせいなのかもしれん。

 ・・・わしが望む望まないに関わらずにな。」

義純が尋ねる。

 「今や、あの人形のカラダには、

 三人の女性が宿っているのですか?」

 「・・・いや、

 バァルがかけた自分への安全装置は、

 人形のボディとエミリーの精神・・・。

 エミリーの魂が入ったままでは、

 恐らくバァルを殺す事はできなかったままじゃろう・・・。」

 「えっ、それではエミリーの魂は・・・?」

 




間もなくメリー編は終了です。

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