表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
605/676

緒沢タケル編14 冥府の王ハデス 崩れ落ちる死者の王

ハデス戦決着。

 

もはやハデスには、この危機を脱する抜け道を探すどころか、

目の前の現実を理解も受け入れることすらも不可能だ。

 「きっ! 貴様っ!

 い、いや、貴様ら何者だっ!?

 こんなっ、こんなっ!?」


 「知るかよ・・・、

 だがハデス! 一つだけ礼を言っておく・・・。

 例え現実じゃなかったとしても・・・

 姉貴に会わせてくれた・・・。

 だから、確実にお前を殺す方法ではなく、

 この位置から天叢雲剣の電撃を食らわせてやるぜっ!

 今のオレも、どこまでの威力になってるのか、わからない・・・。

 生き延びられるかどうか、せいぜい自分の悪運に賭けてみるんだなっ!?」


タケルの言葉を待つまでもなくハデスの体が透明になっていく。

タケルへ攻撃するのか?

それとも逃げるのか?

前後左右どちらの方角へ動くのか、惑わせようと?

 ・・・馬鹿馬鹿しぃっ!

石くれの表面をわずかに舞う砂塵の変化で、

ハデスがどう動いたか、タケルの目には完全にその行方を押さえていたっ!

 

 

ハデスの跳んだ方角に向けて、

タケル最大の雷撃の津波が襲い掛かる!!

 「うおおおおおおおおっ!?」

自分の命が懸かってるのだ、

ハデスも必死の抵抗!

最後の手槍を自らの前方に投げ出し、雷の避雷針にっ!

瞬きする間もなく雷の激流は、

この場にたった一つしかない金属物めがけて集中するも、

タケルの繰り出した雷撃は、

その槍の許容量を遥かに上回るエネルギーだったのだ・・・。

槍を食い尽くしただけでは満足することのない電撃は、

生き物のように更なる供物を求めて、本来向かうべきはずだった方角に・・・!


光の速さで空気を切り裂く雷撃!

ハデスのそれ以上の抵抗も、行動も、

・・・思考すらも許しはしない!


あっという間にハデスの透過能力は解除され、

無数の紫電がハデスのカラダを貪り尽くしてゆくっ!

 「グババババッバババアババッ!!」

 


スサのメンバーたち一同、ここまで誰も言葉一つ発することはできなかった・・・。

ようやく・・・彼らが現状を認識できた時、

それは、

・・・冥界の王ハデスが大地に崩れ落ちると同時であり、

そこで初めて、凍りついていた時間が再び時を刻み始めたのだ。


 「タ・・・タケル・・・勝ちやがった?」

酒田のおっさんが半信半疑で口を綻ばす。

無理もない。

さっきまで、あまりにも常軌を逸した光景が繰り広げられていたのだから・・・。

当のタケルは、

一歩、そしてまた一歩、岩場を登り、

眼下のハデスの姿を確認する。

 ・・・これも酷いな・・・、

 先程のクラトスに負けず劣らずボロボロだ・・・。

 だが、避雷針の効果はあったか、まだ・・・

 生きてはいるのか・・・。

 

 

どの道、戦闘不能には違いない。

戦闘不能に陥った相手に対し、わざわざ止めを刺す事もないだろう。

そのことを自分で認識すると、

タケルは振り返って、仲間たちに向けて腕をあげた・・・。

 勝どきだ!

何か・・・

自分の中でまた何かが変わった・・・。

いや、変わったという表現は適当でないかもしれない。


帰ってきたのだ、

美香姉ぇが・・・。

子供のころから追いかけていたものが。

性別が違うとは言え、長い間、自分なりに追い求めていた理想の姿、

どんなに努力しても追いつける事などないと諦めていた目標・・・、

それが今、

自分の心の中のどこかで羽を休めている・・・。

心から安心して眠っている・・・。

そんな感覚がタケルの心の中で湧き上がっていたのだ・・・。

 


 

天叢雲剣で雷を起こす事ができる?

ヘファイストス戦で手に入れた超常能力?

そんなものはどうでもいい。

この旅で取り戻したものの価値のほうが遥かに大きい・・・。


そしてタケルは駆けつけた仲間たちに揉みくちゃにされた。

みんな、今起きたことを明確に理解しているものなど誰もいないが、

スサの正統後継者たる資質の一端を垣間見て、

みんながみんな、タケルの本当の力を完全に認めたのだ。

もう、誰も、タケルを世間知らずのお坊ちゃんなどと言う者はいないだろう。




ただ・・・マリアは一人、そこを動けずにいた。

彼女も間違いなく感動している。

美香とタケルの間で起きた一つの奇跡・・・。

その「事実」と、

これまで「スサ」や「タケル」に抱いていた微かな「怖れ」と「疑問」・・・。

それらが織り成す「連立方程式」の解が見出せないままでいる。

いや・・・、

今は喜ぶべきなのだ・・・。

考える時間など、これからいくらでもある筈なのだから・・・。

 

 

一方、

相変わらず、冷静な思考を保っているサルペドンは、

タケルの勝利への祝福などは他人に任せ、

自らにしかできない仕事に専念する。

このメタパの町の兵士たちに、

ハデスの救護と、ヘファイストス及びネレウスの解放を指示したのだ。

もちろん、ハデスもクラトスも敗れた今、

兵士たちに、かつての権力者ポセイドンの言葉に逆らえるはずもない。

ヘファイストスも「元気」とは決して言えないが、

多少なりとも環境のいい、ベッドのあるところに移されるようだ。


解放されたネレウスなどは、老人のクセして未だ活発だ。

今まで捉われていた自覚がないのだろうか?

サルペドンと再会するなり、何事もなかったかのように明るい挨拶を交わしている。

当然、呆れるサルペドン。

 「・・・その様子だと、こうなることもわかっていたのか?」


サルペドンの本気の問いに、ネレウスは笑いながら首を横に振る。

 「いえいえ、私は予言者ではないと申しましたでしょう、

 私は敬虔なるポセーダーオンの信奉者、

 私は信じていた・・・、

 ただそれだけでございます・・・。」

 

 

さて・・・、

このタケルの快挙を苦々しく思う者が一人、ハデス神殿の崖の上から見下ろしていた。

読者の皆さんも忘れてはないだろうが、

少年神ヘルメスである。

いよいよ、最後の防波堤とも言うべき、ハデスが敗れたことをゼウスに伝えるため、

彼は舌を鳴らしながら、王都ピュロスへ向けて跳び立った・・・。




だが・・・

今までの戦いを見守る者が、

実はもう一人、タケルたちのすぐ傍に存在していた・・・。

プラチナブロンドの髪を有する彼は、戦場を見下ろせる木立の中に一人潜み、

愉しげにタケルの一挙手一投足を観察していたのである。

そして、

その男もヘルメスに続き、

スサが次に向かう光の女神アグレイアの町に向けて、

誰にも悟られぬように消え去ったのだ・・・。

 





ハデス編も終了です。

これでタケルと「オリオン神群」の戦いは全て終わりました。


次回は新たなる街、光の女神アグレイアが治めるテメノスです。

そして彼の地こそ、タケルの地底世界最後の戦いの場となるでしょう。

え? 何か矛盾している?

気のせいでしょう。


そして章の最後には懐かしの面々が・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRoid版メリーさん幻夢バージョン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ