緒沢タケル編16 神々の王ゼウス 及ばぬ牙
だが、
一足先に攻撃を終えていたのは、大地を操るサルペドン!!
いや・・・、既にゼウスがこのくぼ地に姿を現す前から、
彼は自らの能力を使い続けていたのである!!
「終わるのは貴様だ!! ゼウス!!」
まさにゼウスが破壊の雷を落とす直前!
ゼウスは自らの足元から、とてつもない大音響を耳にした!!
「ぬっ!?
ぬ・・・うぉぉぉおおおおおっ!?」
そしてゼウスの体と意識が高温の激流に飲み込まれた!
何が起きたのかもわからない!!
遠くから見守り続けるしか出来なかったタケル達ですら、
辛うじて、「何が起きたのか」と言う一点だけを理解するので精一杯、
誰も予測することの出来なかった突然の現象・・・、
それこそが、
サルペドンの切り札だという事を受け入れるまでには、暫くの時間を必要としたのである。
ゼウスのカラダが落下する・・・!
およそ10メートルの高さからだろうか・・・。
硬い大地に衝突する鈍い音ではなく、
・・・バシャァッという大量の液体を弾き飛ばしたような音・・・。
これは・・・。
マリアさんが体を硬直させたまま、この現象を言い当てる・・・。
「か・・・間欠泉・・・!?」
そう、
サルペドンの能力は大地を操る!
近くにマグマや溶岩流があることを承知しているサルペドンは、
このピュロスに足を踏み入れ、決戦の地の場所を知ったときから、
その大地の高温の影響を受けた熱泉の流れを、この地に誘導し続けていたのだ。
そしてこれこそがサルペドンの最大最後の切り札!!
攻撃力こそゼウスの「それ」に大きく劣るものの、
互いの位置取りにあって、ゼウスの足元から吹き上げる高温の鉱泉は、
ゼウスの予測や視界の、完全に外からの攻撃となるのである。
しかも、ここにある状態のように、
上空から墜落したゼウスには、その落下自体がさらなるダメージとなる。
あとは・・・止めを・・・!
サルペドンは、カラダを支える腕を震わせながら上体を起こした・・・。
必死に膝を立て、今一度立ち上がろうとする。
その視線の先には、少し離れたところにあるゼウスの巨体・・・。
現在の自分の武器は、懐の拳銃と手持ちの槍・・・。
この距離から弾丸を撃ち込んでもいいが、
先ほど、ゼウスに地上の武器は使わないと言ってしまった手前もあるせいか、
サルペドンは最後に手にしている槍に視線を一度落とした。
だが、その足取りは重い・・・。
膝をガクガク震わせながら一歩ずつ、歩いていくので精一杯だ。
でもこの距離からなら・・・。
いよいよサルペドンが、
うつ伏せに倒れているゼウスの手前5メートルほどまで来ると、
自らの今の筋力・体力での間合いに入ったことを確認する。
ここからこの槍を撃ち込めば全て終わる・・・!
100年・・・長かった・・・。
敵味方含め、多くの命が散っていった・・・。
だが感慨に浸っている余裕などは無い
サルペドンは、過去の出来事や思い出を飲み込みながら、
今、自らの手で最後の決着をつけようとする!
「サルペドンやりやがったぜ!!」
ここに来て、
ようやくスサ陣営も、サルペドンの逆転劇を完全に理解する事が出来た!
全員、互いに体を叩き合い、笑い顔を浮かべて、
サルペドンの勝利を信じて疑わない!
あと一撃、サルペドンが右腕を動かせばいい!
しかし・・・、現実は残酷だ・・・、
その時、ゼウスの体が再び空中に浮かび上がる!!
「なっ!?」
「ふ・・・フッフッフ、お、驚いたぞ、ポセイドン・・・!
そんな隠し玉を用意していたとはな・・・!
だが、自分や仲間を無意識にかばったのか?
この私を飲み込んだのが、溶岩流であったなら勝負は決していただろうが・・・、
たかだか熱泉程度の高温では、私の命を奪うまでには至らない!!」
ゼウスの顔は苦悶の表情を時折浮かべつつも、いまだ余裕の笑みは残したまま・・・!
身体じゅうの皮膚は水ぶくれや炎症を起こし、数箇所は骨折も起こしているのは間違いない。
自力で普通に立つには難儀するかもしれないが、
空中浮揚能力を持つゼウスに、この程度のダメージは何程のものだろう、
いまだ戦闘能力には微塵の影響も与えていない。
そしてそれは一つのことを意味している。
もう、サルペドンに打つ手はない・・・!
「くっ、意識を奪うまでには至らなかったか・・・!
おのれっ、おのれゼウスゥッ!!」
勿論、この後も超高熱の間欠泉を噴出させることは可能だが、
二度とゼウスがそれを食らうことはないだろう。
その証拠に、ゼウスは静止せず、再び大空を滑空し始める。
そして、天空の支配者ゼウスも更なる能力を・・・!
サルペドンの周辺の風が巻き上げ始めた。
砂利や小石が無数に一つの流れを持って勢いよく舞い上がっていく・・・!
「こ・・・この風はさっきまでとは違う・・・。」
「ふ、フフッフッフ、そ、そうだ!
私も貴様と同様だ!
天空の事象、気象!
それら全てを操るのが私の能力!!
出し惜しみする必要はもうない!!
今の貴様にこれが耐えられるかぁっ!!」
タケルたち、周辺の者の顔や体にも冷たい雨が降り始める・・・。
それはゼウスの標的の外であるからこそ、その程度なのだが、
いまや、戦場の真っ只中にあるサルペドンには、
もっと硬く激しい物が彼の体を襲い始めた・・・!
サルペドンの足元周辺に叩きつけるような無数の礫・・・!
いや、雹だ!!
直径3センチから5センチは有りそうなほどの巨大な雹が、
まさしく彼の体を抉るかのように、
頭蓋、顔面、そして四肢や背中、無差別に浴びせられてゆく!
次回、サルペドン無惨。
しかし。