リーリト麻衣は手を汚さない 第三話 旧校舎へ足を踏み入れる
なるほど、
噂になるだけの根拠はあるということか。
「他にもあるわ。
生徒の中には、
私たちみたいに正規な手段ではく、
ただのイタズラで旧校舎内に入り込もうとしたバカが、
これまで何人かいたみたいなのね。
鉄柵乗り越えたり、
夜中に窓ガラス割ったりしてね?
・・・で、
そいつらが、旧校舎内で、
教室の黒板に、
得体のしれない文様を見つけてきたりとか、
何かの唸り声を聞いたとかで、
逃げ帰ってきたってのが噂になって・・・。」
確かにオカルトじみてきた。
それが事実なら、
生徒たちの間で噂になるには十分だろう。
ていうか、先輩たちは怖くないのか?
「う・・・ちょっと怖いけど、
夜にならないうちなら・・・。
それに、そのために伊藤さんがいてくれるんなら・・・。」
あてにされたところで、
麻衣になにかできる自信など何もない。
もし、
本当に何らかの心霊現象が起きているなら、
その気になれば、
原因究明ぐらいならできるかもしれない。
・・・しかしそれは、
麻衣が普通の人間でないことを公表してしまうことと同義だ。
すでに同じ中学の岡島君はそれとなく気づいてる。
もっとも、
それは麻衣の「正体」を知っていることを意味しない。
真実を誤解しているというのなら、
誤解されたままの方が有り難いぐらいなのだ。
「それで結局さ、伊藤?」
岡島君が話しかけてきた。
そろそろ本題に入りたいのだろう。
「なに?」
「この位置からさ、
なんかこうヤバい気配とかわかるのか?」
「・・・・・・。」
いま、彼らの視界いっぱいに、
旧校舎の建物全体が映っている。
岡島君の質問に誠意をもって答えるならば、
「時間もらえれば調べられるよ、
どんな人間が中にいて、
そして中で何をしているのか。」
と返すことは可能である。
だが、
そんなことをしてやるつもりは毛頭ない。
ここで口から出る言葉は一つである。
「今のところ何も感じないよ・・・。」
それで十分なのだ・・・。
「じゃ、照屋君、もう写真はいいわ、
例の2階右上の部屋の窓も撮ったわよね?
それじゃ、この鍵を使って鉄柵の門、開けるわね。」
ガチャン!
大きな南京錠を開け、
もたつきながらも、扉のかんぬきを外す。
ギギギという重い音とともに、
閉ざされていた扉が開いていく。
真っ先に岡島君が、
我慢できないとでもいうように中に入り、
続いて照屋君、
そして麻衣・・・
最後に永島先輩が、
器用に内側から手を伸ばし、
もう一度南京錠を施錠した・・・。
彼女たちが旧校舎内を調べている間に、
どこかまたバカな生徒が乱入しないとも限らない。
出入りするごとに、ちゃんと鍵をかけるよう、
生徒会からのお達しである。
そう、鍵をかけたのは自分たちだ・・・。
だが麻衣は、
一人だけ言い知れぬ不安感を覚える・・・。
かつて彼女は、
連続殺人鬼が住まう夜の中学校に、
一度閉じ込められた経験があるからだ・・・。
麻衣は、ほんの数秒、
その旧校舎を見上げていた。
今現在は建物内を探知していないが、
少なくとも、現状危険な香りは何もない。
ただ、
その時気付いたのは、
横で永島先輩が、
心配そうな視線を麻衣に送っていたことである。
一度視線が合うと、
永島先輩はその場の雰囲気にふさわしい言葉を投げかけてきた。
「伊藤さん、大丈夫・・・?」
いま、永島先輩は何を心配したのだろう。
この旧校舎が安全なのかどうか、
麻衣の能力を当てにして放った質問だろうか?
それとも、麻衣の過去の事件を知って、
こんな言葉を口にしたのだろうか?
永島先輩にその質問の意図を聞いても良かったのだが、
余計な話を知る人間を増やすリスクを犯す必要もない。
「何でもありません、
永島先輩、行きましょう・・・。」
そして彼らは全員、
うす暗い旧校舎の中へと足を踏み入れた・・・。
短めですいません。
代わりに新キャラ紹介いたします。