メリー新世界篇2 驚愕
「ぼっち妖魔は異世界に飛ばされる~メリーさん、いまどこにいるの?」
アップしました。
激しくいきり立つユージンに、
船長は「とんでもない」という風に両手をあげる。
「待ってください、ユージン男爵。
アレが女性に見えますか?
いや、女性には違いないのか、な?
なぁ、メリー・・・。」
メリー!?
急いでユージンが首を戻すと、
そのうずくまっているはずの女性は顔を起こしていた・・・。
女性・・・?
いや、女性と言うか・・・人間?
あれは人形・・・。
人形が・・・人形が動いたぁ!?
不思議な光景だった・・・。
部屋の入り口には、落ち着いた船長と、
ランプ片手にあまりの衝撃に固まったままのユージン。
そして部屋の奥では、女性のカタチをした人形が、
無機的な動きで立ち上がろうとしていた・・・もちろん無表情のまま。
「あ、あ、ああ、あああ・・・。」
ユージンは、声は出るが言葉は出ない。
一方、人形はゆっくりとだが、
ゴッ、ゴッ、とハイヒールの音を響かせて近づいてくる。
光り輝く銀色の髪、
薔薇の刺繍の黒いドレス、
そしてあまりにか細いその両腕・・・、
さらに何者をも拒むような神秘的な白い顔・・・。
最初、その人形は船長を見ていたようだったが、
彼らの手前まで来ると、若きユージンに向けて、瞳をグルッと動かした。
そしてその口からは・・・小さく、しかしはっきりとした声までもが・・・。
「こんにちはオブライエン船長、
船は港についたのですか? こちらの方は?」
「こんにちは、メリー、船はまだ海の上だ、
こちらはこの船旅の出資者、ユージン男爵だ。」
「それははじめまして、ユージン男爵、
私はメリー・・・今、あなたの前にいるわ・・・。」
「しゃべったぁぁ!!」
ようやく喋れたのはユージンのほうだ。
オブライエン船長は、ユージンの反応を見て、予想通りとでもいう風にほくそえんでいる。
人形はあまり反応がない。
当然と言えば当然だが。
ユージンは、一人興奮してわめき散らす。
「ちょっとちょっと!
こ・・・ここっこれkっここれ、いいいい生きてるの!?
そ、っそれとも中に人が?
い、いやっ入るわけないか?
あ・・・さっき手品って言った!?」
すぐにそれを否定する船長。
「いえいえ、手品・・・なのかもしれませんが、
少なくとも私にはそんな単純なものではないと思いますよ?」
「ちょっと・・・詳しく話してよ!
こんな人形の事なんて古今東西聞いたことないよ!
まさか・・・、これから行く新大陸の産出品とか!?」
実際、この人形を本国に持ちれば、それだけで船出の出費を賄えるだろう、
咄嗟に、切実な願いを頭に浮かべたユージンだったが、
次にはもう、俗な考えを露わにしていた・・・。
この息をも呑むような美しい顔立ちはなんだ・・・?
全てを見透かすかのようなグレーの瞳・・・、
高貴さをうかがわせる、キメの細かいバラの刺繍をあしらったドレス・・・。
・・・少し間を置いてから、船長は説明を始めた。
「出航前夜、私が積荷のチェックをしてた時にですな、
暗がりの中を動くものを見つけて、調べようとした所、突然彼女が現われて・・・、
そぉりゃ私も最初は腰が抜けるかと思いましたよ?
それで私が船長だと言うと『この船に乗せて欲しい』と、言うんでね、
こっちも退屈しのぎになるかと思って乗船させたのですよ。」
「そ それだけの理由で!?
い、いや、まぁ確かに凄い貴重な存在だし、こんなものを手に入れられるのなら、
城、一つ分・・・いや、国が一つ丸々買える様なシロモノだが・・・
いったい、こんな人形を誰が作ったんだ・・・?」
「彼女に聞いてみたほうが手っ取り早いですよ、
おい、メリー、キミを作ったのは誰だ?」
人形は終止、船長とユージンの会話を黙って聞いていたが、
ここで船長に質問されてようやく会話に参加した。
「・・・さぁ、このカラダを作ったのは誰かだなんて・・・、
言えることは、この人形の姿は私が自分で選んだ姿だと言う事・・・だけ・・・。」
凄い・・・凄すぎる、ちゃんと会話にもついてこれるなんて・・・!
ユージンは興奮しすぎて、質問の答えなんてもはやどうでもいいようだ。
「あ・・・ああ、メ、メリーと言ったっけ?
ちょっと、その場でグルッて回ってみてくれないか?」
少し間を置いてから、言われたとおりメリーは背中を見せて一回転する。
完璧だ・・・!
ランプに照らされたその姿は、ユージンがこれまで見てきたどんな彫刻品や人形よりも美しい。
「な、なぁ!
オブライエン船長、この人形の事を知ってるのは貴方だけなのかい?
そういえば、さっき口外禁止って言ってたもんな?
とりあえず、この人形を私の部屋に移動させるよ!?」
「知ってるのは、数名の部下だけですが・・・
貴方の部屋に移動させるのは・・・。」
「何を言ってるんだ?
この航海で得た物は僕に帰属権がある。
第一、貴方じゃこんな高価な物の管理も出来ないだろう?
・・・こんな暗い船室に閉じ込めて・・・。
さぁ、おいでメリー? 私の部屋で楽しいひと時を過ごそうじゃないか?」
だが、メリーはユージンを見つめたまま動こうとはしない。
「メリー? 何してる? さぁ・・・」
彼がメリーを誘おうと、その垂れた銀色の髪の房に手を入れようとしたとき、
バネが弾けたように、突然メリーの腕がユージンの顔面に向かって突き出された。
「ヒィッ!?」
メリーの人差し指がユージンの眼球直前で止まる・・・
あと2~3センチで突き刺さるだろう。
新しく連載した方に登場してるメリーさんはこの方です。
マリーちゃんでもエミリーちゃんでも百合子ママでもありません。