リーリト麻衣は手を汚さない 第二話 お話を聞く
放課後、時刻は午後4時・・・。
前述の4人は、例の旧校舎の入り口に集まった。
旧校舎は、
常時、正面の門が施錠されており、
そのカギは学園内に3本しかない。
守衛室と職員室、そして生徒会室だ。
「というわけでですね。」
永島先輩が誇らしげにそのカギをかざす。
生徒会から借りてきたカギだそうだ。
一緒にもう一本、他のカギもついているが、
これは門の奥の正面扉のカギとなる。
つまり両方なければ建物の中には入れない。
「今回の旧校舎の取材は、
生徒会から正式に承認を得ています。
この旧校舎における不思議な噂、
奇妙な現象、
それをどこまで私たちが確かめることができるのか、
それが生徒会側からの要望であり、
私たちの使命です!
あ、照屋君、
旧校舎の全景写真、撮っておいてね~。」
「・・・はい。」
バシャ、バシャ!
待ってましたと言わんばかりに撮影をはじめている。
無口で何を考えているのかわからないキャラだが、
きっと仕事熱心な男子なのだろう。
撮影には多少、時間がかかりそうだ。
その間、
麻衣には聞いておかねばならないことがある。
昼間、旧校舎のことには興味がないと言ったのは事実だが、
これから内部に入るのならば、
事前情報は仕入れておかねばならない。
「永島先輩、
そもそもこの旧校舎はどういった事情で残ってるんですか?」
「あら?
岡島くん、話してないの?」
「え? てか、聞きたきゃ教えてやったのに。」
岡島君には敢えて聞いてない。
話に余計な尾ひれをつけられていそうで、信用できなかったからだ。
「あ、いえ、新聞部の永島先輩の方が、
正確な情報あるかなって。」
正直に、
岡島君の話は信用できないと言ってもよかったのだけれど、
まぁ、本人の目の前で言う程のものでもないだろう。
彼とは仲良くなる必要性を感じないだけで、
敵意を持たれては堪らない。
「なるほど、それは当然ね、
では、これまで新聞部で調べた情報を話しましょう、
それから中に入るわね?」
「まず、基本情報から。
この学園はもともと戦前に建てられた、
昔の財閥が経営する病院施設だったの。
と言っても、
戦後、財閥の解体に伴って、
病院は経営破たん、
しばらく放置されてたけど、
この学園の前身機関が土地ごと取得して、
建物を解体して、新たに校舎を建てて、
当時の学園が完成した・・・。
ただし、一部の建物・・・
看護学校として使われていたこの旧校舎だけ、
解体せずにそのまま学校施設に流用されてたわけ。
その後、
ご存知のように、この学園全体の経営権が、
今の学園に移り、
校舎、体育館など、全て新体制に一新されたおり、
旧校舎は不要として閉鎖されるにいたった。
ここまでいいかしら?」
「あ、はい、ありがとうございます。」
そう、ここまでは基本情報だ。
興味はなくても、この学園にいる以上、
おぼろげながら聞いたことある話である。
「さて、問題は・・・
では何故、旧校舎だけが取り壊されずに・・・、
しかも現在まで閉鎖されているか、
その辺が、先生たちに取材してもはっきりとした答えがないのよね。
予算上の問題で~とか言われるんだけど、
本校舎をこれだけお金かけて建て直してるのに、
旧校舎だけ、何もしない、
ましてや施錠して立ち入り禁止にしてる意味がわからないのよ。」
「どのぐらい前から立ち入り禁止になってるんですか?」
「旧校舎が使われなくなったのが6年前だから、
ほぼ、それと同時期でしょうね。
少なくとも現在は、
守衛さんが毎日、敷地内は巡回してるし、
旧校舎内部も定期的に見回ってるみたい。」
「じゃあ、一番内部に詳しいのは守衛さんなんですか?」
「そういうことになるわね、
でも、衝撃的な証言は得られなかったわ。」
「それで・・・
今まで、その怪現象ていうんですか?
これまでどんな噂が・・・?」
永島先輩はため息をついた。
「う・・・ん、
そこが厄介でね、
今まで真偽が判明してるってケースが皆無なのよね、
一番、大きな噂になってるのが・・・
ホラ、伊藤さん、
あの建物の一番右上の教室見て?
あの角の部屋から、
長い髪の女性がこちらをずっと見つめていることがある、
て奴かな。
ご覧のとおり、
教室は全てカーテンが閉められているから、
何かと見間違えるような話ではないはずなんだけど。」
「でもそれって・・・例えば、
学園側で普通に調査か何かを依頼して、
内部に入った業者の人とかって考える方が・・・?」
「う・・・ん、まぁ、
それを目撃されたのが一度きりならそう判断するのが自然かもね、
でも同じものを見たという報告が、
もう何年も定期的に繰り返されてるんだよ?
そのうち、何回かは生徒会の耳に入って、
先生たちに誰か出入りしてるか確かめるんだけど、
その日にはどんな業者も出入りしてはいないと言うの。」