メリー新世界篇3 海賊
ぼっち妖魔は異世界に飛ばされる〜メリーさん、今どこにいるの?
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3D画像も作ってみました。
せっかくの休みもこの作業で潰れてしまう・・・。
あ、画像クリックしても小説ページには飛びませんので。
ゴトン!
いきなりの事で、ユージンの手からランプが落ちる。
オブライエン船長は慌てずに、ゆっくりランプを拾い上げると、
固まったままのポーズの、ユージンとメリーの顔を照らし映した。
のけぞったユージンには、狼狽と恐怖の色がその顔に浮かび上がっている・・・、
一方、表情のないメリーには、その心のうちを顔に出す術があるはずもないが、
上目遣いに睨んだそのナイフのような視線が、全てを物語っている・・・。
気安く触ろうとするな・・・!
そしてメリーは、ゆっくりと真っ直ぐに伸ばした右腕を引っ込める。
「・・・ユージン様・・・でしたね?
私はただの人形ですが・・・、
私は、召使でも奴隷女でも・・・ましてや玩具でもありません。
私には、明確な意志と目的と・・・そして人格があります。
この船に乗せて貰った代わりに、私にできる事があるのなら多少は協力いたしますが、
貴方の所有物になるわけには参りません・・・。」
ユージンの顔に汗が垂れてきた・・・。
どうなってるんだ? おれの言う事を聞けないってのか!?
「き、きさま私を誰だと・・・!」
言いかけるユージンをメリーが制する。
「ご覧の通り、私は人形です。
あなたがあなたの国で、如何なる権力をお持ちか存じませんが、
私には権力も財力もいかなる力にも拘束されません。
・・・ただ、だからと言って、私の都合で周りを騒がすのも本意ではありません。
それでこのような、人目のつかないところでじっとしていたのです。
ですので、極力私に構わないでいただけますか?
もし・・・それが叶わぬなら・・・」
そこで船長が割って入った。
・・・これ以上、事態を険悪にさせるわけにはいかないと判断したのだろう。
「ユージン様、最初に言ったでしょう、
不用意な発言は慎んでいただくようにと・・・。
これ以後、彼女と接する機会がないわけではありません、今夜は一まず・・・。」
仮にも貴族のユージンが、それで納得できるはずもない。
・・・だが、人形の言葉遣いから、
彼女のセリフが本気である事も、疑いようがない事はわかった。
しぶしぶと、その薄暗い部屋から退出するしかない・・・。
船長は扉を閉める前に、もはや真っ暗になりかかっている船室で、
一人立ち尽くす暗い姿の人形に声をかけた。
「邪魔をしたな、メリー、
また何かあったら声をかけるかもしれないが・・・。」
「ええ、どうぞ?
私の方には気を遣う必要はありませんわ、
おやすみなさい、船長。
・・・そしてユージン様?」
「ああ、おやすみ、メリー。」
そういって船長は、
たじろぐユージンに一度目配せをしてから扉を閉じた。
ユージンは挨拶どころではなかったらしい、
プライドを酷く傷つけられたせいだろう。
やむなく、帰りしな船長に食って掛かる。
「どういうことだよ?
なんだいあの無礼な人形は!?」
身分は勿論、貴族のユージンの方が上だが、年齢も人生経験も船長が上回る。
若きユージンをなだめることなど造作もない。
「これは失礼を・・・・、ですが面白いものを見れたでしょう?
それにユージン様は感じませんでしたか?
人形メリーはいかなる権力も気にしないと言ってましたが、
あの『人形』そのものに高貴な雰囲気が・・・。
まるで貴族のスタイルを身につけているような・・・。」
「えっ!?」
そう言われてユージンは後ろを振り返った・・・。
そう言えばあの物腰は・・・。
だが、それ以上詮索したところで何が明らかになるわけでもない。
しばらくして、二人はそれぞれ自分の部屋に戻った・・・。
その夜・・・いや、空が白み始める薄暗い船上の甲板・・・。
交代で寝ずの番をしていた船員が叫び声をあげる。
「か、か・・・海賊だぁ、
海賊が現われたぞぉぉーッ!!」
この時代にレーダーなどない。
朝もやの中から、突然3隻からなる海賊船が洋上に姿を現わした。
オブライエンやユージンの乗る船のクルーたちは、
直ちに持ち場について海賊船に襲撃への臨戦態勢をとる。
熟睡していたユージンも、突然の騒乱に目を覚ました。
「・・・え? おい、何事だ・・・!?」
寝巻き姿で廊下に出ると、雇い主の自分を無視して船員達が慌ただしく駆け抜けていく。
・・・まさかこれは・・・。
ユージンは着替えて操舵室に向かう。
既にオブライエンは厳しい顔をして、部屋のガラス窓から甲板の騒乱を見下ろしていた・・・。
「・・・お目覚めですか、ユージン様・・・。」
「船長!
まさか海賊に襲われてるのか!? ・・・一体!?」
慌ててユージンも窓の下に目をやると、
既に縄梯子をひっかけた海賊船から、
大勢のならず者達が乗り込んで、この船のクルー達と交戦している。
訓練されたクルーたちもよく戦っているが、圧倒的に海賊の兵数のほうが多い。
次第に押されていき、既に3人もの犠牲者が甲板に横たわっている。
「・・・あれは、マックにブレポワ・・・そしてワイズマン・・・クソっ!
まだ目的地にも着いてないのに・・・!」
日ごろ温厚なオブライエンも、部下を殺されて激しい怒りの表情を浮かべている。
その激情に戸惑うユージンだったが、
船員達と関わりを持たないユージンにとっては、身の安全のほうが最大の心配事である。
「オ、オ、オブライエン船長・・・!
ここはだ、大丈夫なんですか!?」
オブライエンはユージンの方を向かずに、絞るように声を吐き出す・・・。
「・・・生きるか死ぬかです・・・。
例え降伏しても、こんな所で食料や燃料を奪われては、生き残る術はありません。
あなた様の身の安全を図りたいとは思いますが、最悪の事態を覚悟してください・・・!」
「そ、そんなぁ!?」
一方、甲板の上での戦闘を見下ろしている人物が、
マストのてっぺんにもう一人存在していた・・・。
荒ぶる海風に銀色の髪をなびかせ、薔薇の刺繍のドレスを纏ったモノトーンの人形が・・・。