緒沢タケル編16 神々の王ゼウス 不吉な予言
ぶっくま、またもやありがとうございます!
「フン、先の戦いは貴様の勝ちではないが、
私の負けであることは理解している。
だが、聞け。
・・・今度の戦い・・・共に腑に落ちないことが多すぎはしまいか?」
ざわついていた会場が、急に冷たい水でも浴びせられたのかのごとく静まり返った。
誰もが心の底で、それを感じていた・・・。
しかし目の前の決戦に心奪われて、
そんな心のつかえ等に気を割いている余裕がなかったのである。
落ち着いて考えろ・・・、
あれはどこからだ?
謎のオリオン神群カオス?
結局のところ、ゼウスですらその存在は知らないし、
そんな人物がいる事などあり得ないということだった。
戦いの終わった今、嘘をつく必要はない。
それはタケル達にとっても・・・。
何故、アグレイアは殺されなければならなかった?
ただマントを奪うためだけにか?
死の神タナトスはどうやって敗れたのか?
何故、全てを見通すモイライにも、
その状況を測り知ることができなかったのだろうか?
そして・・・
デュオニュソス・・・!
あいつは何故、あのような奇怪な行動を・・・。
タケルの頭の奥で何かがよぎる・・・。
獣・・・黄金色の瞳・・・?
暗黒の帳・・・。
「タケル・・・!?」
耳元でサルペドンの声が響いた。
「んぁっ!?
・・・あ、悪い、サルペドン、何でもねーよ、
ちょっとデュオニュソスの事を・・・。」
タケルがデュオニュソスを誤って殺害したことが、
彼の心の中に重荷となっていることはサルペドンにも理解していた。
それに関し、今この場でタケルを労わる空気でもないので、
話を本題に戻すしかサルペドンに出来はしない。
「ゼウスよ、
その件に関しては我々も思うことがある。
だが、この地において、何が起きていたのか我らに知る術はない。
何か手がかりがあるなら教えて欲しい。」
「言ってもいいが・・・。」
ゼウスはそこで初めて身を乗り出した・・・。
その視線を左右に控えているスサのメンバーたちに視線を送る。
やがて、ゼウスはサルペドンに顔を戻して、重大な決断をサルペドンに迫ったのだ。
「ポセイドンよ、
ここにいる者達・・・
全員、命を失う覚悟はできているのか・・・!?」
一瞬の間があるが、元よりそのつもりで地上から降りてきたのだ。
答えを躊躇う理由はない。
「無論だ。」
「そうか・・・、
では今一度、未来を見通すモイラの予言を伝えよう・・・。
誤解を生まぬように、
できるだけ彼女の視た光景を限定的に伝えようと思う。
モイラは地上から降りてきた者の中で、
『スサ』という集団に属する者の未来を見た。
それは近い将来、
戦いが終わって生き残るのが、
たった一人であったという、状景だ。
それとともに我らオリオン神群も、私やハデスが大怪我を負い、
犠牲者も生むが、その後、怪我を完治させた後、
我らが・・・恐らくネレウスを伴ってだが、地上に降り立つ姿・・・、
ここまでを視たというのだ。」
マリアは予言の内容を知っている。
だが、それを知らないタケルや、壁際の隊員たちはにわかに騒ぎ出す。
「えっ!? ちょっと待て!
それって・・・外れたんだよな!?」
峻厳なる態度でゼウスはタケルを見つめるも、
直接、彼の質問に答える様子は無い。
もともと、自分が話そうと思っていた内容について、順を追って話すだけのようだ。
「我々もモイラの予言が外れるなどとは考えてもみなかった。
ハデスまでもが地上の人間に敗れるとは意外だったが、
その段階ですらも、予言の示す範囲を超えていたわけではなかったからな。
・・・だが、この私とポセイドンの対決が一つの終結を迎えた今、
そこに別の答えが用意されていることに気付いたのだ。」
予言などと言う物を、いきなり聞かされたタケルは問い返すこともできないが、
サルペドンのみ、冷静なまま会話を続ける。
「どういうことだ?
既に貴様は一つの結論を得ているようだな?」
「ふむ、正解かどうかは判らんが、確かに少なくとも回答は見出している。
・・・それは未だ、
モイラが予言した時は来ていない、ということだ。」
サルペドンやマリアに衝撃が走る。
タケルや周りのスサのメンバー達は、話についていくのでやっとのようだ。
マリアが反論に近い形でゼウスに話の詳細を求めようとすると、
神々の王ゼウスは、
「かったるい」とでも言いたげに背後のモイラを呼び寄せた。
ライトグレーの髪を垂らした盲目の女神、運命を見通すモイラの長姉、
再び、彼女の出番となる。
その高い感知能力は、マリアですら及ばぬ領域の持ち主だ。
「・・・地上の皆様、
運命の三女神の一人、モイライの長でございます。
ゼウス様のご説明に話が重なることもございますが、
私自身、予言が外れることなど夢にも思いませんでした。
しかし、ゼウス様とポセイドン様の戦いが終わった今も、
かつて視た光景と同じ物が、まるで真昼の出来事のように、
私の脳裏にまざまざと浮かび上がっています。
・・・いえ、同じどころかよりはっきりと・・・あ・・・。」
そこでモイラは口篭らざるを得なくなる。
これだけの不吉な予言を、
当事者が目の前にいるのに、どうして平気で述べることが出来ようか?
当のゼウスはそんなことはお構いなしに「その先を言ったらどうだ?」と促すが、
スサ側の一員として、サルペドンは、
これ以上、隊員達の不安を増大させるわけにはいかない、と考える。
次回、
ついに最後の敵の姿が明らかに。