緒沢タケル編14 冥府の王ハデス 甦る者達
ぶっくままた増えました!
ありがとうございます!!
今回きりが悪いので長めになってます。
デュオニュソスは、頭を上下に揺すり、タケルを上目で見つめながら、
ゲッゲッゲッ と笑っている。
その黄金色の瞳で・・・。
逆立つタケルの背筋・・・。
そして同時に膝から一切の力が・・・
「 うっ、 う・・・うわぁぁぁぁぁあっ!?」
「それ」が何を意味しているのかタケルには理解の範疇を越えていた。
人間の首がここに何故落ちて?
そしてそれが笑っている・・・
しかも自分が殺してしまったはずのデュオニュソスが何故ここに!?
死者を操るだとか、呼び出すとかは確かに今さっき聞いたばかりだ。
だが、よもや自分が手にかけた人間がこの場に現れるなど、全く想定していなかったのだ。
後続のサルペドンやマリアたちには何が起きているのかわからない。
見えるのは、タケルが足元に何かを見つけ、恐慌に襲われたということだけだ。
「タケル! どうした!?
何がそこにあるのだ!?」
こっ、・・・こっ!
言葉が出ない!
あまりの衝撃に口から何も出てこないのだ。
そして、
タケルを襲った恐怖はそれに留まらない。
・・・手足の皮膚にゾッとする感覚・・・
見えない何かがタケルの手足を抑え込んだのだ・・・!
はっ、放せ! サルペドンかっ!?
そしてタケルが自分にしがみついた者を振り返ろうする寸前にも、
その更なる異常にタケルは気づかされるのである・・・。
冷たいっ?
体温が・・・ないっ!?
そしてタケルは見た・・・。
自分の体を押えつけている二つの肉の塊を・・・。
肩口から切り裂かれ、その傷口が腐りかけている剃髪の男・・・
そして顔面がぐちゃぐちゃに破壊され、
首が有り得ない角度を向いている白髪まじりの老人・・・、
いずれもタケルが殺した筈だ・・・、
それは山の神トモロス、そして森の神シルヴァヌス!!
何故だっ!?
何故死んだはずの者達が動いている!?
死んでいる人間にのし掛かられて、どうしたらその手を振りほどくことができるのか!?
ようやくサルペドンたちにも、タケルの身に何が起きたのか徐々に理解し始めた。
シルヴァヌスはともかく、トモロスの姿はここにいる全員が目撃している。
そしてその「あり得ぬ」事態に、
誰もタケルを助けに行くという思考に至る事ができない!
酒田が叫ぶ。
「・・・何だっ!?
あいつは・・・死んでいるはずだろっ!?
それも地上でっ!
どうしてこの地下にまで戻ってこられるんだ!?」
ほぼ同時に、
グログロンガまでも興奮して、その疑問を抑えることができなかった。
「変だ、
タケルなら相手が二人だろうと、力づくで振りほどくことができる筈・・・。
何故タケルは抑えられている?」
サルペドンでさえ、明確に答えられない。
ハデスの能力はおぼろげながら知っている。
だが、自分のそれまでの情報では、今この事態を説明できないのだ。
スサの最後尾からマリアが必死に駆け上ってくる。
「サ、サルペドン!
あれは・・・死体じゃありません!
ハデスが呼び出した霊体ですっ!!」
「霊体!? あれがそうか!?
だが、私の目にもはっきりと映っているぞ!?
あれが幻の類だとでも言うのか!?」
「タケルさんに襲い掛かっているモノを、
『幻』と言い切ってしまうのは正確ではありません!
『彼ら』は確実にそこに存在します。
・・・ただし、それは物質的なものではなく、一種のエネルギー体・・・!
そしてその霊体を現実化させたのはハデスの能力ですが・・・。」
「ですが・・・何だ?」
「あそこまでリアリティを帯びさせてしまったのは・・・
タケルさんの自責の念・・・!
人が寝ていて、金縛りに遭う時、
やたらとリアルな映像を見てしまうときがあるでしょう?
怖いと感じれば感じるほど、真実味が増す・・・!
あれと同じです!
タケルさんが彼らの死を引き摺れば引き摺るほど・・・
彼らの姿は限りなく現実化してゆくのです!!」
や・・・
「やめろっ!
離れろっ! ち、近寄るなぁッ!!」
タケルにもはや、仲間の声は聞こえない。
醜い死体となった姿のトモロスとシルヴァヌスは、
まさしく恨みの表情を浮かべ、タケルに纏わりつこうとしている。
よくも・・・
よくも・・・我らを・・・
貴様のせいでこんな醜い体に・・・
貴様も我らと同じ暗い穴底に引きずり込んでくれる・・・!
腐ってゆく・・・
そうだぁ・・・
我らと一緒にぃ・・・貴様の体はぁ・・・
混じって腐っていくんだあああひゃひゃひゃああぁぁっ!
タケルはあまりにも無様に、手足をバタつかせてしまう。
接近戦では絶大な戦闘能力を誇るタケルが何もできない。
何故なら、
どんなに力を込めても、彼らのカラダを引き剥がすことができないのだ。
なのに、二人はタケルの抵抗などお構いなく、彼の手足を掴みかかってくる。
冷静になれば、
具体的に何かの攻撃をされているわけではないのだが、
当たり前のことながら、死体に襲われているという現象を生理的に受け入れることができない。
まるで二人に掴まれた所から、
カラダがドス黒く腐食していくかのような錯覚さえ覚える。
どうすりゃ・・・
どうすりゃこいつらを払いのけられるんだよっ!?
消えろっ! 触るなっ!!
頼むから消えてくれっ!!
オレが、・・・オレがお前らを殺したって?
し、仕方ないだろ?
お互い様じゃねーかっ!
理屈ではタケル自身、自分の行為を間違っているとは思っていない。
だが、それで割り切れるほど、まだ彼の心は強くもないのだ・・・。
山道の上で、ハデスは興味深そうにタケルの苦しむ様を観察している。
そしてその口は、自分で自分に説明しているかのようだ。
「・・・私自身、驚いている・・・。
ここまではっきりとした姿で、対象者に襲い掛かる例は稀だな・・・。
よほど、彼は繊細な神経をしていたのか?
よく今まで、殺し合いの連続に生き延びてこれたものだ・・・。
いや、・・・それかクラトスが良い働きをしたのかな?」
そのハデスの言葉が聞こえてきたわけではないが、
何故、ここまできてクラトスやビアごときを刺客に差し向けたのか、
サルペドンはその理由にようやく気づいた。
タケルの過去を糾弾し、彼の心を揺さぶりにかける・・・、
全てはハデスの姦計の一つだったのだ。
サルペドンは拳を握り締める!
そして当のタケルはパニックを起こし、
どうしても振り払うことのできないトモロスやシルヴァヌスに、一切の思考を放棄する!
バチィッ!!
天叢雲剣の電流が無差別に放電した!!
タケルの生理的な拒否反応が、そのまま精神の暴発となって雷撃能力を発現させたのだ。
するとどうだ?
電撃が広がった部分から、トモロスたちの体が崩れてゆく!
効果があるのだろうか!?
「うおおおおおおっ!!」
恐慌状態からの360度全方位放電ッ!
みるみるトモロスたちは、その形態を維持できずに体を崩壊させてゆく・・・!
これはハデスにとっても初めての経験なのだろう。
「ほぉぉ?
これは驚いた・・・!
電撃は霊体に有効なのか?」
ミィナが全力で応援する。
「タケル! 負けるなーっ!」
どうやらタケルを有利と見て、応援する余裕が出たようだ。
しかしマリアは安心できない・・・、
むしろ危惧を覚える。
「いけません!
あの天叢雲剣の使い方は・・・!
精神集中がめちゃくちゃ過ぎます!
あれじゃすぐに精神力は枯渇してしまう!」
元来、天叢雲剣は神経を研ぎ澄ませてより発現する。
それにより高圧力・高エネルギーの電撃が発生するのだ。
今のタケルのやり方では、
広範囲にだらしなく漏れ出る電流が、たまたま周囲の霊体にダメージを与えているに過ぎない。
甚だ不効率な使い方なのだ。
とはいえ、それだけタケルは混乱していた・・・。
とにかくこいつらさえ消えてくれればどうだっていい!
ハデス本人だけなら電撃など撃たなくても倒せるはずなのだ。
ところがどうだろう?
電撃で体が崩れたはずのトモロスにシルヴァヌスは、
まるでビデオが逆再生するかのごとく、しばらくすると元の形に戻り始めたのだ!!
「そっ、そんな!? どうしてっ!?」
上のほうでハデスが笑っている。
「ふっふっふ、それはそうだよ、タケル君、
・・・彼らの生前の姿を形作っているのは、他ならぬ君の心なのだよ?
君の心が壊れでもしない限り、彼らの姿だって壊れることはない。
電撃で形が崩せるのは、ただの一時しのぎというわけだ!」
それならっ!!
タケルは必死で天叢雲剣で彼らの姿を切り裂こうとする!
だが、やはり無駄だ。
目には見えているのに、剣は霞を切るかのごとく、全く手ごたえを感じられない。
さっきは確かに実体があった筈なのに!?
やはり電撃しか効果がないのだろうか?
タケルの更なる放電っ!
一時しのぎだろうと構うもんか!
少なくとも奴らの体が保てない間は、亡霊どもはタケルを攻撃できない!
なら・・・少しでも時間を稼げば、その間にハデスを!!
タケルがその目にハデスを捉えようとした時、
いつの間にか、彼の眼前に黒い影が揺らぐ・・・。
あれは・・・!?
そしてほぼ同時に銃声のような発砲音と、タケルの肩に激痛っ!
「グワッ!?」
銃撃!?
・・・オリオン神群に銃を使う奴など!?
いや・・・
この痛みは覚えがある。
黒い影、それは黒いライダースーツに身を包んだ男・・・。
あの男は・・・確か・・・
騎士団
東欧支部支部長・・・名誉ある騎士
モードレイユッ!?
次回、モードレイユの本名(下の名前も)公開・・・
そして更に・・・タケルが殺したあの人達が。