緒沢タケル編16 神々の王ゼウス 地獄の扉が開く時
最終回です。
その内、モイラの叙述にも変化が現れた。
「大きい宮殿が見えます。
白いレンガ、宮殿の上部はアーチ型の円みを帯びています。
周りの町の人々の喧騒に比べ、あまりにもひっそりとして・・・奇妙です。
人はいないわけでは有りませんが・・・、
ここは・・・
気味が悪い部屋を見つけました・・・。
私が今見ている部屋には、余りにも多くの人形が立ち並んでいる・・・。
その人形達の作風もバラバラですが・・・、
一体何のためにこんな沢山の・・・。
部屋を出ます。
・・・もっと奥に・・・。
深く・・・暗い・・・?
外から一切、光が入らないのに、
明かりもない大きな部屋が有ります・・・。
私の透視に光は不要ですが・・・。
あ、いえ、奥の玉座の方に大きな明かりが・・・燭台のようですね・・・。
小さめのテーブルのような物が有り・・・、
誰かいます。
・・・男性のようですね。」
一度モイラは静かになった。
男の観察をしているのだろうか。
・・・数秒後、再びモイラは口を開く。
「椅子に座っているだけのようですが、目を開けてはいない。
寝ている?
・・・それとも瞑想か何かしているのか・・・。
かっちりとした軍服のような物に豪勢なマントを巻いて・・・。
彫りの深い顔立ち・・・
口の周りを白髪交じりの髭が覆っている・・・。
額に何か・・・
この徴は・・・もう少し近づいてみます・・・。
どうやら、
かなりの権力者のよう・・・、もしかしたら、この男が・・・!」
その時、モイラの意識は観察対象のすぐ傍まで近づいていた。
現実の距離に換算したらおよそ3メートルほどの場所に・・・。
だが・・・彼女は不用意に近づきすぎた。
その時、
男の瞼がいきなり見開いたのである!
燃えるように輝く黄金色の瞳っ!
その禍々しすぎる瞳は、
肉眼で捉えられない筈のモイラの精神を抑え込んだのだっ!!
家畜が絞め殺されるかのような悲鳴があがるっ!
タケルたちの目の前で、二番目のモイラが白目をむいて立ち上がったかと思うと、
カラダを異様に捻りながら、口から泡を吐いて卒倒したのだっ!
いったい何が起きたっ!?
「何を視たのッ!?」
マリアがその原因を予測するも、
その恐怖の衝撃は、味わった者ではないと分かるわけもない。
他の二人のモイライが、すぐさま姉妹の介抱に向うが、
かなり危険な状態だ。
無事でいられるだろうか・・・。
まさか、もう二度と意識を取り戻すことがないなんて事になったら・・・。
直ちにゼウス神殿に勤める侍女たちが、モイラの体を運び去る。
なんと呆気ない幕切れか・・・。
誰も・・・
次の行動をどう起こせばいいか決断できない・・・。
モイライの長姉・・・未来を見通すモイラだけが、
自らの責務を果たそうと、しばしその場に留まっていた・・・。
「恐らく・・・、
彼女の意識は、かの地で何者かに囚われたか・・・
若しくは襲われたのでしょう・・・。
意識体を飛ばしていたのに気付かれたのかも・・・、
迂闊でしたっ!
同様の能力を持つ者がいるのなら・・・、
何らかの防御壁か対応策があるはずだったのに・・・!
申し訳ございませんが、
これ以上、私どもの能力を使うのは危険と言わざるを得ません・・・っ!」
ゼウス神殿は、水を打ったように静まり返る・・・。
いま・・・たったこれだけのやり取りの中で、
どれほど普通の人間の想像の及ばぬ事態が起きたのか・・・。
既にスサのメンバーも、ここまでで多くの仲間を失っている。
地上に残っている騎士団はなおさらだ。
果たして・・・
自分達はこの現実を変えることが出来るのか?
これまでの旅で、絶大なる能力と自信に目覚めたはずのタケルにも、
言い知れぬ不安が増大してゆくのがわかった。
逆に、自らの配下であるモイラがあんな目に遭ったと言うのに、
ゼウスは相も変わらず冷静なままだ。
実際、ゼウス本人が地上に出てゆけば、
どんな軍隊だろうと、壊滅し尽くせる自信があるのだろう。
だが、たった今、
オリオン神群は地上に干渉しないと取り決めたばかりだ。
タケルやサルペドンをはじめ、
スサが黒十字団に立ち向かう限り、自分の役目はないと考えているのだ。
・・・もっとも、
ゼウスは知っている。
モイラは既に予言しているのだ。
ゼウス、ハデスやその他の大勢の神々を伴って、
自分達が地上に出向く運命にあることを。
それはつまり、
スサの殆どの人間が死に絶えることを意味している。
もちろん、自分達にスサを手助けする理由も義務もない。
せいぜい、敵の戦力を削れるだけ削ってもらうか、
敵の手の内を暴いてくれるぐらいは役に立つだろう・・・。
それぐらいの気持ちでタケルたちを観察していたのである。
果たして、
これより先、タケルたちの運命は、いかなる結果を産み出すのか、
彼らを待ち受ける黒十字団の本当の目的は?
それら全ては、緒沢タケル編三部作の内、
最終章・・・「黒十字軍」編で明らかになるであろう。
だが、それはこれまでのタケルの旅の中で、
最も過酷で、
残酷なる運命が待っている・・・。
舞台は一度、
彼の故郷、日本の東京・・・武蔵野方面に戻るだろう。
そして彼は、
・・・全てを奪われる・・・!
長らくお読みいただきありがとうございました。
えっ?
こんな半端なところで終わるな?
断片的なお話ならいくつか、書きかけのがあるんですが、
未編集と言うか、時代も場所も飛び飛びですよ?
それでもよろしければ時々今後も少しずつネタバレ的に投下するかも。