メリー新世界篇5 一騎打ち
メリーは更にその白い顔を船員に近づける・・・。
彼の顔にメリーの銀色の髪の房が垂れた。
「・・・可哀想に・・・
生まれ育った土地を離れ、こんな海の上で・・・。」
「お、おれを看取ってくれるの かい・・・?」
「心配しなくてもいいわ・・・、
あなたがこれから向かうのは、苦しみも何もない世界・・・、」
「そ、そうか、ありがと う、それを聞いて あん し んしたよ・・・!」
「でも・・・、ね?
あなたは悔しくない?
さっきまであんなに元気だったのに・・・?
この若さで命を失うなんて理不尽にも程があると思わない?
あなたは何も悪くないのに・・・。」
「く、くやしい よ!
友達や 家族が ・・・国には彼女もいるの に な、なんでこんなとこで・・・!」
「悔しい?
あいつらが憎い?
・・・ええ、あなたの憎悪の念を感じるわ・・・、
もっと・・・もっとよ、あなたの悲しみを・・・恨みを、憤りを募らせるの・・・!」
ユージンは・・・いや、彼に限らず全ての者がその光景を見ていたが、
特に彼の目には異様なものが映っていた・・・。
死に際の船員のカラダから、さきほどよりも更に大きい白いガスのような塊が発生し、
メリーが持つ右手の鎌に・・・そしてメリーそのものが白いガスに包まれていくのだ・・・!
そしてそれはしばらくすると、
まるでメリーのカラダに吸い込まれたかのように小さくなり、
終には完全にその場から白いガスは消滅した。
メリーはそして立ち上がる・・・。
右手には、異様に巨大なアラベスク文様の不気味な鎌を携えて・・・。
もう、あの若い船員は息をしてないようだ・・・。
既にメリーは、若い船員の死体に興味はなくしていた。
既に彼女の目的は、目の前のエモノたちをいかに断罪するか・・・?
人形メリーは軽く首を振り、髪を揺すると、
ゆっくり・・・ゆっくりとその鎌を両手に持ち直し、
これから始まる死刑執行の準備を終えた・・・。
「さぁ、行くわよ、ゲリュオン・・・。」
黒い塊が、弾けるように海賊達に襲い掛かる!
死神の鎌ゲリュオンの大きな軌道が、悲鳴と鮮血を生み出していく!
海賊・・・いや船員達も同様だが、
いま、この場に何が起きてるかすら理解できない者がほとんどだ。
その恐ろしい鎌の矛先が、自分に向く事になるのかどうかも分らない!
海賊達は抵抗する事すら忘れて、あっという間に5人もの荒くれどもが甲板に転がっていく・・・。
中には、まだ痙攣してる者や、激しく出血をしている者もいるが、
誰が見たって、もう起き上がれるような者はいない・・・。
一息入れたつもりなのだろうか、
メリーはその殺戮行動を一度停止し、ゆらぁりと後ろを振り向・・・い、いや、
く、首が180度後ろに・・・回って・・・!?
次のエモノはどれにしようか・・・。
そのまま、舌なめずりでもするのかとも思える振る舞い・・・。
甲板にいる者は、全員がパニックとなった。
海賊達は我先にと縄梯子目指して逃げ始める。
中には、順番を待てずに海に飛び込む者さえいる。
もう、これは嬲り殺しと言っても良いのではないだろうか?
まるで嬉しがるかのように、メリーは海賊の集団に追いすがり、
悲鳴と恐怖の色に染まった彼らの背後から、
これでもか、これでもかと言わんばかりに鎌を振り回した。
ユージンでさえも目を覆いたくなるような惨劇だ・・・。
甲板のみならず、穏やかな海面にすらも真っ赤な鮮血がどんどん呑み込まれていく。
船員達も、
なんとかメリーの標的が自分たちになる事はないとは思い始めていたが・・・、
相手が人形だけに、その事が保証できると楽観的に思えるはずもなく、
ただただ一塊になって、船長オブライエンの元で、膝を震わす者がほとんどであった。
「あっ・・・!」
その時、ユージンは見た。
船にかけられた別の縄梯子から、一際体格のでかい大男がよじ登ってくるのを・・・!
どう見ても、海賊の頭目格だ・・・。
「てぇめえぇぇらぁぁ!!
なに、無様な格好晒しとんじゃああああ!!」
メリーが海賊を切り刻んでる間、
そのいかついカラダの頭目は、甲板によじ登る事に成功していた。
その目には驚愕の色が窺えたが、
その人形が、自分よりも強いなどとは一瞬たりとも考えてはいないだろう。
「おいこら化け物ォ!! オレが相手じゃあっ!!」
・・・メリーの動きが止まる・・・。
いや、もう鎌を振るう必要がないだけだ・・・。
海賊の手下達は全員、足元に転がるか、海の底に沈んでしまったかどちらかなのだから・・・。
いまや、この船に残っている海賊はその頭目のみ。
海賊船では手下達が、再びユージンたちの船に乗り込む準備は終えてはいるものの、
頭目が不気味な人形をやっつけるまでは、その行動を開始する事は出来ない。
一方、メリーはまたもやゆっくりとした動作で、
気勢をあげる頭目にその眼差しを向けた。
死神の鎌が下ろされる・・・。
小休止のつもりだろうか?
銀色の髪の房が海風にたなびいて、その白い頬を時々隠す・・・。
空が明るくなっている。
日の出はまもなくだろう、
東の方の雲の隙間から、金色の光の束が所々空に向かって伸びている。
そしてメリーは、ゆっくりと海賊の頭目に向かって話しかけた・・・。
「・・・私のお相手をしてくれるのは、あなた?」
しゃべりやがった!?
だが驚いてばかりもいられない、
・・・自分の手下達をこんなにも殺されて、黙っていることなどできるはずもない。
頭目は使いこまれた戦斧を振り上げ、人形メリーに襲い掛かった!
「おぉぅりゃあああっ!!」
ガシィンッ キシャァッ!
激しい金属音と火花が舞う!
頭目の激しい斧の軌道に、これまた信じられないスピードでメリーが鎌をあわせる。
互いの攻撃パターンはほとんど同じだ。
だが、その間合いはメリーのほうが大きい分、隙も多い。
死神の鎌の間合いの中に入り込まれたら、勝負は決するだろう。
メリー
「うーん、看取ってあげたというか、
エネルギー貰いにいっただけなのだけど。」
次回、メリーさんの新たな能力。