緒沢タケル編16 神々の王ゼウス 最後の牙
すいません、ちょっと短めです。
その言葉はタケルたちのいるところまでも聞こえてきた。
戦っている二人は、まるで闘技場という舞台の上で演目を繰り広げているかのごとく、
力強い言葉を発しているのだ。
・・・いや、それは正しくないか、
もう、ゼウスの独り舞台といってもいいだろう・・・。
サルペドンの弱々しい言葉など、
タケルたちのところまで聞こえてくるはずもない。
だが遠目にもわかる。
サルペドンが近代武器に頼ったところで、勝ち目などある筈はない。
既にあいつの心は折れてしまったのではないか?
当のサルペドンのカラダは、まだ時折痙攣している・・・。
しかし、たった一つの眼光を飛び回るゼウスに向けて照準を合わせている。
本当に拳銃で反撃を試みるつもりなのか!?
・・・いいや、違う。
この場にあってサルペドンが狙っているもの・・・。
それは確かにゼウスの油断と隙だ。
だが、サルペドンの切り札は拳銃などに頼るものではない。
「・・・お笑いだ、ゼウス・・・!」
「うん? どうした?
何を言いたいのだ、ポセイドン?」
「お前を相手にするのに、わざわざ私が地上の武器に頼ると思うかっ!?」
「ほう?
ならばどうしようと言うのだ?
遠慮はいらんのだぞ、
さっさと奥の手を見せるが良い。」
「ならば、ゼウスよ・・・
私の攻撃を待つ必要はない!
お互い同時に攻撃を仕掛けては見ないか?
それで本当に我ら二人の真の実力が試されるだろう・・・!」
明らかにサルペドンの言葉は挑発だ。
賢明なる者ならその言葉に乗る行為は愚かしいとさえ言える。
だが・・・
仮にもゼウスはオリオン神群の王!
真正面から挑まれた戦いから逃げることは、その誇りを失うことと考えたのだ。
「いいだろう!
見せてみよ、ポセイドン!
貴様の最後の牙をな!」
既にゼウスは万全の策略を練っていた。
サルペドンには避雷針の役目を果たす一本の槍が残っている。
自分が雷撃を一度食らわすだけなら、サルペドンは耐えうるかもしれない。
であるならば、一撃目で槍を粉々に吹き飛ばし、
超強大なるサイキック能力で、ほぼ連続の雷の矢を落とす!
そのエネルギー・連射速度、いずれもタケルの天叢雲剣などとは、
比べ物にならないというのは間違いない事実である。
そして・・・そのゼウスは今一度距離を取る。
サルペドンの頭上近くなら自分が雷撃を浴びる危険がある。
故にある程度、離れた所から攻撃すればいい。
そしてそれは同時に、
サルペドンが槍を投げようが、拳銃で打ち落とそうと試みるか、
どちらにしてもゼウスにとって、リスクを低減させる行為でもある。
ゼウスに危険が残っているとすれば、それはほぼ静止する状態になってしまうという事・・・。
サルペドンからは攻撃が届きにくい位置とはいえ、
狙いをつけやすい位置にあることは違いない。
それは勿論、「互いに」同じ状況である。
いかにゼウスといえども、大空を滑空しながら狙った位置に雷撃を落とすのは至難の技だ。
サルペドンの狙いはその一点。
まさしく条件は同じ。
圧倒的不利なはずの自分の能力で何が出来るのか、
いよいよゼウスが、再び悲劇的な超高密度のエネルギーを集約し始めたとき、
サルペドンは独り言のように・・・、
小さな声でゼウスに向ってつぶやいた。
「・・・ゼウス、貴様の無敵の能力にも弱点はある・・・、
それはあまりにも巨大な破壊力の為、
雷撃を落とすまでにわずかな時間が生じる、という事だ・・・。
そして貴様も忘れているぞ!
この私が『大地の支配者』であるということをな!!」
その間、既にゼウスは両腕を高々とかざし、再びどす黒い積乱雲の中に鋭い紫電が煌き始めた!
まさしくサルペドンが看破したように、その時間2~3秒!!
「終わりだ! ポセイドン!!」
次回、サルペドンの切り札はゼウスに届くのか。