緒沢タケル編16 神々の王ゼウス タケル動く
立っているのがやっとだったサルペドンに耐えられる筈もない。
またもサルペドンは片膝を落とし、
もう飛び回るゼウスを見上げることすら封じられる。
そしてなおも・・・。
雹の嵐がやや収まったかと思うのも束の間・・・、
今度は荒れ狂う風が、サルペドンの周辺に一つの渦を作り、
その空気の束は、次第に上空へと柱状の結界を形成してゆく!
竜巻だ!!
そしてサルペドンにそれを避けうる術はない!
あっという間にサルペドンの体は竜巻に飲み込まれ、
スサのメンバー達の視界からも消えてしまった・・・!
「サルペドーンッ!!」
竜巻の規模としてはそれほど大きくなかったかもしれない・・・。
体が万全であるのなら、
いまだ懸命に握り締めていた槍を地面に突き刺してでも、抵抗できただろうが・・・。
もう、彼にはその体力すらも残っていなかった・・・。
数秒後、
ボロ雑巾のようになったサルペドンの体は、
再び、残酷なまでに堅固なる大地に叩きつけられた・・・。
これ以上、
・・・立ち上がることすら不可能だろう・・・。
どんなに気力が残っていても・・・
いや、その気力すらどれほどあるのか、
既に彼の体は瀕死に近い状態だといっても過言ではない・・・。
一方、勝利を確信したゼウス、
油断こそしてはいないものの、
サルペドンに反撃する手段も体力も残っていないことは、
これだけの攻勢をかけた自分が一番よくわかっている。
上空に滞空したままなら、まだ先ほどの熱泉を浴びせられる危険はあるが、
細心の注意と、一定の高度を保っていれば、それすらも恐れるに値しない。
あとは、どうやって止めを刺すか・・・、
ただ一つの問題だけである。
とはいえ、ゼウスにも一抹の不安がないでもない。
それはやぶれかぶれになったサルペドンが、
その「大地を操る能力」を無制限に解放し、
スサの仲間もろとも、このピュロスを破壊する道を選択する・・・、
そんな自暴的な道を選択させることだけは防がねばならなかった。
100年前も、その危険を避ける必要があったために、
サルペドンに止めを刺すことが出来なかったのである。
・・・だが、もう同じ轍は二度と踏まない。
ここで全てのケリをつけよう・・・。
最大最強のサイキックを発揮する為に、多少の時間を要してしまうのは、
ゼウスの豪雷もポセイドンの地震も同様・・・。
しかし、攻撃の瞬間で勝負が決まるのは、やはりゼウスの雷が有利と言わざるを得ない。
そこでゼウスの最後の選択・・・。
今、これより、何の躊躇いもなく、
何の猶予も与えず、
遙かな上空よりの、最後の一撃を打ち落とす・・・。
それだけを決めれば良かったのだ。
「長かったな・・・、
今、楽にしてやるぞ・・・、
この私の最大の対立者よ・・・。」
そしてゼウスは再び黒雲にエネルギーを与え始める・・・。
もう、
周りで何の手立てもなく凍り付いているスサたちには、
二人の激突に介入ようとする考えすら浮かばない。
サルペドンの劣勢が確実となったときに、
酒田をはじめ、数人がこの遠距離からライフルによる攻撃を思いつくぐらいはできたのだが、
それを防ぐ為に、将軍アンピメデス達が控えていることにも気付いていた。
地震さえ起こらないなら、
多勢のピュロス兵たちが有利である。
この接近しすぎた集団では、混戦となったとしても、スサが不利なのは誰の目にも明らかだ。
ただ、
誰もが絶望している中で、
一人、タケルだけは諦めていなかった。
タケルは、ゼウスとサルペドンの、あまりにも次元の違いすぎる戦いに、
自らの無力さを痛感していたものの、
それでも必死に、サルペドンの勝利の為の手立てを産み出そうとしていたのである。
自分の体も満身創痍・・・。
サイキック能力は万全ではあるが、
雷撃もテレキネシスもゼウスの距離までは届かない。
逆に、何かしようと気付かれたら、
ゼウスはその強大な裁きの雷を、ここにいる仲間達に落とすことも厭わないだろう。
それでもタケルは、
この最後の瞬間、
一か八かの最後の賭けを決断した・・・。
オレはスサの総代・・・、
ここで何もしないわけにいくかっ!?
オレに・・・サルペドンに手が残されていない?
そうか・・・、だったら・・・。
「タケル殿! 何を!?」
クリシュナたちが気付くか気付かないかも、もはやどうでもいい。
タケルは周りの制止も入らないうちに、
腰に備えていた天叢雲剣を、振り上げた!
グゥッ!
右腕はあがらない。
利き腕でもない左腕でその柄を握り締める!
・・・それでも掌と、右肩に激痛が響く。
だが、躊躇している暇はない!!
力を込める一瞬の間を溜めた後、
タケルはその、最後の切り札を、
なんと戦場のサルペドンに向って投げ飛ばしたのだ!!
「サルペドン!!
こいつを使うんだーッ!!」
そんな「手」が有りなのか?
次回「最終局面」