緒沢タケル編15 混沌たるカオス 反撃の望み
地下室・・・いや、それは神殿全体に響きそうなほどのタケルの叫び声・・・。
タケルの体重は、
後ろの組み木が支えているので倒れることはないが、
今やタケルは片足でカラダを震わすことしか出来ない。
「ち・・・ちく しょうぉ・・・!」
いったいどうすればいい?
手も足もでないとはまさにこの事。
仮にこの場から逃れたところで、この手足じゃあ、もう最前線で戦うことは不可能だ。
ここまでしても、カオスはタケルを「殺さない」というのだろうか?
「も・・・もう十分だろ・・・っ!
これじゃあしばらく戦うこともできねぇ・・・、
一体なんなんだ、お前・・・?
仲間を殺された恨みだってんなら、オレをいたぶるのはわかる・・・。
でもそれならどうして殺さない、なんて言うんだっ!」
だが、カオスの態度は変わらない。
不思議そうな顔して、タケルの胸元に先ほどのナイフを突き立てた。
「ゥアッ!]
「うーん、だからさぁ、
オレもよくわかんないんだよね?
これまでの君の活躍は聞いてるからさ、
キミがすごーく強いのは知ってるんだよ。
でも、所詮、オレの敵じゃあないってこれで証明されたろ?
キミを追い込んで何か、面白いものでも見れるのかなぁ?
まだ隠し玉でもあるのかい?
あるんなら早く出さないと・・・。
どうしよう?
このまま関節一本ずつ砕いていこうか?
それとも足首から徐々に肉を切り裂いてみる?」
全ての反撃手段を失われ、タケルの心は折れかけていた・・・。
この上、さらなる苦痛が待ち構えているのなら、
もはや、降伏の許しを請うても無理はない・・・
実際その寸前までタケルは追い込まれていたのである。
だが、カオスの言葉にタケルは最後の望みを見出した・・・。
(面白いもの? 隠し玉?
後オレには・・・あっ?)
そうだ・・・!
まだ一つだけ試していないものがある・・・。
それはヘファイストス戦でほんの一、二度、発現した新たな能力・・・。
もっともその後、どんなに試してみても、
実戦で使えるだけの力は起こりえなかった・・・。
だがハデス戦後・・・、
美香の魂との一件の後から試してみてはいない。
現実に天叢雲剣の性能も上昇しているというならば、
理論上、精神力そのものが増大しているはずなのだ・・・!
その間カオスは、床に落ちているもう一本の槍を空中に浮き上がらせた。
「ん~、でもやっぱり、もっと残酷にいこうかなぁ~?
あんまり焦らしても可哀想だからさ、
今度はブスっと一息にね、
・・・おりゃっ!」
槍はそのカオスの合図と共に、タケルの胸元めがけて飛んきた!
鎖骨の辺りか!
・・・よせっ!
来るなっ!
それ以上、近づくなっ!!
止まりやがれぇっ!!
・・・止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれーーーーーーっ!!
ピタァッ !
「・・・う そ ぉ ・・・。」
それまで、ウキウキ気分でタケルをなぶっていたカオスの口から、思わず反射的な声が漏れた・・・。
そこに信じ難い光景が広がっているのだ。
今、屠殺される寸前の、怯えていただけのエモノの目が、再び意志の光を取り戻している。
そして、何よりも・・・、
今にもタケルの胸に突き刺さるはずだった槍が、
空中で・・・
まるで時間が止まったかのように、タケルの胸元寸前で静止しているのである。
カオスの能力が失ったのならば、床に落ちるはずだ。
それが空中で止まり続けているということは・・・。
「お・・・おいおいっ?
こ、これ、まさかお前がっ・・・?
ふ、・・・フハ、フハハハハハハッ!
そうかよ、そういうことかよ!?
なるほど!
だから『お前の力を試せ』って!
そういうことだったのかぁッ!?」
途端にカオスは首を傾けて大笑い始めた。
タケルは今も槍を押し返そうと必死になっている。
その為か、徐々に槍は向きを変えながら後ろに下がり始めた。
よし! このまま・・・!
「だがな!」
突然、カオスの眼光が煌く!
そしてそれと共に再び槍の先端がタケルのカラダに!
「・・・大したもんだ、本当に大したもんだ。
だがな、力に目覚め始めたお前と・・・、
これまで10数年間鍛え続けてきたオレのパワーとじゃ地力が違うんだよっ!!
せいぜい、抵抗してみろ!
思い知らせてやるっ!!」
すぐに力比べが始まった!
互いの精神力・・・!
観念動力の激突だ!!
それはあたかも精神波動の波が、
槍という物体の一点にのみ集中してせめぎあう姿!
そして次第に力の均衡は破れていく・・・。
槍の穂先はみるみるタケルの鎖骨に近づいていく!
「うおおおおおお~~~っ!!」
どんなに四肢に力を張り巡らせても、
どんなに槍に神経を集中しても、
その凶器はタケルの言うことを聞かない。
今や、力の奔流に流され続ける刃先は、
震えながらタケルの衣服を切り裂き・・・、
さらにその皮膚を貫き始めた!!
「う・・・うぁあ~ああっ!!」
「当たり前だッ!
勝てると思ったのか!?
このオレに!
通用するとでも考えたのか!?
甘いんだよっ!!
見ろっ!
今やお前の鎖骨を切断し、肩甲骨をもぶち破るぞっ!!」
いよいよ戦闘も佳境。