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緒沢タケル編14 冥府の王ハデス 姉弟対決

 

 やっぱり・・・

 やっぱりまともな美香姉ぇじゃあないっ!!


タケルは構えに入ることで美香の甘いささやきを拒絶する。

 「美香姉ぇ・・・っ!

 く、こんなっ・・・!

 ハデスっ!! てめぇ、てめぇ絶対生かして帰さねぇぇぇっ!!」


激昂するタケルとは対照的に、

美香は虚ろな瞳のまま、

だが、

とても・・・とても悲しそうな表情を見せた・・・。

 聞き分けのない子ね、タケル・・・

 いいわ、

 また、昔みたいに一緒に教えてあげるわ・・・っ


ついに美香も木刀を構え、まるで試合に臨むかのような姿勢となった。

幼きタケルの記憶にある美香の姿・・・、

その死の最後の惨状と、ごっちゃになった不自然な姿が、タケルの前に揺らめく。

タケルは・・・彼女と戦えるのかっ!?


傍で目が釘付けになっている酒田は動揺しまくる。

 「あっ、あれよぅ?

 やばくねーかぁ!?

 タケルに美香様は消せねーだろっ!?

 そ、それにまともに戦ったって、美香様の剣術のほうが上だって・・・!

 そりゃあタケルだって強ぇーけどさ!?

 あいつには美香様へのコンプレックスが・・・!」


その質問は特定の誰かに向けたものではない。

誰か答えてくれるのなら誰だっていい。

勿論、酒田の考えは、その場にいる誰もが頭によぎらせたものだけれども、

しばらくしてサルペドンが一つの意見を出した。

 「・・・そうだな、酒田の言うとおりだ。

 だがもしかしたら・・・

 我々は運が良かったのかもしれない・・・。」

 「はぁぁぁぁっ!?

 どういうことっすかぁぁぁっ!?」

 


サルペドンは言い訳するかのように、

すぐに自らの言葉を翻した。

 「いや、私も確信はない。

 だが・・・、デメテルのテメノスで、

 タケルはアテナと戦った。

 そしてその時のタケルの感じたことは、

 姉・美香の剣技に自分が追いついたのではないかと・・・。

 いや、これまでの騎士団戦もそうだ・・・。

 ここに来るまで・・・

 タケルは一段一段、階段を登ってきたのだ。

 そう、まるで授業を受ける学生のように・・・

 運よく・・・?

 運なのか・・・!?

 まるで・・・いや・・・。」


誰もサルペドンの言いたいことを理解できず、思わすマリアが聞き直す。

 「サルペドン?」


途中でサルペドンは口をつぐんだ。

その考えはあまりにも途方もない考えだったから・・・。

まるで・・・美香の死から、

騎士団戦・・・そしてこのオリオン神群戦・・・、

全てがタケルの成長のために仕組まれていたなどと、一体誰が同意できよう。

勿論、サルペドン自身だって荒唐無稽な考えだとすぐに自分の考えを否定した。

ただ・・・そう言えば老神官ネレウスなら、この経過をどう捉えるのだろうか・・・?


サルペドンの心中などお構いなしに、酒田は自分の危惧を主張する。

 「い、いや、確かにタケル自身はそう思ってるかも知れねーけどさぁ!?

 実際の美香様の実力と比べてどうなんだよ!?」


そこはマリアの方が正しい判断を下せるかもしれない。

 「・・・いえ、

 正確な二人の実力の差など、もう誰にもわかりません。

 ただ酒田さん、

 あの場にいる美香様はあくまでも幻影です!」

 「ど、どういうこと?」

 「あの実像を作り出しているのはタケルさん本人だということです!

 どんな技を使おうと、どんな速さで剣を振るおうと、

 それはタケルさんの思い描いた美香様に過ぎないのです・・・!

 良くも悪くも・・・ですが・・・!」

 「じゃ、じゃあ・・・

 あそこにいるのは・・・

 美香様の霊魂でもなんでも・・・ねーんだなっ!?」

 「そ、・・・それは・・・。」

 


 

それ以上はマリアにも説明できない。

神秘主義や超常現象に明るいマリアも、正確にそれら全てを解き明かすことができるわけではない。

確かにマリア自身の説明は正しい。

美香の幻影が、タケルの記憶や精神状態から形づくられている事にも間違いない。

しかし、ハデスの呼び起こしたものが、

美香と無関係とは決して言い切れるものではなかった。

ここから先は、

誰にも予測できない事態にまで発展するのだから・・・。



一方、

肝心の二人はどうなっているのか?

美香は剣道で言う中段の構えからゆったりと剣先をくゆらせている。

自我など在りはしない筈なのに・・・。

いや、これは自我ではない・・・。

ただ一つの目的・・・、

その目的を遂行する為に、彼女は最愛の弟に剣を振るおうとしているのだ。


 ・・・さぁ、タケル・・・、

 お姉ちゃんのそばに・・・

 

これまで戦闘では無敵を誇っていたタケルが後ずさる・・・!

足場が悪い為に、ついついカラダを崩しそうになるが、ギリギリで持ちこたえてはいる。

一方・・・生前の美香はいざ知らず、

ここに「ある」のは実体のない虚像なのだ・・・。

どんな足場だろうと、よどみない歩みで美香は距離を詰める・・・。


タケルは現状を必死に理解しようとする傍ら、

溢れる過去の記憶も思い出さずにはいられない。

 美香姉ぇは木刀・・・!?

冗談半分でいつも脅かされたことはあったが・・・


 (タケル!

 言うことを聞かないと木刀を持ってくるわよ?)


しごかれる時はいっつも竹刀でぶたれていた・・・。

 (立ちなさい!

 あなた、男の子でしょ!!

 そんな泣き虫でどうするのっ!?)


普通に考えれば、木刀など真剣の天叢雲剣に比べようもないが、

先の騎士団の亡霊たちとの経験では武器を打ち合うことすらできなかった・・・。

今度も一緒だろう、

武器はすり抜ける・・・。

 

天叢雲剣の剣撃は、美香のカラダになんのダメージも及ぼさない。

逆に、先ほどライラックの剣を胸に受けたが、

捻じれるような苦痛は生じるものの、こちらも致命傷には至らない・・・。

日浦さんに首を絞められたときには、一時的に呼吸ができなかったが、

実際の武器と違って、いきなり命を奪われることはないはずだ。

だが、努めて自己の心を律しようとするタケルを、上からハデスが邪魔をする。

 「気をつけたまえよ?

 確かに幽体が直接キミのカラダを破壊することはない。

 だが、さっきの集団とのやり取りで理解できたとは思うが、

 首を絞められたと思えば、息ができなくなる。

 目を突かれたと思えば、視力が奪われるぞ?

 そして、万一、心臓を貫かれでもしてみよ?

 ショックで本当にキミの心臓は止まるかも知れん。

 まぁ・・・君自身はどうなのかな?

 この際、お姉さんの望みを叶えてやりたくはないのかな?」


 その口を閉じろっ・・・!

 これ以上・・・美香姉ぇを・・・

 俺たちを侮辱するなぁぁぁっ!!

 




次回、バトル開始。

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