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第17話

 

・・・そこは何もない白い空間・・・、

右も左もない・・・、

床はあるが天井もない。

ただ、メリーのヒールの音だけが、

コンサートホールの中にでもいるかのごとく、コツコツ響く。


以前と同じように、

いくつかの扉の前には、

自分がかつて見知った人間の、

出来損ないのようなものが手招きしているままだ。

一際大きな扉には、

赤いローブを着た男が優しそうに話しかけてくる。

ピアノの曲も相変わらずだ。

 あれ?

 いま、誰がピアノを弾いているのだろう?


 「エミリィィィ、

 もうおまえに苦しい思いはさせないよぉぉ・・・、

 こっちへ来るんだぁぁ・・・あははぁ~!

 わたしと二人っきりの永遠なる世界ぃぃ!

 さぁぁぁぁ、こっちへおいでぇぇ!」


メリーは吸い込まれるように、

赤いローブの男の下へ歩き始めていた。


 「そうだよぉぉ・・・

 その大きな扉を開けばぁ、

 おまえは永遠にわたしと一つになぁれぇるぅ~!」

 

ローブの男も、

他の者達同様、カラダを動かすのは一定の動作だけだ・・・。

彼の場合は、

立ち位置を変えずにクネクネとカラダを揺らしているだけ、

あくまでメリーが、

自分の意思で扉を開けるのを待っている。

メリーの足音がやみ、

大きな扉の取っ手に手をかけた瞬間、

赤い魔法使いバァルは、

顔が裂けるのではないかと思われる程の狂喜の笑みを浮かべた・・・。


 「さぁぁぁ!

 開けるんだぁ、その扉をおおおお!!」


 めりー・・・


人形の動きが止まった・・・。

彼女の眼球がグルッと反応する・・・。


 メリーさーん・・・


小さな女の子の声だ・・・。

エミリーと呼ばれていた頃の自分と、

同じぐらいの年頃だろうか・・・?

メリーはドアの取っ手から手を離し、

クルッと後ろを振り返る。


 「エミリィィ! どうしたんだぁ!?

 おまえの行くところはこっちだろぉぉ!?」


 メリーさーん! 

 メリー! 赤い手袋はどうしたぁ?

 メリーちゃーん、遊びましょぉー!


振り返ったメリーの視界に、

先程まではなかったはずの扉が見える。

・・・一際大きくて・・・

何故か暖かい感じがする・・・。

 

 

彼女はゆっくりと歩き始めた・・・、

懐かしい声のするほうへ、

優しい声のするほうへ・・・、

賑やかで楽しそうな声がするほうへ・・・

彼女は歩き始めた・・・!


 「エミリィィィ! どこへ行くんだぁ!?

 そっちじゃないいぃ! やめるんだぁ!!

 行くなぁぁ! 行かないでおくれぇ!

 わたしは・・・

 わたしをまた一人ぼっちにするのかぁぁぁ!?」


もう彼女にこの男の声は聞こえない。

自分の名前だってどうだっていい・・・、

楽しそうな声がするほうには、

命を狩り取る仕事を与えてくれたお爺さんの声もあるが、

そんな事は気にしてもいないかのような、

優しい声で呼んでくれている。

 ニコラお爺さん!

 そしてこの声は、前に手袋をくれた人だ・・・

 相変わらず温かそうな人だ、

 ・・・あんな人がわたしのパパだったら・・・。

 この声は誰だろう?

 知らないけど綺麗で楽しそうな女の人・・・。

 ああ、やっぱりあの女の子だ!

 時々、夢の中で遊んでくれた女の子・・・。

 

 

みんなが自分を呼んでくれている。


・・・もはやメリーは迷う事はなかった。

そのまま、

大きな扉までよどみなく歩いていき、

強い意志でしっかりと扉のノブに手をかける。


 「エミリィィィィィィィ!

 やめろぉぉぉぉぉぉっ!!」


    カチャ・・・・

 ア ア ア ア ア ア ア ア ァ ァ ・・・・・・ !


・・・メリーの開けた扉からは強烈な光の束が流れ込む!

その光の中に、

メリーのカラダは見る見る吸い込まれていく。

もはやこの空間は何の意味もない・・・。

赤いローブの男の映像は、

砂の像が風で吹き飛ばされるようにどんどん崩れ去っていく。

真っ白だった空間はどんどん暗くなり、

メリーの開けた扉が閉じられると、

彼らが存在した空間そのものが細かく分解され、

最後には、

一切の虚無へと消滅してしまった・・・。

 




再び鍾乳洞の中・・・。

 「・・・メリーの様子がおかしい!」 

レッスルの声が洞窟内に響く。

メリーはもはや完全にその動きを停止していた・・・。

カラダをゆらゆら動かす事もなく、

ギョロギョロ瞳を動かす事もない・・・。

おかしな表現かもしれないが、

まるで本物の人形のようだ。

レッスルは足を引きずりメリーの元へ向かう・・・。


義純達は警戒を解いてはいない・・・、

人形がピクリとでも動けば、

すぐにでも戦闘状態にスイッチできる。

全員がその成り行きを固唾を呑んで見守っていた。


レッスルはメリーの冷たいカラダに触る・・・。

元々恐怖には無縁の男だ。

しばらくメリーのカラダを観察して、

彼はおもむろに振り返った。

 「皆のもの、ご苦労じゃ!

 メリーはバァルの呪縛から解放されておる!

 今は、気を失って寝てるだけじゃ!!」

 

その言葉で、

伊藤はへなへなと冷たい地面にしゃがみこんだ。

マーゴは飛び上がって髪を振り乱す・・・

もう髪型はどうでもいいようだ。

麻衣は・・・

実はあんまり事態を飲み込んでいないままなのだが、

何だかうまくいった事はわかったようだ、

いまや、

視線の高さが、自分より低くなった父親の顔を見てにっこり笑う。

三人の騎士達は半信半疑のままだ・・・無理もない。


だが、

この時点で喜んではいけなかったのである。

邪悪なる者はいまだ健在なままなのだ・・・。



 きぃさぁまあらぁぁぁあ!!

 許さぁぁん! 許さんぞぉぉぉ!!

 お前たちにぃ

 わたしの幸せをぶち壊す権利があるのかぁぁぁああ!?

 ここでぇ・・・!

 全員殺してやるうぅぅぅっ!!


その時、麻衣が何かの気配に反応した。

 「・・・いっぱい、人がいる!?」

 「なんじゃとぉ!?」

 

全員再び気を張る・・・。

洞窟の奥から、

確かに何かがやってきている・・・。

衣擦れの音・・・、

無機的な足音、それも大量だ・・・。

・・・こんな、

こんな事が有り得るのだろうか・・・。

一同が目にしたのは、

身の毛もよだつような恐ろしい光景だった・・・。


・・・人形・・・。

一体や二体ではない、

おおよそ二十体を越える様々な人形が、

彼らに向かって行進してきたのだ!

着飾ったデパートのマネキン、

十二単の黒髪の人形、

小さいものではリカちゃん人形のバリエーション、

アニメの等身大のキャラまでいる。

全ての人形が、

侵入者の彼らに向かって、

作り物の表情で両腕を伸ばして向かってくる・・・。


 「な、なんだぁこれはぁ!?」

 「み・・・みんな女の人が『中』に入ってる!

 ・・・恐い!」

麻衣の言葉に最も驚愕したのがレッスルだ。

 「ば・・・馬鹿な!

 奴はこの人形達に、殺した者達の魂を封じ込めおったというのかっ!?」

 「なっ! レッスルおじ様!

 なぁに!?

 メリーもどきがこんなにいるってことぉ!?」

 

 「いーや、見るがいい!

 所詮はただの人形がベースじゃ!

 メリーのようにすばやく動く事もできなければ、

 自らの判断で動く事もできん!

 再生機能すらないはずじゃ、

 叩き壊して『器』自体を破壊すれば、

 魂は解放されるじゃろう!!」


マーゴのテンションがマックスに高まる・・・。

空気を読むのも大得意なのだ!

 「オッケー・・・!

 なら騎士団の戦士達ぃ!

 愚者の騎士ヒウラァ!

 豪剣の騎士ライラック!

 完璧なるガラハッド!

 たーたーきーのめしちゃいなさーいッ!!」


 「(マーゴ、何ばらしてんだよ!?) 分ったよ! お嬢様!」 

義純が前に出る。

 「もう、遠慮しなくていいんだな!」 

長身のライラックには長槍が良く似合う。

 「・・・仰せのままに!」 

若きガラハッドはまだ余力十分だ!


こうとなれば騎士団の戦士三人に敵はいない。

だが、

どこまで破壊すればいいのかは、

試行錯誤を繰り返す必要があった。

何しろ人形達は、倒れても倒れても起き上がってくるのだ。

戦いは義純達が優勢のままだが、

一向に勝負がつかない。

あまりに数の多い人形達は、

そのうち義純達を通り越し、伊藤たちにも群がり始めた。

伊藤は必死になって、

動きの止まったメリーを抱えて人形達から遠ざかろうとする。


・・・だが。

 

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