フラア編以降のメリーさん4
その瞬間、頭の中が爆発するかのような衝撃に襲われた!
一瞬・・・ほんの一瞬だったのに、
誰かの・・・
何十人もの意識が流れ込んできたかのような錯覚に陥ってしまったのだ。
一秒も握ってない・・・、
とても熱い金属にでも触ってしまったかのような衝撃・・・。
頭の中に残る他人の見た光景・・・意識、
それが幾つもまだ、自分自身の意識の中に残像のようにこびりついている。
・・・今のは!?
気がつくと、私は固く冷たい床に尻餅をついていた。
いや、痛みや冷たさなんて感じている状況じゃない。
それほどのショックが後を引いている・・・。
・・・元々私は精神感応能力を有する能力者だ。
少し落ち着けば、今の状況がどういうことなのか分析するのは難しくない・・・。
能力の暴走・・・というよりも、
この不思議な鎌が、強制的に私の力をオーバーロードさせようとした。
しかも、他人の心が勝手に流れ込んできた、というわけでもない。
何故なら、ここに人間などいないのだ。
・・・では?
この気味の悪い鎌に、大勢の人間の意識がこびりついているとでもいうのか?
どうしたらそんなことが・・・?
サイコメトリーでこの鎌を調べる事も可能かもしれないが、
恐らくそんなことをしたら、私の許容量をはるかに越える思念波を浴び、
私の精神は完全に破壊されるだろう。
ならば・・・。
私は後ろを振り返った。
・・・無機的な、人形の灰色の瞳がこっちを向いている・・・。
人形、お前は何かを知っているの?
私に何か伝えたい事でもあるとでもいうの?
私は非現実的なことを考えるようになった。
もともと、人形のような人型の器物には、周囲の人間の念を受け止めやすい。
あの巨大な鎌にアレだけの念が込められているのだ、
人形にも、何らかの手がかりが残っているのでは・・・?
・・・人形は、私に手を伸ばされるのを大人しく待ち構えている・・・。
そう、錯覚したくなるような表情だ。
私は思い出したかのように、よろめきながら立ち上がり、
その人形の顔を覗き込んだ・・・。
見れば見るほど精巧な造りだ。
・・・?
よく見ると、髪の色こそ違うが誰かに・・・
・・・「彼女」?
私の夫が・・・あの人が、心の底で想いを寄せていた「彼女」に似ていなくもない・・・。
「彼女」か・・・。
何故こんな所まできて、「彼女」のことを思い出すのだろう・・・。
昔の事を思い出すとつらくなる。
「彼女」のことは私も大好きだった。
一緒にいると、暗い気持ちがどこかに吹き飛んでしまう明るい娘。
「彼女」に対しては、興味、憧れ、嫉妬、
・・・いろいろな気持ちを抱いていた。
貴族の娘として生まれ、両親や周りの者からちやほやされて育ってきた私は、
他の女性たちから見れば、羨望の対象でしかありえなかったろう。
その私が、「彼女」の笑顔の前では、脇役どころかただの観客者にまで落とされてしまうのだ。
いや、私はほとんどそれを受け入れていたのかもしれない。
所詮私は「観客者」。
五体満足の美しい肉体を手に入れても・・・
国王の后にまで上り詰めても・・・、
「彼女」を殺害する計画に加担してまでも、
・・・やはり私は主役にはなれなかった。
運命の螺旋は・・・、私がその中に入ることを拒み続けてきた。
后の地位を捨て、
あの男と再婚しても・・・結果は同じだった。
愛を求めたわけではない。
互いの利益が一致していた・・・。
それと、
・・・同じ運命の螺旋から弾き出されたという、奇妙な仲間意識が私のほうにあった。
・・・でも、違った・・・。
あの人は、・・・夫は間違いなく「彼女」と同じ、
運命という壮大なドラマの主役だったのだ・・・。
唯一残念なのは、夫自身、自分の役を理解していなかったことだろう。
あの時、最後の最後で「夫」は自分の役割に気付いたのだろうか。
そして残された私に何ができる?
自分で死ぬのも馬鹿馬鹿しい、
かといって生きる場所さえ見つからない。
今の私は、夫や、・・・「彼女」の生前の行動を思い出し、
こうして、何か私にも「理解」できるものはないかと彷徨い歩くのみだ。
私は、誰もいないのに馬鹿馬鹿しくなって首を振った。
今更そんなものを思い出して、どうだというのだろう・・・。
人形は相変わらず、うなだれたままだ。
「ごめんなさい? 待たせちゃった?」
どうせ、誰もいないのだ、
子供の気分にでもなって、人形に話しかけてみた。
ねーぇ? 早く触って?
・・・そんな風にでも答えてくれないかしら・・・?
あるわけもない。
私は精神を無にし、人形の頬に手を伸ばした・・・。
意識して能力を使うのは久しぶりだ、
何が読み取れるのだろう・・・?
いや、余計なことを考える必要はない、
・・・心を空っぽにして・・・。
・・・
この声・・・は
ら ウ デン
ック ると !
使徒!?
お役目!?
そンな の糞喰らえっ!!
愛す 者同士が互 を求め うのに
いっ い何の 罪が っ!?
いや・・・いやッ!!
やめて! 気持ち ・・・悪いッ!
放し て 触ら いでっ!
・・・ルマーァッ!?
よ も・・・
よくも ルマーをーーッ!!
人形にこびりついている記憶をリーディング中です。
悪霊に感染したあの子を助けるために
その母親が残した最期の記憶。