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緒沢タケル編14 冥府の王ハデス 予想

 

それでも必死にタケルは美香に食い下がる。

例え幻だろうと、

「それ」が本物の美香でなかったにしても、

自分は証明せねばならない!

自分がここまで成長したことを、美香に安心して眠りに就いてもらいために・・・!

もう、美香姉ぇに心配など決してかけない事を示す為に・・・!!


誰が気づいただろう?

タケルの心に渦巻くネガティブな感情の中から、

今や、「恐怖」や「贖罪」といったものが消え始めていたことを・・・。

確かにタケルが美香を「祓う」事などできはしない。

消し去ることなどできはしない。


それでも、やはりサルペドンが言ったとおり、

先の村で、女神アテナと戦ったこと・・・、

白昼夢だったのかもしれないが、女神デメテルの腕の中で見た幻・・・。

それらがタケルの心の中に、一つの決意を生む土壌を創り上げていたのだろうか・・・。


 タケル・・・

 


美香の叩きつけるような攻撃に変化はない。

だが、

それまで一本調子とも思われた打撃に、

緩急の変化や巧みなフェイントまでも組み入れられてゆく。

直接、剣を交えている者でなければ分かるまい。

しかし、そのことはある一つの示唆をタケルに与えていた。


 ・・・亡霊?

 幻? ハデスに操られている魂?

 美香姉ぇの意識は・・・ない?


 本当なのか?

 これほど高度なテクニックを繰り出しているのに意識がない?

 美香・・・姉ぇ?




 「・・・ぅあ・・・。」

タケルの口から声が漏れた。

自分でも何か意図するものがあったわけではない。

自然に口から漏れたのである。

それは、泣き言でも悲鳴でもない・・・。

一つの爆発しそうな感情の一端・・・。

そして・・・

 


 

 「ぅぁあああああ あ あ あああっ!!」


インパクトの瞬間、手首を捻って美香の木刀を弾き飛ばす!

神童とも呼ばれた美香の剣はそんなものでは怯まない。

すぐさま自らも体を入れ替え次の攻撃に移ろうとするも、

タケルの気勢は、彼女の次なる攻撃を留まらせたのである・・・!

その隙にタケルは背後に跳び下り、

在ろう事か戦いの構えを一度解いたのだ!

 「美香姉ぇぇぇっ!!」


姉を呼ぶ弟の声・・・。

それに対し、姉・美香の動きに・・・、

変化はない。

いや・・・動かないのだ・・・。

先ほどまで、

あんなに荒々しい攻撃を繰り出していた美香の動きが止まっている・・・。

攻撃の構えのまま、微動だにしていないが、

美香の瞳は弟に向け、一瞬たりとも逸らさない・・・。

 


 

 なんだ?

 様子がおかしい?


スサの一団・・・いや、術者であるハデスに至るまで、

この苛烈な戦いから、これまで目を逸らす事ができずにいた。

呼び出された魂の残骸・・・、

タケルの意識の中にこびり付いていた、美香の幻影・・・、

そんなものに高度な知能などあるはずもない。

「それ」に一つの目的を与えて動かし始めたら、

どんな理由があろうとも、その目的を失うことがないはずなのに、

・・・なのに今や、美香の亡霊には別の力が働いているかのようだ・・・。


 「美香よ、何をしている!?

 愛するお前の弟はそこにいるのだぞ?

 何をためらう!?

 早くその男の命を奪うのだ!」

 

 

対峙しているタケルには判る・・・。

目の前の美香の耳に、ハデスの言葉は入っちゃあいない。

そして、

その美香の瞳に・・・かすかな光が含まれていることを。

 確か唇の端から血が流れていたよな?

 消えているぞ、いつの間にか・・・。

 脇腹を貫いていた柱・・・、細くなっている・・・?


その時・・・わずかに彼女の唇が動いた気がした・・・。

 

 タケル・・・強くなったのね





 「美香姉ぇっ!?」


幻聴か!?

タケルの脳裏に一つの声が直接響く。

今や美香の表情は、生気を失った亡者の「それ」ではない。

ずっとタケルを見守ってきた・・・

懐かしい美香の顔だった・・・。

 「美香姉ぇ・・・、ま さ か・・・。」

 




 

だが、美香はタケルの声に応じることもない。

そのまま・・・

それ以上、変化を生ずることもなく、

そのままの姿、声でタケルをたしなめる・・・。


 構えなさい・・・

 そして・・・ 恐 れ な い で・・・


その言葉にタケルの血が沸騰してゆく・・・。

全身の体毛が逆立つ。

体中の細胞が活性化して行くかのようだ・・・。

それでいて震えるタケルの口は、如何なる言葉もつむぐ事はできない。

 

どれだけ時間が過ぎ去ったろう?

実際にはほんの数秒だけだったのかもしれないが、

やがてタケルは今一度、戦いの姿勢をとろうとする・・・!

 ここにいるのは・・・本物の美香姉ぇっ!!

 

 

傍で見ているマリアもこのあり得ない現象に目を見張る。

 「こ・・・これはっ!?

 まさか美香様に意識がっ!?」


だが、それ以上、

マリアですらも言葉を続けることができなかった・・・。

もうそれ自体、「結界」と言い切って差し支えない世界が、

美香とタケルの周りに張り巡らされていたから・・・。

応援や励ましの言葉すらもタケルは拒絶するだろう。

今や、二人の距離を邪魔することなど誰にもできやしない。

いま・・・タケルは姉の言葉に従い、

最後の構えに入る・・・。


そしてもう、彼の心に一切の怖れは・・・

ない!

 






次回、

姉弟対決決着!!



そう言えばデュオニュソスさん、あそこで何を言いかけていたのでしょうね、

生贄・・・?

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