メリー新世界篇4 始動
おれたちゃ海賊♪
おれたちゃ海賊♪
「ユージン様!
あなたは甲板に出る必要はありません!
危険ですよ!?」
「だが、船長は行くつもりなんだろう?
わ、私だって貴族の端くれなんだ、
多少の剣の心得はある!
これ以上被害を受けるわけにはいかないんだ!」
船長は、部下を殺された怒りと、
ユージンを守る責任とのどちらを優先するかの決断を迫られていた。
気が弱いくせに、変な所で大胆・・・というか、プライドの高いユージンの扱いは大変だ。
どの道、甲板での戦闘はこちらにとってはなはだ不利である。
なにしろ後から後から海賊が乗り込んでくるのだ。
少々、敵をやっつけても戦況に変化はない。
むしろ、敵兵の数はますます増えていく。
せっかくの大砲も、敵に乗船されてしまった今ではなんの意味もない。
結局、船長は、ユージンを連れて甲板に出て行くことを決めた。
護衛する事はできないが、ユージン自身が自分の身は自分で守ると言い出したからには、
少しでも戦力が欲しいのは事実だったからだ。
・・・さて、二人がデッキに到着した時には既に四人目の犠牲者が出ていた。
新手の海賊が、二人の姿を見つけて襲い掛かるが、船長の手槍が海賊の胸を突き刺す。
いざとなれば容赦はしない。
片や、心では分っていても、突然の命の奪い合いに、
ユージンは現実を理解しようとするだけで精一杯だ。
どっかの船室に閉じこもっている方がマシな気がするが・・・。
海賊の中には、狭い甲板の為に戦闘に参加できないものもいる。
また、船内に侵入しようとするものもいるが、
既にオブライエンとユージンが入り口を固めたために、彼らの隙を窺うしかない。
ところが新たに縄梯子を伝ってきた新手が、
セピア調の空、船、海の景色の中に、
マストの上で一人佇んでいる女性に気づいたのである・・・。
この高低差と朝もやでは、その姿は「人形」だと認識できるはずもない・・・。
「おい、オメーら!!
帆の上に立ってるご婦人を見ろよぉ!?」
直接、戦闘行為を行っていない全ての者が、荒げた男の声に反応した、
ユージンやオブライエンでさえも・・・。
もっとも、そのマストに立っている女性が、人形メリーだと理解できたのはユージン、オブライエン、
その二人だけである。
「あ・・・あれはあの人形!?
どうして? あの部屋には鍵がかかってたんじゃないのか!?」
オブライエンは海賊達の方をにらみつけたまま、マストを見上げるユージンに説明する。
「いえ、あの鍵は他の船員達を近づけさせないためのものです・・・、
メリーはその気になれば、あんな鍵など容易く破壊できます。」
「そ、そうなのか?
でも、い、いったいどうしてここに!?」
黒いドレス姿のメリーを見て、手の空いた海賊達は、一目散にマストを登り始めた。
彼らの目的は決まっている。
力づくで彼女を組み伏せ、その欲情を彼女のカラダの中に発散させるためだ・・・。
生身の女性と違って、メリーが陵辱される心配はないが、
彼らが、マストの上の「女性」の正体を知れば、一体どんな反応を示すのだろうか?
・・・その時、ユージンは自分の目を疑った。
朝もやはそれほど濃いものではなかったが、
甲板から・・・何か白い塊のようなものが人形・・・メリーの方に立ち昇っていくのが見えたからだ。
その塊はゆっくりとだが・・・3つ・・・いや4つの塊となって、
足場を気にしながら登って行く海賊達を通り越していった。
そして・・・
それらの塊を待ち構えるかのように、
人形・・・メリーはその右腕を振り上げた・・・。
そのか細い右腕の先にはアラベスク文様の・・・
船上の空気を切り裂くように、モノトーンの人形「メリー」は叫ぶ。
「・・・私の名はメリー、
・・・今、邪まなるお前たちの上に在る!
我が右手に握られしは『死神の鎌』
ゲリュオン!!
・・・虐げられし魂は今、お前たちを断ずる力に変換される・・・っ!」
いきなりメリーは、マストのてっぺんから真ッ逆さまに飛び降りた。
ツバメが滑空するかのように、マストの柱にそって落下する。
途中、柱を登っている海賊が悲鳴をあげる。
メリーがクルッと一回転して着地した0コンマ数秒後、
彼女の背後で、彼ら二人の海賊が断末魔の声をあげて甲板に激突した。
・・・もう、戦闘中であろうがなかろうが、
その甲板にいる全ての人間がそれに気づき、
彼女・・・メリーの姿に目が釘付けとなった・・・!
人間の女性ではなく、黒光りする巨大な鎌を握りしめた人形が、
まるで当然とでも言わんばかりに、二人の海賊の背中を切り裂いていたのを・・・。
その想像する事すら困難な異常な光景を、
両軍共にただ固まって見てる事だけしかできなかったのだ。
薔薇の刺繍のドレスを纏い、
そのか細き手には死神の鎌ゲリュオン!!
銀色にたなびく髪と、全てを見透かすようなグレーの瞳!
メリーは着地後、片膝をついてうずくまっていたが、不意に立ち上がり、
辺りをグレーの瞳でギョロっと一瞥すると、
新たに犠牲となった若いクルーのそばへと近寄った・・・。
まだ息がある・・・、
だが、既に顔には死相が浮かび出ていて、呼吸も絶え絶えだ・・・。
もう助からないだろう・・・。
メリーがその顔を死に際の船員に近づけると、
彼の瞳はメリーに反応した・・・。
「あ・・・あんたは・・・船長が拾ってきた・・・人形・・・? な んで・・・?」
次回阿鼻叫喚。