フラア編以降のメリーさん3
改めて部屋全体を観察すると、
既に誰も住まなくなって久しいようだが、
その直前まで普通に暮らしていた痕跡がよく分る。
・・・まるで、突然この家から、出て行かなければならなかったかのようだ。
やかんには水が入っている・・・当然腐って異臭がする。
蒸発してないのはこの家の中の湿気のせいか、
それとも水を汲んでからそこまで時間が経っていないからなのか?
食器は綺麗に並べられている訳でもないが、
ちょっと並びなおせば、すぐに食事の用意までできそうだ。
もっとも、勿論こんな所で飲食する気など起こらない・・・。
壁にはいろんな地域や時代の調度品がある。
この家に住んでた者達は、どうやってこれらを手に入れていたのか?
私はすぐに答えを見つけた。
そこかしこにある人骨やしゃれこうべ・・・。
この森に迷い込んだ者から、命とともに、彼らが身につけていた装飾品を奪っていたのだろうか。
私はその答えに満足すると、
部屋の隅にもう一つの扉を見つけた。
物置?
恐らくそこも、この部屋と大差がないものではないかと思いつつも、
念を入れるためにもその扉を開けようと試みた。
・・・ここも同じだ、ガタガタ開けづらい・・・。
私は苦労して扉を開けた後、
部屋のランプを掲げて、この小さな部屋に足を踏み入れた・・・。
・・・?
私は目を疑った。
これは何!?
硬い診察台のようなものの上に・・・壊れた・・・白い人形?
・・・無残な光景だった・・・。
人形とは理解できてはいるが、
ボサボサになった銀色の髪の毛は白い頬を覆い、
ひび割れた顔は、その傷を隠すかのようにうつむいて、あっちの方向を向いている・・・。
カラダのあちこちが砕けている・・・。
薔薇の刺繍の黒いドレスはボロボロだ・・・。
しかもこれは・・・まるで何十発もの銃弾を浴びせられたかのような・・・。
これが女性の死体だというのなら、
大勢の暴徒達に、寄ってたかって嬲り殺しにされた後だと言われても不自然ではあるまい。
一体誰が、たかが人形にこんな酷い仕打ちを・・・?
まさか?
・・・いや、違う。
夫から聞いたこの森に住まう妖魔は、人形の姿ではない。
そいつは、ボロボロの衣装と、カビだらけの肉体を持った老婆だったという・・・。
では、この人形は一体何なのだろう?
それに・・・銃弾?
いつの時代に受けた物・・・?
この時代に拳銃や機関銃なんて存在しない筈だ・・・。
アルヒズリや神聖ウィグル王国、ましてやイヅヌに暮らしていた時ですら聞いたこともない。
では、この人形は・・・もしかして、
大破局の以前・・・
21世紀かその前の時代からここにあったという事なのだろうか・・・?
私は吸い込まれるように、人形の顔を覗き込んだ・・・。
その白い腕に指を這わせてみる・・・。
何の変哲もない、ガラクタのようだ。
だが、気になる。
目を離すことが出来ない・・・。
この人形だけ、周りの家の家具や調度品に全くそぐわない・・・。
美しすぎる。
それだけに、この人形が「破壊されている」という事実が、何故か自分を悲しい気分にさせる。
この人形が綺麗に飾られていたら、どんなに心が落ち着くだろうか・・・?
私はため息をつき、何か他に手がかりはないかと辺りを見回した。
これと言って、何も気になるものはないかと、最初は思ったのだが、
部屋の隅に、一本の異常に大きな鎌があるのに気づいた。
・・・アラベスク文様の巨大な鎌・・・。
それは良く見ると、人形が無造作に顔を向けている方向でもある・・・。
偶然だろうが・・・、これがもし人間の死体だったのなら、
何か意味があるかと考えたくなる所だ。
私はその禍々しい雰囲気の鎌に興味を覚え、近くまで寄ってみた。
今のところ、化け物も獣にも襲われないが、護身用に武器があっても・・・
いや、こんな大きなものを扱えるはずもないか・・・。
・・・私はその時、他の事を考えていた。
ここまで来て得るものはあったのだろうか?
禁断の土地に足を踏み入れたはいいが、
既にここには何も残ってはいないのではないか?
全ては無駄足だったのだろうか・・・と。
その為、あまり深く考えもせず、
この巨大な鎌の柄を握り締めようとしてしまったのだ・・・。
ついに再登場です。