緒沢タケル編15 混沌たるカオス その名は混沌
考えれば考えるだけ疑問だらけだ。
いろいろ聞き出したいが、まずはさっきの質問から・・・。
その男、カオスはタケルへの返答をもったいぶっている様に見えたが、
もったいぶっているというよりも、
自分でも的確な表現が見当たらないのか、そのうち自嘲気味に笑い始めた。
「アハハ、何の神様かって?
うーん、そうだなぁ・・・?
一言で言うのは難しいんだけど・・・単語の意味はわかる?
『混沌』って意味なんだけどさぁ。」
わかるかああああぁっ!?
余計意味不明である。
さすがに直球で「何の能力を持っているのか」とまでは聞きづらいし、
手順として次の質問は・・・。
「あ、ああ、
じゃあ、どうしてオリオン神群のあんたが、
『こんな場所』に一人でいたんだ・・・?」
タケルは努めて、友好的な口調は変えないようにしていたが、
彼の心中では警戒心が高まっている。
態勢にも変化は見せないが、いつでも天叢雲剣を抜けるように・・・。
一方、カオスのほうには警戒心などまるで見られない。
ぶら下がっている足をだらしなく交互に揺するだけだ。
「なんでこんな所に一人でいたかって?
それは簡単、キミを待っていたんだよ・・・。」
タケルの緊張度は一気に上昇・・・!
足を半歩踏み出し、前傾姿勢となる。
それを見てカオスは笑い始めた。
「アッハッハッハ、そう怯えるなよ、
せっかく二人きりになれたんだ、
もう少し、楽しく喋ろうぜ?」
どうしてここまでこの男は余裕があるんだ?
オリオン神群の同胞が、軒並みタケルに撃破されている状況を知らないわけではないだろうに。
「オレを待っていたって?
何の目的で!?
じゃあ、上の廊下からオレが落っこちたのは偶然じゃなく、お前のせいか!?」
「うーん、どれから答えようかなぁ?
まずは、そう・・・、
キミを待っていた。
地上の人間でありながら、超特異能力を持つオリオン神群を打ち破るキミに興味がある。
目的の一つはそれだ。」
実際、上から落っことされた事への疑問はこの際どうでもいい。
すぐさまタケルは新たな疑問を・・・。
「何故二人っきりになる必要がある?
これはこの神殿の主、アグレイアって人も同意の上か!?」
「はぁ? バカだなぁ?
他の邪魔が入らないようにする為に決まっているじゃないか、
アグレイア?
あんな婆さん、知ったことかよ、
それよりさ・・・
キミばっかり質問してズルイなぁ?
オレにも質問させてくれよ、
せっかく、キミが怪我しないように、安全に地面に下ろしてあげたんだ、
お互い、仲良くやろうぜ。」
やっぱり、怪我せずに落ちたのはコイツが何かしたからか、
だがどうやって?
いや、まずはこいつの質問とやらを・・・。
「聞きたいことがあるなら言ってみろよ・・・、
オレにわかることで良けりゃ答えてやるよ。」
途端にカオスの表情が明るくなった。
現金な奴だ。
「そうこなくっちゃな!
・・・それでタケル君、キミは地上で山の神トモロス、
そしてこの世界に降りてきてからは、
シルヴァヌス、デュオニュソス、ヘファイストスにクラトス、ハデス・・・、
ここいら辺を軒並み叩き伏せてきたんだよね?」
「・・・デュオニュソスを倒すつもりなんかなかったけどな・・・。」
「ああ、彼ね・・・。
そうだね、どっちかっていうと、彼に打ちのめされたのはキミのほうかな?
いい仕事をしたようだね、彼は。」
タケルの神経が逆立つ・・・。
余裕顔で指摘されたことが癪に障る。
というより・・・今の言葉は何だ?
あの村の出来事は、やはりデュオニュソスの計略だったのか!?
それともう一つ・・・、
いま、この男、ハデスを呼び捨てにした・・・?
オリオン神群ナンバー2であるはずのハデスを?
タケルの疑問を口にする前に、カオスの更なる質問が。
「それでさぁ、
キミに聞きたいのは・・・、
『死の神』タナトス・・・あいつをどうやって倒したんだい?
他にも戦神アレスも殺されたが、アレスをやったのはポセイドンだとわかっている。
だが、タナトスをやったのはポセイドンでは有り得ない。
タナトスの死まで、彼と戦っていたのはキミのはずだ。
まず、そこが知りたいのさ。」
「タナトス・・・か、
オレだってわからねーよ、
オレは生命力とやらを吸い取られて、意識を失っていたんだ。
気が付いたら、仲間に介抱されていた。
悪いがその質問には答えられねーよ。」
そこでカオスは表情を変えた。
何か気になる部分でもあったのだろうか?
「生命力を吸い取られたって?
・・・おかしいな?
それでどうしてキミはこんなにピンピンしているんだい?
命を失うまでの量ではなかったにせよ、
意識を失うほどの生命力を盗られて、キミはすぐに次のヘファイストスと普通に戦っている。
どうやって失った生命力を回復させた?」
「知るかよ!?
オレの回復力が並じゃねーってことだろ?
それ以上、答えようがねーよ。」
しばらくカオスは無言だったが、
そのうち、「やっ」と、腰掛けていた貯蔵樽から跳び下りた・・・。
「ふーん、そうかい・・・、
聞きたいことはそれ以外も色々あるんだけど、
・・・その様子じゃ何も答えられないようだなぁ、
じゃあ仕方がない、
キミのカラダに直接聞くとしよう・・・。」
カオスのプラチナブロンドの髪が煌く・・・。
やはり戦いが目的か・・・。
タケルは天叢雲剣に手を伸ばした・・・。
次回、サルペドン達はどうなったか・・・。