緒沢タケル編16 神々の王ゼウス アテナ再び
ぶっくま、ありがとうございます!!
前回(熊襲討伐)のあらすじ
天叢雲剣
「ヤローがオレに触るな」
ヤマトタケルノミコト
「女装しちゃえばいいんですね、わかります。」
天叢雲剣
「・・・騙された!!」
なお、ヤマトタケルとこの物語の主人公タケル君に、繋がり・関係は全くありません。
「鎮まりなさい!」
ピュロス兵、スサ全ての者がその声に心を奪われる。
青い梟の瞳・・・、
白銀の槍と装飾の施された神々しい盾・・・!
高貴なるたたずまいと、誇り高き知性を兼ね備えたオリオン神群最高位にある女神・・・!
「ア、・・・貴方はアテナ様っ!?」
そう、
あのデメテルの村でタケルと矛を交えた女神が、今、この最終決戦の地に現れた!
スサやポセイドンに好意的だった彼女の出現に、タケルは顔をほころばせる・・・。
「ア、アテナさん!
ど、どうしてここに?
あっ、手首の怪我は大丈夫っ?」
女神アテナとは快い別れをしたはずだ。
タケルの友好的な態度は当然の反応のはずだったが、
・・・逆にアテナの反応はあまりにも冷淡と言えた。
「スサの総代、緒沢タケルよ、
勝負はこのアテナの正義の瞳で見届けた・・・。
そこで私はオリオン神群の一員としてそなたに問いかける。
我らオリオン神群に勝利したそなたらは、
この後、我らをどうするつもりでいるのか、
ここではっきりと言葉にしていただきたい。
あの二人の命も限界を迎えている、
さぁ、速やかに答えを出すが良い・・・!」
そうか、
客人として接した前回とは違うんだ。
ここは地上の者たちと、この地下世界に住む者たちとの決着の場・・・、
アテナはオリオン神群代表の立場でここに来ているのだ。
ならば・・・!
タケルは壊れた膝をかばうように、無理やりカラダを起こし不恰好に立ち上がる。
だが、その瞳はかつてアテナと相対した時のように、
一片の迷いも怖れもない。
「どうもこうもないさ、
戦いはこれで終わりだ!
オレ達は地上に帰る!
そしてあんた達地下世界に迷惑を与えないように、他の奴らにも伝えてみせる。
だからもう、地上に制裁とか報復とか・・・そんな考えはやめてくれ。
・・・以上だ!」
しばらくアテナはタケルの瞳を見続けた・・・。
やがて、彼の意思を確かめると、
にっこりと笑って、踵を返す。
アテナは力強く、サルペドンとゼウスの決闘の場を見下ろし、
まさに世界中に響き渡るような雄雄しい声をあげたのだ。
「我が名は純潔の女神アテナ!
この勝負確かに見届けた!
両軍、直ちに矛を収めよ!
勝負は・・・地上の者たち、ポセイドンとスサの者どもの勝利となった!!」
湧き上がるスサの一隊、
ピュロス兵やアンピメデスは、対照的にがっくりとうなだれ、その場にしゃがみこんでしまう。
しかしアテナはそれを許さない。
彼女は首をピュロス兵に向け、
そしてさらに、遠くそびえるゼウス神殿に向かって更なる声を張り巡らせる。
「・・・者ども!
何をしているのです!
負傷者の救出や、先ほどの地震で街がどうなったか、すべきことはたくさんあるでしょう!!
・・・そして虹の神イリスよ!
神殿に控えているはずです!
医の神アスクレーピオスを従えて、
ゼウス様と・・・ポセイドンの治療を始めなさい!!」
すると、遠くの神殿の辺りから、
すぐさま、二つの人影らしきものたちが降りてきた。
一人はさっき見た顔だ。
長い髪のイリスが悔しそうな表情を隠そうともせず、
もう一人、年老いた人間を引きずるように駆け下りてくる。
イリスの能力は地上に分類する言葉がない。
それは空中浮揚でも瞬間移動でもない。
比較的近い概念で「縮地法」とでもいうのだろうか。
数歩歩いただけで数十メートルの距離を移動できる。
問答無用に腕を掴まれた年老いた神は、生きた心地がしないかも・・・。
医療神アスクレーピオスは心臓をバクバクさせながら、
さっきまで死闘を繰り広げていた二人の前に連れて来られた。
「やれやれ、
この老人になんてぇ無茶をさせるんだ、
・・・おお、ポセイドン様、お久しぶりではないですか、
あなた様も随分、無茶な・・・」
と言っているところで、イリスが金切り声をあげた。
早くゼウスを救命せよ、とのことだろう。
髪もボサボサ、服装もくたびれて、
どちらかというと隠者のような姿のアスクレーピオスは、
頭を掻きながら、全身とんでもない姿に変わり果てたゼウスに手を当て、
治療を開始する。
心霊治療の強力版だろう。
ゼウスの皮膚が活発に新陳代謝を繰り返し始めた・・・!
どうやら、
あの・・・モイラの予言どおり、ゼウスは命を取り留めるようだ・・・。
「ほんじゃ、ポセイドン様、
あなたもここまで来れますかな?
わしのほうは、片手が空いてますので、
そちらであなたの治療を行いましょう。」
今のサルペドンにはそこまで歩くのも厳しいが、
さっきまでの死闘に比べたら、どうということはない。
見るほうが疲れるほど、たどたどしい足取りではあるが、
なんとか、サルペドンもアスクレーピオスの元まで辿り着いた。
「ふ、ひ、久しぶりだな、アスクレーピオス、
すまんが、世話になるぞ・・・。」
「全く、命がいくつあっても足りはしませんぞ?
まぁ、でもこれで肩の荷が降りたのではないですか、ポセイドン様?
もう、このピュロスに戻ってこられても宜しいので?」
そうか・・・、
これで全て終わったのだ・・・。
ならば、地上にいる理由は・・・なくなる、のか?
アスクレーピオスの質問に、サルペドンはすぐに答えられなかった。
いや、今は疲れた・・・。
この後、この医療神に、タケルのカラダも診て貰いたいが、
それが終われば、みんな・・・
元のあるべき所に帰るべきなのか・・・、
サルペドンも、今はそれ以上は考えられない。
だが、
彼らはまだ知らない。
スサが地底世界で戦っている間に、
地上では更なる惨劇が起こっていたことなど・・・。
次回首脳会談。
ゼウス
「そもそもオレが自爆しただけで、お前オレに勝ってないよな?」
サルペドン
「最強を自認してるくせにノコノコ地上のアイテムに釣られて、
オレの演技に一杯食わされた間抜けが何か言ってる。」
ゼウス
「ぐっ・・・。」
アテナ
「はい、ポセイドンの勝利。」
イリス
「アテナ様ほんとに中立!?」