第20話
「赤い魔法使い」バァル戦決着です!
蛇一匹など、
「赤い魔法使い」バァルにとっては、
別に驚くようなものでもなかったが、
その白い蛇は、
彼に向かって何かを語りかけるようにも見えた・・・。
「・・・下種な欲望に汚された・・・
力無き女性達に魂の安らぎを・・・。」
反射的にバァルは後ろを振り返る!
馬鹿な!
エミリーに自分を攻撃できるはずはない!
後ろにも頭上にも何もいない・・・、
だが、
顔を上に向けたその瞬間、彼の足首を何かが掴んだ。
「彼女」はそこにいた!
台座の影に身を潜めていたのだ。
蛇がその強力な顎で、
エモノに毒の牙を突き立てるように、
「人形」の強力な爪が彼の足首を貫く!
「ヒャガッ・・・!」
あまりの激痛に一切の行動をとる事ができない。
「人形」はその、
高貴な銀色の髪を有する頭部を、
固い床から徐々に持ち上げていく・・・。
それこそ彼が待ち望んでいた筈のもの・・・
バァルの視界に、
「彼女」の美しい白い顔、
透き通るようなグレーの瞳が映る。
そして先程、
足首を破壊した片手で、「メリー」はバァルの首根っこを捕まえた。
もう片方の手は、
アラベスク文様の鎌の柄を握り締めて・・・!
「そ・・・そんな馬鹿な!
何故、わたしを攻撃できる!?
わ、わたしはお前の主人だぞ!!
そのカラダにどれだけの精を注ぎ込んだのか忘れたのかァァ!」
レッスルは厳しい顔で事の成否を見守っている・・・。
──人形メリーには人質は通用しない──
「少なくともバァルはそう理解している」はずだ。
ライラック達を突撃させるタイミングはギリギリでなくてはならない・・・。
そしてあの「人形」にバァルは殺せるのか・・・?
・・・「人形」は鎌の動きに力を入れた。
だが、
やはりカラダが抵抗しているのだろうか、
まるで「人形」の内部で、
バァルを切り裂こうとする力と、
それを押しとどめようとする力が綱引きをしているようだ。
「フ・・・フハハハハッ!
そうともぉ!
お前にわたしが殺せるはずがないいぃぃ!
あの忌まわしい恐怖がこびりついている限りぃぃ!!」
人形の瞳が小刻みに震えている・・・、
やはり駄目なのだろうか・・・?
その時だ、
バァルの人形に押さえつけられた麻衣が叫びを上げた。
「ママァ!!」
その瞬間、
「人形」にかつてないほどの力が爆発した!
全ての留め金が外れたかのように、
鎌の刃が一気にバァルの首筋に突きたてられる!
「・・・そっ・・・!
そんなァァ!?」
「お前たち、今じゃ!!」
弾かれたようにライラック達は突進する!
左右の人形は麻衣を攻撃する暇すら与えられず、
ライラックとガラハッドに弾き飛ばされる!
そして義純が麻衣を救い上げる事に成功した!
伊藤の口から安堵の声が漏れるのは当然だろう。
「ああ! 麻衣ッ!!」
一方、
バァルの首元からは赤い血が噴出し始めていた。
最後まで何が起きたか理解できないでいる。
「ルッ・・・ルプレヒトォ!
き、貴様エミリーに何をしたーッ!
わ、わわたしのエミリーにぃぃッ!!」
レッスルは怒りを込めてつぶやく。
「そのカラダは・・・!
わしの父エックハルトとフラウ・ガウデンの想いの証なんじゃ!
・・・お前なんぞに好きにはさせん!!」
「人形」にも最早ためらいはない。
刈るというよりも、
ノコギリでも挽くかのように・・・、
嫌な音を立てながら赤い魔法使いの首を刻んでいく!
簡単には死ねない処刑方法だ・・・!
「ハッ!
グッ・・・ ガフッ
ウッ・・・ア ア・・・」
もはや声にも言葉にもならない。
「人形」その身に受けた・・・、
今まで堆積していた苦痛と無念と屈辱を・・・、
全ての思いをその鎌に込めて!
バァルのおぞましい首を、
忌まわしいカラダから完全に引きちぎる・・・!
この世と・・・、
愛する者との別れの決意を念に込めて・・・!!
薄い灰緑色の瞳を見開いたまま、
「赤い魔法使い」バァルの頭部が転がっている。
首から上を失った死骸もそこに横たわったままだ・・・。
いつの間にか白い蛇はその場から消え去っていた。
あれはメリーに使役された使い魔のようなものだったのだろうか?
いいや、それは「メリーに」ではないのだろう。
「白い蛇」を使役できるのは──いや、今はどうでもよいことだ。
麻衣は、義純から伊藤に引き渡され、
父親の体を抱きしめて放さない。
ライラックとガラハッドは、
他に襲ってくるものはないか、この場は安全か警戒を怠らない。
そしてマーゴはその場にペタンとしゃがみこんだ・・・。
「終わったのねぇ~・・・。」
レッスルはバァルの死体を見下ろしたままだったが、
やがて、そっと「人形」に目を向けた・・・。
「おかげで、
一つの区切りがついたよ・・・。」
「人形」はレッスルを見つめたまま何も話さない・・・。
もう瞳をギョロつかせることもない。
しばらくそうしていたのだが、
「人形」は、
ふっと伊藤親子に視線を投げかける。
伊藤がそれに気づいた・・・。
まだ正直、
人形は恐かったが、
いまや彼女に害意はないのは見て取れた。
伊藤はためらいつつも「人形」に向かって礼を言う。
言葉が通じるかどうかは今更どうでもいい。
「メリー・・・、ありがとう!!」
「人形」は何も答えない。
ところが、
伊藤の腕の中にいた麻衣が・・・、
次の瞬間、
後ろを振り返って急に泣きはじめたのだ・・・。
「・・・うっ、うっ、
・・・うわ~ぁん・・・」
伊藤は優しく頭を撫でる・・・。
「麻衣・・・、
もう大丈夫だ、恐くない・・・。
大丈夫だよ・・・。」
だが、
麻衣は頭を振って泣き続ける・・・。
麻衣が泣くのは全く別の理由だったからだ。
「うわぁぁん
・・・ごめんなさい・・・ごめんなさいぃ・・・ヒッ、
麻衣が・・・麻衣がぁ・・・
ママの言う事聞かなかったからぁ・・・、
ヒック、
ママが・・・ママが・・・、
うわぁぁあん・・・」
誰もが麻衣の言葉が理解できない・・・。
全ての者が、
麻衣が泣くのは、恐怖から解放されて、
緊張が解けたせいだと思っていたのだ。
レッスルだけが全てを理解し厳しい顔をしている・・・。
次の瞬間、
静かだった「人形」が声を発した、
・・・そして伊藤は、
・・・残酷な事実を知る・・・。
「あなた・・・。」
このエンディングに持っていくために「外伝・白いリリス」を掲載しました。