緒沢タケル編14 冥府の王ハデス 突破口
久しぶりのホラー展開です。
その姿は、スサの仲間達の目にもはっきりと映っていた・・・。
しかし、あの騎士団の最高幹部達が、
今また彼らの前に立つなどと誰が想像できよう?
もうタケルの電撃は期待できない。
以前、一人一人ですらあれだけ苦戦を強いられたのに、
それが今や、3人同時などと・・・!
巨大な両手斧をかざしたガワンが地響きを立てるっ!
邪神の末裔よぉっ・・・!
いま・・・
地獄に送り返してくれっくれっくれるっ・・・!
口の動きがおかしい。ゼンマイ人形のように異様すぎる。
紅い髪をなびかせて、
長身の優男がゆっくりと近づいてくる・・・。
暗い・・・
そこにいるのは誰だい?
キミもこっちに来なよ?
オレの友人にもキミを会わせてあげよう・・・。
ライラック!
どうしてそんな気味の悪い笑い顔を浮かべているんだ?
そして・・・。
その亡霊は、顔につけていたサングラスをゆっくりと外した・・・。
おっ? キミはタケル君じゃあないか?
オレを覚えているかい?
大きくなったなぁ?
美味しいコーヒーを入れたんだ、
さぁぁ、一緒に・・・飲もうよおうううううっ!!
スピードもタイミングもバラバラながら、三人とも突っ込んできた!
一人一人になら何とか戦えるだろう。
だが、彼らを同時に相手に戦えるはずなどない!
しかも・・・幽体である彼らに、まともに剣で打ち合うこともできないのだ!!
ライラックの鋭い剣先が、天叢雲剣をすり抜けタケルの胸元を切り裂く!!
「ぐあああああっ!?」
なんだ、この痛みは!?
出血はない、
衣服も切れていない、
だがこの激痛は!?
それにその感触は通常の剣による痛みではない。
まるで、
その部分ごと、
肉体の組織をギュッと握り潰されていくような、抵抗しがたい苦痛!
それとも呪いにでもかかったという表現が正しいのだろうか?
続いてガワンが振りかぶってきた!
これだけカラダが萎縮している状況で、ガワンのパワーを受け止めれる自信などない!
今は「最強の硬度」を誇るルドラの鎧も装備していないのだ。
ギリギリでカラダを避けることに成功したタケルだが、
ガワンはかわされた勢いが余ったのか、両手斧を地面に突き立てる。
その瞬間、タケルの目は嫌でもその映像を焼き付けてしまう・・・。
ガワンの右手が、肘の部分から千切れ落ちてゆくのを・・・!
あれはオレが切り裂いた・・・。
そして振り向くガワン・・・。
いつの間にか、顔面も真っ二つに割れているじゃないか・・・!
さらに述べるならば、その顔面は左右がおかしな角度にずれて、
目玉も別々の方角に向いている・・・。
やめろ!
やめてくれ・・・っ、
そんな状態で笑い続けるなぁっ!!
それどころか、また自分の首筋にぬるっっとした嫌な感触が・・・
日浦さ・・・!?
あの日浦義純が、
虚ろな目をしてタケルの喉元に腕を回してきたのだ・・・!
振り向くと日浦義純の顔が、タケルの頬を齧り付きそうなほど迫ってきている。
タケルくぅん・・・
ほらぁ・・・、
オレらの仲間になろうよぉぉ?
美香ちゃんはどこ~ぉぉお?
キミも彼女に会いたいんだろぉ?
二人で仲良く一緒に探そうよぉぉぉ?
耳元で・・・
声が裏返っている!
日浦さんはこんな喋り方しないっ!
なんっでっ!
どうして・・・
酷い・・・酷すぎるっ!
これが彼らの望みだとでも言うのかっ!?
安らかに眠りについたはずの彼らを揺すり起こして・・・、
自然の摂理に逆らってまで、たたき起こす必要があるのかよっ!?
オレを攻撃するためだけにかっ!?
許さないっ、
・・・許さねーぞハデスっ!!
彼ら亡霊たちの言葉が、
本人たちの今わの際の本心なのか・・・、
タケルの妄想が生み出した幻なのか、
はたまたハデスの操霊術によるものなのかは一切わからない。
だが、
彼らとの真剣な戦いの結果を、他人に土足で踏み荒らされるようなこの所業に、
タケルの心は反発し始めた・・・。
怒りに我を任せてもいい。
けれど、ここでその感情を身に任せても、この局面を乗り切ることはできない。
そしてタケルは気づく。
彼ら亡霊を討ち払うすべを・・・!
一方、サルペドンたちは、あまりの凄惨な光景に口を開くこともできない。
天叢雲剣の放電が尽きてしまったことで、もはや何の手もないのか・・・?
サルペドンですら、どうすればいいのかわからない。
「ダメだ・・・。
天叢雲剣でさえ、効果をあげられない・・・!
銃撃を試みてもいいが、その前にハデスは姿を消すだろう・・・!
こんな時・・・、そうだ、
騎士団アーサーのエクスカリバーなら・・・。」
その発想にマリアはすぐに応じる。
「そうですね、
あの光の聖剣エクスカリバーなら、
亡者など一瞬で浄化できるでしょう。
でも私たちにも手が残されてないわけではありません!
サルペドン!
あなたも忘れているのですか!?
タケルさんに受け継がれている緒沢家の真価を!」
「マリア!? それは・・・!?」
そこで彼女は首を今一度、戦いの場に向け、
大声を出してタケルをいざなう。
「タケルさん!
彼らを倒すには・・・あなたの、
緒沢家の皆さんが伝えて来た祓いの剣を!!」
マリアの声がようやく耳に入ってきた。
そうとも、
自分は最初から知っていたはずだ。
緒沢家にはあらゆる魔を祓う剣術が伝えられてきたことを。
全ての邪を浄化する破魔の剣!!
「祓い」!!
次回、タケルに最大最後の試練。